“デッサン”って言葉があるでしょ。
絵を正確に描くことは“デッサン力(りょく)”っていうんだ。
だけど、カッコ良く描くことは“デフォルメ”なんだ。
同じように、人の心の奥深くまで掴むのが“心理デッサン”。
人間の心の歪みをキャラに仕上げるデフォルメ力を“心理デフォルメ”
僕は、そう名づけてみた。
これまで無かったこの用語を使って、いろんなマンガの説明をしてみるね。
たとえば『デスノート』
この作品の絵のデッサンは上手いけど、絵のデフォルメは普通なんだ。
小畑さんの絵って、メチャクチャ上手いけど、デフォルメが普通だから、極端に歪んだ決めポーズをあまり描かないんだよね。
それを描かなくても済むんだ。
心理デッサンはハッキリ言って下手なんだ。
つまり、「人の心」のやり取りはすごく上手いんだけど、「なぜ人はそんな行動をしてしまうのか?」という動機付けを掴むのは下手なんだ。
でも心理デフォルメは上手い。
だから異常なキャラクターを描くのは、すごく上手いんだよね。
次は『暗殺教室』
暗殺教室は絵のデッサンが明らかに下手なんだ。
でも絵のデフォルメは普通。
つまりマンガとしては成立している。
ところが心理デッサンも心理デフォルメも超上手いんだよ。
つまり、「生徒を心配する教師の心」は、メチャクチャ描ける。
これが心理デッサン。
そして心理デフォルメが上手いから、人を殺す側のキャラも描ける。
この作品は最終回で“殺せんせー”をクラス全員でちゃんと殺してしまう。
そんなラストが描けて、それを感動に持っていけるのは、きちんと心理デッサンが取れた上で、心理デフォルメを作れてるからなんだよ。
ここは凄いよね。
そして『3月のライオン』
絵のデッサンは普通だと思うけど、絵のデフォルメがメチャクチャ上手い。
なので、味のあるキャラクターの書き分けが上手い。
たとえば二階堂君に一緒に付いている“じいや”とか、科学部の部長とか。
そういうキャラクターの書き分けが上手い。
心理デッサンは天才だよね。
特に11巻。
あかりさん達のお父さんが来て、自分勝手な理屈を言うんだけど、それに対して主人公が言い負かしていく時の積み重ね。
「お前はどれだけ人間心理を見てるんだ」って内容になってるんだ。
それに対して心理デフォルメは普通だから、怪物っぽいキャラクターは出せない。
だから、すごくリアリティーのある話になってる。
そして、お待たせ『ジョジョの奇妙な冒険』
絵のデッサンは下手です。
これは荒木飛呂彦先生のファンには悪いんだけど、文句があるなら荒木飛呂彦 初期作品集の『武装ポーカー』を読んでください。
下手です。
構図も絵も下手です(笑)
ところが絵のデフォルメがとんでもなく上手いから、変な柄の服でもカッコ良く描けちゃうんだよ。
ファッションセンスも凄いんだよ。
だけど、良くはない。
普通は着れないんだよ(笑)
荒木飛呂彦のデザインは、キャラがカッコいいからオシャレに見えちゃうってのがあると思う。
ジョジョの第五部に、次々とイタリアンマフィアの不細工なオッサンたちが出てくるでしょ。
彼らがそれなりにカッコいいのは、デフォルメ力が凄いからなんだよね。
そして心理デッサンは下手です。
荒木さんの単行本とか、映画のレビューを集めた本を読んだら、それなりに心理を見てる。
だけど、「普通の人間が、なぜこんな事をするのか?」という描写が、『3月のライオン』とか『暗殺教室』に比べたら、ぜんぜん下手なんだよね。
心理デッサンが取れてない。
その代わり、心理デフォルメはすごく上手い。
本当に超天才。
だから、「なにかとスグに漫画にしたがる漫画家」とかを出したら、キャラクターがメチャクチャ面白いんだ。
荒木飛呂彦って、やっぱりデフォルメの天才なんだよね。