オバマの急ブレーキが中東を変える (2013/10/07)

「一線を越えたら攻撃する」とシリア攻撃を宣言していたのに、一転して攻撃に急ブレーキをかけたオバマ大統領。国内では不評のようだが、いま中東の枠組みが大きく変ろうとしている。
 その1はイランの国際社会への復帰だ。ニューヨークでの国連総会で、米国、イラン双方の外相が会談したあとオバマ、ロウハニ両大統領が電話会談したことで、1979年2月のイラン・イスラム革命以来断絶していた両国に国交回復の兆しが見えてきた。
 イランの対応も素早かった。オバマ・ブレーキの直後、最高指導者ハメネイ師が、これまでアフマドネジャド前大統領を支持してきた革命防衛隊に対し「政治の前面にでるべきではない」とけん制、ロウハニ路線支持を鮮明にした。イランの戦略転換には、経済制裁で疲弊したイラン経済と国民生活を再建しなければならないというときにオバマ・ブレーキがかかり、「渡りに船」となった。間もなく西側にイラン・ブームが起きるだろう。
 その2は、イスラエルへのメッセージだ。もし、米国がシリアを攻撃したら、レバノンを拠点とするシーア派戦闘集団ヒズボッラーが米国の同盟国イスラエルにミサイルを討ちこみ、イスラエルもこれに報復する。ガザではこれに呼応してハマスが軍事行動に打って出る、と同時にヨルダン川西岸ではインティファーダ(大衆蜂起)が発生する・・・というシナリオが描けた。
 イスラエルはこの混乱に乗じて、ガザの軍事拠点を叩き、イランの重水炉を空爆してイランの核武装に終止符を打つ。オバマ政権が仲介するパレスチナ和平を一挙に潰したかもしれない。その機会を失ったイスラエルは、イランの核放棄と抱き合わせに、秘蔵する核ミサイルの破棄を国際社会から迫られるだろう。
 その3はアラブ諸国への警告だ。「アラブのことはアラブの手で」といいつつ、この半世紀、問題の解決を東西勢力に委ねてきた。米国のシリア介入が消えたことで、シリア解決のボールはアラブ・コートに投げられた。そのためにはアラブ世俗主義の盟主エジプトが立ち直り、宗派対立の色濃いシリア問題やイランとの関係改善に当たることになる。
 ナセル時代、ムスリム同胞団の亡命者を受け入れたサウジアラビアは、同胞団を危険視してエジプト軍事政権を支援する。すでにサウジなど王制産油国計120億ドルの巨費をエジプト新政権への援助を決めている。残る問題はシリア反政府軍に紛れ込んでいるアルカイダ系過激派をどう排除し、壊滅させるかだ。
最首 公司 エネルギー・環境ジャーナリスト
東京生まれ 上智大学新聞学科卒業後、東京新聞入社(のち中日新聞と合併) 主としてアラブ、エネルギー問題を担当日本アラブ協会理事GCC研究会を主宰している。 著書 『聖地と石油の王国 サウジアラビア』、『人と火』、『水素社会宣言』など。