この連載を読んで下さっている皆さんは、名刺をお持ちだろうか?

会社員、自営業、フリーランス。働いている方であれば大抵は社名や肩書きの入った名刺を持ち歩き、まさに自分が何者であるのかを相手に説明するための大切なツールとして活用されていると思う。

名刺はまさにアイデンティティ。自己同一性という訳にふさわしく、生業としての職業は、その人の人生そのものを映し出す鏡のような存在かもしれない。

ただ、どうだろう。もっと自分の可能性を広げてみたい、新しい自分を発見したい、普段の職場では実現できない自分の思いをどこかで遂げてみたい---皆さんの中にもそんな欲求にかられた経験をお持ちの方は少なくないのではないだろうか。

今、新しい働き方の一つとして「二枚目の名刺を持つ」という動きがムーブメントになろうとしている。2009年から活動がはじまり、2011年に法人化されたNPO「二枚目の名刺」。

現在の職場に留まりながら、自分に新たなキャリアデザインを施す人材を育てようと立ち上がった団体だ。

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「ココナラ」代表の南章行氏。 慶応義塾大学を卒業後、1999年4月、住友銀行に入行。運輸・外食業界のアナリスト業務などを経験したのち、2004年1月に企業買収ファンドに入社。 2009年に英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。東日本大震災をきっかけに2011年6月に投資ファンドを退社し、株式会社ウェルセルフを設立。知識・スキルの個人間マーケット「ココナラ」を2012年7月にオープン。


社会人が本業で培った技術や経験を、他の社会貢献活動に活かす事が出来るようになればより豊かな社会を実現できる。また、本人が本業では関わらないより幅広い人脈に触れ、様々な事象に関わる事で、やがて本業そのももに役立つスキルも向上させられるという理念を掲げている。

このNPOを立ち上げたメンバーの1人が、会員数およそ6万人を有するWEBサービス『ココナラ』の代表である南章行さんだ。NPO「二枚目の名刺」とは別に、去年新たに立ち上げた事業だ。今、市場からの注目を集める新興IT企業。

ココナラは、自身の"得意なこと"をオンライン上で売買できるというオンラインフリーマケット。売買するのは自分のスキル。現在"1回500円"という一律の価格設定で運営されているが、出品されているサービスの質はかなり高く、バラエティに富んでいる。一般ユーザーはもちろん、「プログラミングや開発の相談に乗ってほしい」というエンジニアからの支持も集め、盛り上がりを見せている。

今回、ココナラを運営する南章行さんにインタビュー。金融業界での経験、海外でのMBA取得、2つのNPOの立ち上げと、多様な経歴を持つ南さん。『一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる』という南さんの考え方は、これからの時代に即した、新しい働き方への大きなヒントとなるのか。インタビューシリーズでお伝えする。

前回に続き、今回は後編。社会人のためのキャリアデザインとは何か、じっくり聞いた。

「イノベーションのジレンマ」から生まれた新サービス

南: 一昨年、2011年の8月頃に、うちのIT部門担当者が「サービス版のイノベーションのジレンマをやりたい」と言ったんです。

堀: ほぉ、それはどういうことですか?

南: イノベーションのジレンマって、いろんな要素があるんですけれども、安かろう悪かろうみたいな領域って、(従来の)カメラに対してデジカメが出てきた時、こんなクオリティの低いものを誰も使わないだろう、市場も小さいしみたいな、既存のプレイヤーもガン無視だったわけじゃないですか。

でも、だんだん大きくなってきて、気がついたら性能も上がってプレミアム市場をとっちゃって、後から入ろうとしても手遅れみたいな。これがイノベーションのジレンマの一つの事例としてあります。だから、サービスで、普通に5000~1万円で提供されてるものが300円、500円とか、すごい安いもので、もし仮に提供できるんであれば、量的にはマジョリティーってそっちなんじゃないかと考えたんです。そういうサービス版で、イノベーションのジレンマみたいなことをやりたくて。すごく安い、個人が気軽にスキルを売れる。それでむちゃくちゃ安いみたいなことをやりたいって言い出してですね。

