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岡田斗司夫のニコ生では言えない話
 岡田斗司夫の解決!ズバっと 2016/01/10
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おはようございます。

今日は『解決!ズバッと』はお休み。
情報サイト『探偵ファイル』に掲載したコラムをお届けします。


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「もっとお笑い番組を面白くしたい」

(元記事はコチラから)


 年末にはお笑いの賞レース、が毎年の光景になっている。
 10年続いて終了したM-1グランプリが、5年ぶりに復活した。
 これは見るしかない。
 M-1グランプリとは、年に一度、漫才日本一を決めるコンテストだ。
 僕にとっては年末の大切な楽しみの一つだ。

 で、今回この探偵ファイルで語りたいのは、誰が優勝したとか、最近の傾向とかではなく、M-1の採点方式について。

 採点法というのは、どんなものを採用しても、どこかから文句は出る。
 M-1の場合、文句が出ないように気を使うべき相手は3種類考えられる
 1)出演する漫才師
 2)番組製作者側
 3)視聴者

 1)出演する漫才師にしてみれば、マンザイがわかる同じ漫才師の人に納得のいく採点をしてほしい
 2)番組制作者側としては、視聴率のとれる番組にしたい。
 3)視聴者としては、番組を見ていてワクワクするのが大事。

 この1)~3)、すべてを満足させることはとてもむずかしい。
 でも、現実的にできるだけすりあわせするのがテレビ放映するイベントの使命だろう。

 まず1)について。
 出演する漫才師が納得できる採点方法とは?

 漫才に点数をつけるのはおかしい、という考え方がある。
 明石家さんまなどお笑いの大御所には、「順位なんて決められない」という意見も多い。
 でも、そんなことを言い出したら、どんな芸術作品も、クリエイティブな商品も、順位なんてつけられない。
 映画だったらアカデミー賞、歌だったらレコード大賞と順位はつく。
 テレビのゴールデンタイムに放送するコンテスト番組に「順位が付けられない」などというのは、単なるアーティストのわがままだ。
 ということで、「漫才に点をつけられない」は、却下。

 漫才師が言う「じゃあ、せめて漫才師が自分たちの順位をつけてくれ」という意見。
 これは採用しよう。

 次は2)
 制作者が納得するのは「視聴率がとれる採点方法」だ。
 番組の制作者側としては「視聴率をとりたいから、点数じゃなくて、トーナメント制にしたい」という意見もあるらしい。
 確かに盛り上がるけど、最後の方になると、残っている人の中から誰が優勝するか、予測がついてしまい、見ている方がつまらない。
 却下。

 そうじゃなくて、一組ごとに点が発表されて、順位が変わって、喜んだり、悲しんだりする。
 そういう残酷なものを、視聴者は見たがっているのだ。

 M-1は年末のゴールデンタイムに放送する目玉番組で、すごくお金かけて作っているわけだから「数字がとれる」は大事。
 誰が最後まで残るのか、わからないようにするべきだし、そのために残酷な「逆転劇」もあってほしい。
 というわけで対戦方式ではなく、数字評価方式を採用。

 最後は3)
 出演順に点数をつける方式だと、最初の出演者が不利になる。
 実際に、最初の出演者がかなり面白くても、全体の中でどれくらいおもしろいのか最初は予想がつかない。
 そのため審査員は、様子見として、どうしても平均的な点数をつけてしまう。
 今回の第一出演者『メイプル超合金』も、かなりおもしろかった。
 でも、審査員の半分近くが「最初だから」ということで、平均的な点数として89点を付けた。

 うしろの方にいくほど、審査員は安心して、おもしろいと感じた人には、点をあげてくる。
 どうしても、最初の方の出演者が不利になっているのがわかる。
 それが見ていてもわかるので、視聴者としては釈然としない。

 また、審査員の人数が多ければ多いほど、点差が開かない。
 この審査員が、この芸人を強く押したとか、こっちの審査員がこの芸人にダメ出ししたとか、そういう個性や、それに対する出演者たちのリアクションも見ることができない。
 視聴者から見れば、無個性で無難な採点に映ってしまう。

 視聴者は、妥当な採点を見たいわけじゃない。
 採点されたとき、漫才師がどんな顔をするのかを、つぶさに見たいだけだ。
 だから、漫才師が審査員をするのはいいけど、今回のように9人もの審査員が百点満点で点をつける、という方式は面白みに欠ける。

 今回のM-1グランプリは「マンザイは面白かったけど、番組としてはイマイチ」と僕が感じたので、ゲーム理論に基づいた新しい採点方式を考えてみたい。

 方法はシンプル。
 「審査員は漫才が終わるごとに、それまでの全順位を再入力する」だ。

 例えば、一組目。
 今回だったら、メイプル超合金。
 これは、審査員全員「一位」と入力。

 次の二組目。スーパーマラドーナ。
 二組目が終わったら、どっちが一位で、どっちが二位だったか、入力。
 三組目以後は、あらためて三位までの順位を確定する。

 採点方式は、一位、二位、三位、四位、・・・をそれぞれ、1点、2点、3点・・・として、合計得点数を出す。
 その時々の得点合計数が一番小さい出演者が、その時点でのトップという仕組みだ。

 もちろん審査員ごとに、入力順位も公開される。
 どのコンビをどう評価したか、ひと目でわかる。
 つまり、責任が明確になる。

 この「逐次順位入力方式」だと、常に順位が入れ変わる。
 発表のたびに、出演者全員がドキドキする顔を見れて、視聴者は楽しめる。
 イコール視聴率も保てる。
 最後の最後での大逆転もありうる、ということになる。

 というわけで、百点満点で採点するという古典的な方法ではなく、常に変動する順位付け方式をおすすめしたい

 1)出演する漫才師にとっては、
   最初に出ることの不利も是正される
   全員、漫才師が採点してくれる
   一番、不満は少ないはず

 2)番組製作者側にとっては
   困った顔、喜ぶ顔、泣き顔、がっかり顔などが見せられる
   最後まで、優勝者の予想がつきにくいので、視聴率がひっぱれる

 3)視聴者にとっては、
   もっとも不公平が見えにくい、納得できる審査システム。

 来年からM-1は、この「全員が何位かをつける方式」にすればいいのではないだろうか?
 手間もお金もかからないので、ぜひおすすめしたい。

 と、ちょっと偉そうに書いてみた。
 テレビとお笑い、両方が好きだからこそ「マンザイは面白いけど、番組はイマイチ」という現状になにかできないか、というお節介でした。
 おそまつ!


以上、情報サイト『探偵ファイル』よりお届けしました。
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