小泉純一郎元首相の「脱原発」論が 話題を呼んでいる。小泉さんは、今年の8月にフィンランドを訪問してきた。世界初の核廃棄物の最終処理処分場、「オンカロ」を視察するためだ。オンカロとは、フィンランド語で「洞窟」「隠し場所」を意味する。

この「オンカロ」でしていることは何かというと、いわゆる「地層処分」である。原発の使用済み核燃料を10万年の間、地中深く保管し、無害になるまで置いておくのだ。

10万年後、どんな社会になっているのか、誰も想像つかないだろう。いま、僕たちが話をしている言葉さえも通じない可能性がある。そんな遠い未来まで放置するしかない。こんな処理方法しかないゴミを生み出していく原発を、これ以上、続けていっていいのだろうか。そう、小泉さんは考えたのだ。原発は「トイレのないマンション」と、長年、言われてきた。まさに、そのことである。

小泉節は健在だ。あの明快さで「脱原発」を語るのだから、おおいにウケる。原発をなくせばハッピー、という気分にさせられるのだろう。

だが、大事なことが抜け落ちている、と僕は思う。「こんな処理方法しかないゴミ」である
使用済み核燃料は、すでに膨大な量が存在しているのだ。もし原発をやめたとしても、これらの「ゴミ」をどうするのか。小泉さんはその部分を語っていない。ただ「脱原発」を語るのみである。

他にも、語っていないことがある。日本もフィンランドと同じく、「地層処分」を採用する方針を、1976年に決めている。ところが、建設どころか、候補地さえまだ決まっていないのだ。実は、フィンランドは地盤が安定している。一方、日本には火山がたくさんあり、地震の多い国土である。そのような場所で「地層処分」をして、果たして大丈夫なのか。そのような議論さえ、充分に尽くされていないのだ。

小泉さんは、脱原発発言をして、さらに社民党党首と会談までして、自民党を慌てさせている。こうした小泉さんの言動が、自民党の原発に対する態度を、変える可能性があると、実は僕は思っている。