今週のお題…………「なぜUFCは成功したのか?

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文◎山田英司(『BUDO-RA BOOKS』編集長)……………火曜日担当



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私がなぜPRIDEもUFCも見ないのか?それには深い訳がある。
 
「UFCはなぜ成功したのか?」と聞かれても私は見たこともないし、興行に携わったわけでもないので答えようがない。PRIDEの時に書いたとおりだ。しかし、こう書くと、私が格闘技に興味がなかったり、熱心でないから見ない、と思われるかもしれない。別に他人からそう思われても全然構わないのだが、どうせなら、「格闘技情報を発信するという行為に潜む危険性」や「内包する功罪」という点を考察した方が、UFCの考察なんかより、よっぽど巌流島にとって有益だろう。
 
 
昔から日本人は喧嘩になると組み合う。喧嘩のことを「取っ組み合い」というくらいだから、伝統的にそうなのだろう。よく、日本人は鋸を引いて斬るが、西洋人は押して斬る。それほど日本人は肉体的に引く筋肉が発達している。だから柔道や相撲のように引き合う戦い方が主流となった、という説がある。一見もっともらしいが、私はあまり関係ないと思っている。
 
平たく言えばテレビの影響だろう。日本人は子供の頃からテレビで相撲を見て育つ。我々の世代も、戦いと言ったらそれしか知らなかった。親や学校の生徒が喧嘩のやり方を教えてくれる訳ではないので、唯一の情報源であった。その後はプロレスやボクシングなどの映像情報も入ってきたが、子供の頃にインプットされた情報の影響力は大きい。
 
 
「私がK-1が凄い」と思った理由は、子供の喧嘩の仕方が変わったと聞いたからだ。一時、小学生の喧嘩は回し蹴りの応酬だったそうだ。それほど、一時のK-1は、テレビで圧倒的な情報量を流していたのだろう。
 
ムエタイの本場、タイではデモをする学生と軍が集団で戦う時も、蹴りの応酬を行う。女性や子供が喧嘩する時もそうだ。私の知り合いに、子供の頃から一度も喧嘩に負けたことがない、という女性がいたが、彼女は口論になると腕組みをして、黙って相手の言い分を聞く。その内、怒りが頂点に達してくると、自然に右のハイを一閃。大の男も一発でのびる。
 
「どこでムエタイを習ったんですか?」と聞くと、タイ人なら誰でもムエタイはできる。子供の頃から、毎日テレビでムエタイを見てるんだから、と答えた。
 
それ程、映像の力は大きい。総合格闘技がテレビで放送され、立ち技の選手が寝技で敗れていくシーンが繰り返し流されれば、「寝技の方が強い」と見る者は思う。これは当然だ。しかし、この無意識の刷り込みが、やる側の人間には、致命的になるケースがある。
 
 
そもそも全ての格闘技は現実の多様な局面を切り取った局面練習である。なぜ、局面を切り取らねばならないかと言えば、戦いとは恐怖心を伴うものであるため、強くなるためには、本能と逆行する、後天的な動きを身につけねばならないからだ。
 
ボクシングでは腰より下に頭を下げずに、両拳だけで殴り合え、という、考えたら、極めてムチャなルールがある。しかし、互いにその約束を守るから、最も恐怖心を感じる顔面の殴り合いがうまくなる。
 
極真空手は、それまで寸止めだった突きや蹴りを実際に当てる、というルールだから、素手の突き蹴りが強くなる。
 
柔道は突き蹴りを禁じて、投げ合いに特化したから、投げが上手くなる。
 
それぞれ、特化した能力を体得するために、他の技を禁止にする。そんな物をゆるしたら、ボクサーは打ち合いを避け、空手家は突き蹴りを避け、柔道家は投げ合いを避けてしまう。そう、強くならないのだ。
 
しかし、それを許してしまったルールが近年できた。それが総合格闘技だ。パンチに対しては打ち合いを避け、タックルに。蹴りに対しては掴んで寝技へ。柔道家には打撃で。それぞれ相手の土俵で戦わずに、勝利を得ることがこのルールでは可能になってしまった。
 
本来、実戦の多様な局面に対応するために発達した格闘技の盲点をつけば、このルールでは勝つことができる。このルールが最強ならば、始めからこのルールで勝つことを目指せば良いではないか。当然そう考える人間が大勢出てきた。
 
私の周囲にも、顔面なしのフルコンルールをやっている知り合いが沢山いるが、彼らは顔面無しの欠点を補う為に顔面有りをやるか、というとそうはならない。そんな怖いことをやるより、タックルを学んだ方が早いからだ。顔面への恐怖心が抜けない人間が一度タックルを覚えたら、もう引き返せない。そこから、本能に逆行する後天的な技を身につけることは、上達論的にほぼ不可能だ。
 
実際、総合格闘技に参戦している某空手団体など、徹底して殴り合いをさけ、タックルに入ることを基本にしている。だから空手団体なのに、一切の打ち合いが無い。本来は突き蹴りの能力を発達させることが空手団体の役割りなのに。まさに本末転倒である。
 
 
これは極端な例だが、格闘技や武術の構造を理解していない一般の人には、いや、知らないからこそ、さらに映像の影響力は大きくなる。その影響は、やる側の人間にとって、上達論的にも、しばしば弊害をもたらす。私が致命的なケースがある、と言った理由がおわかりになっただろうか。
 
そして、私がPRIDEやUFCなど、あまり興味がなく「見ていない」と言った理由も。




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