room6が2月4日にニンテンドースイッチ(以下NS)でリリースした『7年後で待ってる』。

本作は、2017年8月に個人開発者fumi氏がiOSとAndroid向けにリリースしたアドベンチャーゲーム。エンディングまで無料でプレイでき(一部クリア後特典は有料)、全世界600万ダウンロードを記録。今回リリースされたNS版は、モバイル版で“課金”によってアンロックされる追加要素(※エンディング後に解禁)も含まれている。

https://youtu.be/Y0OpYbvM69s

ひとりの青年が記憶を取り戻す物語

主人公「空木ハルト」は、“何らかの理由”で幼少期の記憶がない17歳の青年。しかし“ある約束”だけは憶えているという。それが本作の題名にもなっている「7年後で待ってる」というもの。顔も名前もわからない誰かと、「7年後の4月1日」に会う約束をしているようだ。そこで物語は、春休みに両親と故郷の町に戻ってきた3月29日月曜日、約束の日まであと4日というところから始まる。

登場人物やフィールドなどボクセルアートで描かれた世界観は、多少移動しにくいことを除けば、独創的で面白く“いい味”を出している。キャラクターは2頭身で表情が変わらない分、「!」「?」「…」などの吹き出しによって感情が表現されており、コミカルで愛おしい。

音楽は本作用に作成されたものではなく、CC(クリエイティブ・コモンズ)などから使われているが、どれも恐ろしいくらいシーンに合致しており、「よく見つけたなぁ」とオリジナル曲ではないことが信じられないくらいで、ひたすら感心しきり。

伏線回収が気持ち良すぎる!

本作はストーリーのドキドキワクワク感を味わう“アドベンチャーゲーム”という性質上、レビューも“ネタバレ”に最大限配慮して書く必要があり、いかに具体的な話の内容を出さずに、そのタイトルの良いところ、そうでなかったところを読者に伝えなくてはならないのである(そこが書き手の腕の見せどころでもあるのだが……)。

そんな本作であるが、殊の外シナリオが素晴らしく、とにかく“読ませる”。本編は全40チャプターで構成されているが、息もつかせぬ展開で、グイグイと引き込まれてしまう。プレイ中は「なぜ!?」「うわぁ……」「そうきたか!」という独り言が止まらない。また、伏線の回収の仕方が非常に芸術的で、特に終盤の“怒涛の伏線回収ラッシュ”は「そこかー!!」と何度も叫んでしまうこと請け合い。本編で回収されなかった伏線もいくつかあるが、本編の終了=物語の“完結”ではないはずだ。

ハリウッドから映画化のオファーがあったと作者fumi氏は自身のブログに書いているが、ハリウッドもきっとビックリの劇的なストーリー展開は、テキストを読む手が止まらなくなるだろう。

なお、本作はアイテムもなければ「選択肢」も現れず、物語が変化しそうな“分岐点”も見当たらなく、本編のエンディングも1種類しかないと思われる。はっきり言ってしまえば、目的の人物に話しかけて、調べるべき場所を調べれば、誰でも“クリア”可能だ。謎を解いたり、スキルを上げたり、なにかを集めたりしなくても、最後までクリアできる“ゲーム”……。

「これはゲームなのか?」と考えて、思い出す“ある一言”
「やらずにすむゲームはないか?」

これは25年以上前の、とある4コマ漫画のひとコマである。まず、一般的に、敵を倒して強くなったり、すごいテクニックを身に付けて困難を乗り越えたり、難解な謎を解いて先へ進んだり、何らかの“行動”を起こして、達成感やカタルシスを得られるのが「ゲーム」ではないのか? その行為に“やりがい”を見出すのが「ゲーム」ではないのか? それなのに「やらずにすむゲーム」とはこれ如何に……と思ったものだ。

本作は基本的に、動き回ってテキストを読むだけなので、「果たしてこれはゲームといえるのか?」「なにか行動を起こして結末が変わったりしないのか?」と、話を進めながら考えていた。そこで思い出したのが、前述の「やらずにすむゲームはないか?」という一言だった。

行動を起こしてやりがいを見出し、なにかをクリアすることでカタルシスを得るのではなく、途中で行き詰まるような壁もなく話を読み進めるだけでカタルシスを得られるゲーム、それが「やらずにすむゲーム」なのではないだろうか。しかしそれも、本作にはしっかりと練り込まれたシナリオがあったから成立したのであって、単調で大味なシナリオでは、本作と同じ手を使ってもただただつまらなく、苦痛に感じるだけだろう。それが本作の“すごいところ”である。

一番印象に残ったのは……

本作は、“クリア後の追加要素”まですべてクリアすると、それぞれのキャラクターの個性を十分理解できるので、より一層物語の深みが増してくる。特に、「なぜあのとき、あの人があんなことをしたのか?」「なぜあの人はあそこにいたのか?」という“謎”も解決するので、ぜひ最後まで読んでもらいたい。ちなみに大体10~12時間程度で、本編と“その後”を含めたすべての物語を読むことができる。

ネタバレにならない程度に、筆者が個人的に一番印象に残った人物を挙げるとすれば、「二瀬カンナ」一択だろう。カンナの一連のエピソードが泣けて泣けて仕方なかった。とにかく彼女の健気さに涙が止まらなかった。

息を呑む急展開からシンプルに感動する展開まで、サクサクと読み進めたくなるシナリオの中毒性が気持ち良い。「最近のゲームはあれこれ覚えることが多すぎて……」「腰を据えてじっくりゲームをやり込む余裕がない」などと諸事情があって“ゲーム離れ”が起きているゲーム愛好家にもおすすめしたい「やらずにすむゲーム」で、前述の通り10~12時間ほどで完結するが、何日かけてでも「最後まで終わらせたい」と思えるような魅力のある一本だった。

7年後で待ってる(公式サイト):
https://www.7yearsfromnow.com/[リンク]

7年後で待ってる(マイニンテンドーストア):
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000034827.html

文/浦和武蔵

(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)

RSS情報:https://getnews.jp/archives/2952552