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今週のお題…………「私と『大武道』」
文◎田中正志(現『週刊ファイト』編集長)…………木曜日担当
『大武道!』、東邦出版より1300円発売中だ。最初、ぱっと見で「ダイブドウ」かと思ったら、「Oh!BUDO!」とふってある。なるほど、表紙がそれで葡萄なのか。濃い青と紫のイラストが凄くイイ。ちゃんとしたものが読みたい、ネットの垂れ流しは沢山だという意識的なファンは、第一印象はとても良い。
谷川貞治編集長の「発刊のご挨拶」に続いては、極真世界大会で外国人に初めて王座を取られた数見肇師範インタビュー、ヒクソン・グレイシーに締め落とされたパンクラス創設者・船木誠勝インタビューが続く。しかし、第一号のテーマだとする「恥」に関しては、格闘家2名の答えは、聞き手が望んだものではなかったのかもだ。但し、後者を担当した安西伸一記者の「15年越しの思いがかなった」は救われる。当時の週刊プロレスと、格闘技通信が「世紀の一戦」をどう扱うのか、プロレス側の宍倉清則次長とお互いの編集スタンスを譲らなかったくだりもある。
ターザン山本は、「聞き手/谷川貞治」「合いの手/山口日昇」が、東京ドーム「夢の懸け橋」から始まった没落・・・そして『週刊プロレス』”追放”から20年!とある。このブロック項の扉ページ部分、リード文が素晴らしい。こんな美味しい叩き文句は、もっとネットの流し読み諸氏の目にも触れるべきなので、ここにコピペでなく、雑誌からタイプを打ち直す。
週刊プロレスを公称40万部という化け物雑誌へと導き、当時のほぼ全団体を集めたプロレスオールスター戦を東京ドームで開催。まさにわが世の春を謳っていたターザン山本。あれから20年。ありとあらゆる痴態と醜態を見せ続けたターザンの考える「恥」の概念とは何か。
格闘技とかプロレスだけ趣味の方には余り知られてないのかもだが、ヘビメタ音楽というマニアックなジャンルの日本盤オビの叩き文句センスとか、売り出しのキャッチコピーは上記123字の前口上に感性が近い。「来年70歳になる」と広言するターザンは、「武道は限りなく生き方を問われる世界」と定義を始めるのだ。1993年に結成されたスウェーデン・ヨーテボリ出身の「北欧メタル」ハンマーフォールは、ギターのオスカーがプロレス・格闘技マニアとしても知られている。最新作『(r)evolution』には♪BUSHIDO(武士道)という曲が収録されており、PVビデオ版は彼らの作品ジャケットに登場するマスコットの鋼鉄神ヘクターが、お約束でサムライになる。オスカーは伊藤政則のインタビューでPRIDE武士道のことも指摘しているし、また以前には、同じテーマだが英語表記の♪Way of Warriorを発表していて、再び「信念を持った生き方」を取り上げた意図を話していた。
外国人に、武道だの、武士道だのはわからないというのは単なる偏見・誤解であり、真っ赤なウソだ。むしろ深く研究している奴は世界中に多い。ちょうど今頃から毎年話題になる赤穂浪士、忠臣蔵なんかも、同じく海外でクリスマス前とかに、さまざまなバージョン(日本製吹き替え版や、海外物)が末端のケーブル局とかで放送されている。
9・27UFC日本大会、ジョシュ・バーネットと親交があり、彼がヘビメタ好きなのを知っている記者は、前出「北欧メタル」ハンマーフォールの最新作Tシャツを着てオクタゴン金網の撮影に臨んだ。メインは短期決戦の期待を裏切り、ロイ・ネルソンと5Rフルの殴り合い。ジョシュが「プロレスなめんなよ!」と、事前に練習した決め台詞を吐いたが、派手な試合に出来なかったジョシュは「約束が違う」とロイに詰め寄っていた。二人とも、ヘビー級としては異常なスタミナと根性を見せつけた意地の張り合いだった。判定とインタビュー収録終わって直後、「タナカさん、ナイスTシャツ!」と手を挙げるんで焦った。楽屋裏なら構わないが、最後のトリが終わったばかりで、まだ皆が見ている金網の中からだったからだ。ピュアメタルと称される伝統様式美追及のハンマーフォール愛好者なら、なぜ”キャッチレスリングの伝道者”ジョシュが記者のTシャツに過剰に反応したかわかるだろう。
雑誌『大武道』、読みごたえは十分だ。あわよくば、海外の武道オタクとかまでバンバン登場させたら面白いと思う。達人幻想も素晴らしいが、宮本武蔵の『五輪書』がいかにあらゆる国の、あらゆる言語で浸透しているかとか、意外と肝心の日本人が知らないと思うからだ。記者(兼カメラマン)はWWFなどまだロカールテリトリー時代で、毎月ニューヨークMSGで定期戦があった時代の映像なら、リングサイドで撮影する長髪姿が毎月映像記録に残っている。合計で17年強アメリカで生活していたから、「サムライ」「武士道」とかは真面目に知られているし、信奉者なんかも多いのを肌で実感している。
例えば70歳になったエリック・クラプトン、PRIDEの会場見に来て、ライバル?ジェフ・ベックの♪スターサイクルが入場曲にかかったりするのをのけぞって見ていたが、彼もまたサムライ映画に異常に詳しいアーティストだ。ただ、余り格闘技やプロレスの媒体ではマジにギターの神様が武士道等に詳しいことが紹介されていない。「マスター(師範)は最後まで闘わない」とか、彼が気に入っているのは哲学であり、人生訓である。アルコールとドラッグで隠居していた時代、英国サリー州にある豪邸のケーブルTVでサムライ映画ばかり見ていたというのは誇張ではない。
歌手ホイットニー・ヒューストンを守る映画『ボディーガード』のケビン・コスナー演じるキャラは、黒沢映画を何十回見ているという寡黙な男の設定だったが、その前にはショー・コスギとか忍者映画ブームもあった。密かに日本刀持っているマニアとか、世界中にうじゃうじゃいる。
アメリカの論客やサムライ研究家たちに、巌流島イベントのDVD送って、日本の格闘技はどうあるべきかアンケート配ったら、斬新な意見や発想が出てくるかも知れない。