なんの話かといえば、米国のシリア空爆をめぐる報道である。米国がシリア空爆を正当化した根拠について、朝日の報道はとても正確とは言えない。朝日は「米国は集団的自衛権行使に基づいてシリアを空爆した」と印象付けようとしているが、事実は違うのである。

書き出しに「集団的自衛権などを行使」

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朝日新聞9月25日夕刊一面より

まず朝日の報道ぶりをみよう。朝日は空爆開始直後の9月24日夕刊で、パワー国連大使が潘基文国連大使に送った書簡の内容について「『空爆は自衛権行使』 シリア領攻撃 米が国連に文書」という見出しで次のように報じた。

〈(書簡は)テロ組織の攻撃にさらされているイラクの要請を受けた米国が、他国が攻撃された場合に反撃する「集団的自衛権」などを行使したという説明だ〉

書き出しのこの部分だけ読むと「そうか、米国は集団的自衛権に基づいてシリア攻撃をしたのか」と理解してしまう。本文はどうかというと、次のように書いている。

〈…シリアのアサド政権について、自国の領土を過激派がイラク攻撃の拠点に使っているにもかかわらず、攻撃を効果的に防ぐ「能力も意思もない」と指摘。この場合、攻撃下にあるイラクは、国連憲章51条が定める自衛権に基づき自国を防衛できると説明。自国の脅威にもなっている米国も自衛権を行使した、とした〉

お分かりのように、本文では「米国は自衛権を行使した」と書いていて、集団的自衛権という言葉は出てこない。記事には「米国が国連に出した文書の骨子」という横書きのメモが付いているが、そちらにも集団的自衛権という言葉はない。

翌日朝刊でも「シリア空爆は集団的自衛権行使」と報道

同じ24日夕刊で読売新聞はどう報じていたかといえば「シリア空爆 米『自衛権を行使』 国連総長、一定の理解」という見出しで本文はこう書いている。

〈国連加盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた国連憲章51条に触れ、「今回のように、脅威が存在する国が、自国領土を(テロ組織によって)使われることを防ぐことができず、その意思もない時には、加盟国は自衛できる」とした〉

これを読んで、書簡が国連憲章51条に言及していたことが分かる。この時点で私は頭が「???」だった。こんな重要な問題で、本当に朝日が書いたように「米国は集団的自衛権の行使だ」と明言したのだろうか、と思った。だったら、読売はなぜそう書かないのか、と思った。

そのうえで翌25日の朝日朝刊を開いてみると、問題の論点についての記事は「シリア空爆、自衛権を主張」という見出しで本文はこう書いていた。

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右がアメリカのサマンサ・パワー国連大使 photo Getty Images

〈オバマ氏の国連演説に先立ち、米国のパワー国連大使は23日、「イスラム国」への空爆をシリア領内で実施したことについて、「国連憲章51条に基づく自衛権行使」だとする文書を国連の潘基文事務総長に提出した。

…文書によると、「イスラム国」の攻撃にさらされているイラクから空爆を主導するよう要請を受けたとして、他国が攻撃された場合に反撃する「集団的自衛権」を行使したとしている〉

ここでも前日夕刊の線を維持している。前段は国連憲章51条の行使と読売夕刊と同様に書いているが、後段の「集団的自衛権を行使した」というくだりは記者の地の文章だ。これは本当だろうか。本当なら、米国は集団的自衛権の行使でイラクを空爆したという話になる。