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La oscuridad de Columbia      〜事件簿 K  妻を寝取られた坑夫の復讐 〜
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La oscuridad de Columbia      〜事件簿 K  妻を寝取られた坑夫の復讐 〜

2019-01-30 14:47
  • 1
鉱山事故に見せかけた復讐の連鎖。

ボゴタを発ったのは陽が落ちて夕闇せまる頃合いであった。
私をつけ狙うゲリラの監視の目から逃れるため闇夜の行軍を強いられていた。
いつもどうり四、五人のボデイガードを伴いコスクエスの私の鉱山に着いたのは深夜
の午前2時であった。坑夫宿舎の玄関を通り抜け食堂へ入っていくと、私を迎えた
部下である支配人のマックスが沈痛な面持ちで、
”セニョール ハヤタ、ウーボ ムエルト(人が死んだ)” 
と、ささやいた。
彼の先導で奥の物置部屋に入っていくと、道具が片付けられた部屋の中央に棺が置か
れ、その周りに二、三名の坑夫が腰を折って祈りをささげていた。
“どうしたんだ?”
と私が問うと、
“たて坑で縄ばしごを登っている途中で落っこった、という報告を現場にいた坑夫
仲間から受けていますが今調査中です。事故は今から4、5時間前に起こりました
ので、社長のご意見を聞き処理したいと待っておりました”
とマックスが応えた。
この鉱山だけでも百名は下らぬ数の坑夫を抱えているので名前はいちいち覚えてい
られないが、とりあえずどの顔をした男か見極めようと粗末な棺の蓋を開けて覗き
込んだ。青ざめた顔の口元や鼻腔に血がこびりついており頭蓋骨には裂傷があり、
頭を強打したことによる即死と見うけられた。
二十五、六歳のスペイン系白人のその顔つきに見覚えはあったが名前はやはり思い
出せなかった。確か陽気な若者であったという記憶があった。
マックスがそばから言葉を添えた
”彼はペーニャ ブランカから来ていたリカルドです、覚えておられますか?”。
“元気のいい男だったからよく覚えているが名前は忘れていたよ, あんな生きのいい
のが事故で縄ばしごから落っこったなんて考えられないね”
と私が答えると、
“それですが、社長”
と私の耳に小声でささやいた。
人気のない方へ私を手招きして、マックスが話し始めた。
“すでに噂になっておりますが、縄ばしごから突き落とされたみたいですね。現場の
連中は自分はよく見ていない、気づいた時には落っこっていた、などとい言って
いますが事件に巻き込まれたくないのと口合わせですね…というのは、リカルドは
同じ部落から働きに来ているパーチョの女房と最近ねんごろになっていたそうなんで
そのパーチョが昨夜はたて坑を降りた先の4Aの採掘現場でリカルドと一緒に働いて
いたそうです。仕事を終えてみんなが一緒に引き上げる時、縄ばしごの下でリカルド
とパーチョがお互いに’’オレが先に’’と順番のとり合いをしたそうです。
それでリカルドが先に登りはじめ、40メートルの縄ばしごのほとんど登りきった
ところで急に転げ落ちたそうです。先に登って上にいた仲間の話しだと、
”多分めまいでもして手が足場棒から滑ったのだろう”、と言っていますが、
本当のところは…”
“ウーン”
と唸った私がその後を続けた
”リカルドの先に登って上にいた奴がパーチョの仲間でおそらくリカルドの手を上段
の握り棒から引き離したんじゃねえか、下からリカルドの足をつかみ落とそうとし
ても蹴飛ばされるのがオチだからなー”
“私もそう思って、先に登って上にいた坑夫のホアキンがパーチョとどういう共同
作戦をとったか今探りを入れてるところです。ペーニャの部落は小さいので
皆いとこや親戚すじで繋がっていますが、パーチョとホアキンは共に二十八歳で
いとこ同しです”
とマックスが続けた。
“そんなところだろうとオレも思ったが、これは微妙な問題だ、決して口外してなら
ないぞ。信用の置ける奴を密偵に慎重に調査して事実を探らせろ。それから、悪いが
今その足で屍を親元に届けに行ってくれないか。とりあえず手持ちのこの五十万ペソ
(3万円)を見舞金に渡してくれ。帰り道ついでに警察派出所に寄って事故報告を
簡単にしておいてくれ”
とマックスを送り出した。
ゲリラ地域と隣接する警察権のほとんど及ばぬ山間部の私のテリトリーで起きること
は私が責任を持って処理しなければならなかった。
金か女か、あるいは何かの恨みか、こういう惨劇は日常茶飯事のことであった。
四時間ほどの仮眠のあと早い朝食をとっていると、マックスとリカルドの家への
道案内で行ったホセが疲れた顔をして戻ってきた。
開口一番、マックスが言うに
“イヤハヤ、あのペーニャ街道の凄まじさには改めて驚きました。夜間なので
ノロノロ走ってゲリラか山賊に捕まってはならぬとスピード出して行ったのは
いいですが、岩石むきだしのデコボコ道でジープがひっくり返らんばかりの山道でし
た。棺にロープをかけて固定していなかったので棺が上下に揺れ動き、ついにタイヤ
が岩石にドーンとぶち当たった時、棺がたち上がり蓋が開いて中から屍が私に
おぶさってきましたよ!”