僕は最初、却下したんですよね。全然そんなのマーケット小さいし、何人集まって、いくら取引が発生したらどれくらい給料になるんだよという話をしたら、ああ無理っぽいね、と。でも、アイデアとしてはやりたいなって、他のメンバー2人が言っていました。

そんなことがちょろちょろあった時に、ヘルスケア事業のために管理栄養士さんにインタビューをしていて、彼女が当時言ってたのは、病院でいつも患者さんに栄養のアドバイスやってますと。でも、自分のスキルとか知識を生かせば、病院の外でもアドバイスできるから、子育てしてるお母さんに、子供が野菜を食べるような何とかとか、いろいろ栄養にからんで何でも言えるんだけれども、そういう場がないと言っていたんです。本当はもっといろいろ提供したいと言っていて、すごく真摯でまじめな人が多かったんですよね。

ああ、人ってこういうの求めてるんだなあって思った時に、あれ待てよと。自分自身も働きながらNPOをやってきて、それで人の役に立ったらうれしいというレベルを超えて、意味わかんないぐらいにがんばる人がいるじゃないですか。そういう人を多く見てきた中で、本質って、自分が機能してる感覚とかを人は求めてるのかもしれないなと思いました。そこで得られる成長とか、そこで成長すると、またいろんなものがポジティブなサイクルに入っていくみたいな。

得意な部分が伸びると人って、オーラが出てくるじゃないですか。そうするといい人が寄ってきて、また次におもしろいチャレンジが回ってきて、というサイクルがある。それを自分がNPOで経験してたんで、人のこういうところを、お小遣い稼ぎサイトじゃなくて、人の役に立ったらうれしいじゃない、成長するじゃない、人生豊かになるじゃないという軸で、さっきのマイクロサービスプラットフォームをとらえ直すと、実はすごい豊穣な世界が待っていそうだなと。過去の経験がつながったんですね。

その時に初めて、僕たちだったらこれをうまくやれるね。でも大企業とかだったら無理だろうと思いました。こういう領域で新しい市場を作っていこうと思ったら、共感マーケティングみたいなものが必要で、それってベンチャーの方が絶対強いわけですよ。一方、僕らにはストーリーがある。自分たちが働きながら、NPOをやってきていて。個人をエンパワーメントするようなNPOだったんですよね。

堀: 具体的にはどういうNPOですか?

「二枚目の名刺」のススメ

南: 僕は2つのNPOをやってて、「ブラストビート」と「二枚目の名刺」っていうNPOなんですけど、ブラストビートというのは高校生、大学生向けの社会教育プログラムをやっています。10人ぐらいでチームを作って、一時的に会社を作って、3カ月後に音楽のライブイベントやってくださいってオーダーを与えるんですね。

会社名を決めて、名刺を作って、社長を決めて、マーケティングマネジャーにPRマネジャーなど全部決めて、会社の形態をとって企画して、ライブハウスに交渉しに行って、アーティストも自分たちで引っ張ってきて運営も全部やる、みたいな。一連のプログラムを回すというものなんですけど、高校生は親と学校に言われたこと以外はやったことないじゃないですか、それを初めて自分たちで何かをアクションする。

これが結構大変なわけですよ、知らないアーティストが来るライブイベントなんて誰もチケット買わないわけですよね。友達であっても。売るのも必死だし、そこで何か自分が行けるようなイベントじゃないと、自信もって売れるイベントじゃないと人は来ないっていうのがわかって、リアルにペルソナ分析からして、思いを込めて売っていくと何となく最後イベントは成功していく。そして最後には、得た利益を自分たちで選んだチャリティーに寄付するっていうことなんですね。

堀: へえ。

南: それで全体を通してチームワーク、リーダーシップみたいなものをリアルに学びます。それからビジネス、人の役に立つ、人が喜ぶとお金が入ってくるとか、ビジネスってそういうことなんだと。自分で稼いだお金で世の中の社会問題を解決できるんだとか、そういうむちゃくちゃ濃い経験、生きるとは、働くとはみたいなものを3ヵ月でやるプログラムで、もうこれをやったことでむちゃくちゃ変わるんですよ。とんでもなく変わるんですよ。本当に人生が変わるプログラムです。