“そこで、リカルドとサルサでも踊ったのかい?”
と私が茶かすと
“リカルド静かにしておれ!と、後ろへ押し倒しました”
と涼しい顔でマックス言うと
“トンデモナイ!、死人にもたれかかられてマックスは慌てふためき、ハンドルを
切り損ないあわや崖から谷底に落っこちそうになったんですよ!、フーッ!”
とホセが側からため息を漏らした。
“アッハ、ハ、ハ。それで、リカルドの家ではどうだったの?”
と私がただすと、
“着いたのは四時ぐらいでしたが、農家の朝は早いのでもう家族は皆起きていました。
リカルドのなり果てた姿を見て皆んな泣き叫んでいました。親父、お袋にリカルドの
姉と小さい妹がいました。弟はチキンキラに原石を売りに出かけて留守でした。
あまりにもかわいそうなので見ていられなく早々に引き上げてきました。
途中、警察派出所により当直の警官にレポートしてきましたが、フンフンと書き
とめるだけで何の関心も示しませんでした”
もっとも、物好きな警察官がいてこんな事件に首を突っ込み捜査でもした日にはまず
間違いなく暗闇で背後からピストルの弾を食らうのは請け合いだ。だから得にもなら
ないこんな下層クラスの揉め事には全く関心がなかった。
事故から二、三日もすると、事件の全貌が見えてきた。
事故のふた月ほど前にペーニャ ブランカの村で年一度のカーニバル(村祭り)が
催され夜を徹して村人が踊り、飲みあかしていた。
その日パーチョは勤務で一晩中働いていた。もともとパーチョは呑んべえでもなく
踊りも特に好きではなかったのでムリして休みも取らなかった。
かって幼なじみであったリカルドとパーチョの妻のエレーナは野外の
サロン デ バイレ(デイスコ バー)で出会い意気投合した。それ以来何度か会い
親密になっていった。もともと結婚前にも二人には男女関係があったらしいと周りの
友人たちは言っている。小さい村ではこういうことは直ぐに噂になる。
怒ったパーチョが妻を問い詰めると、女の常套句で、”酔った肉体を無理やり押さえ
つけられ…”と告白したということであった。
パーチョは早速に同じ職場班のいとこ仲間ホアキンと内密に相談した。
パーチョはずる賢い男であった。先にイトコ仲間を上に登らせといて、縄ばしごの
下でどちらが先に登るか順番のとり合いをやれば、上で手を剥ぎ取られるので誰も
危ない奴の後に続こうとはしない だろうから、リカルドが必ず先に登りたがるだろ
うと読んでの計略だったのだ。しかもこれが事後の彼の潔白証明になると考えたので
あろう。それはもし後で警察の捜査があればという理由からではない、周囲の人間
からそういう卑劣な男とみなされるがイヤだからである。警察の捜査など此処の連中
は意にも介していない。事故の詳細の目撃者は上のホアキンとリカルドのすぐ後を
登ってきたパーチョだけなのだ。どんなことがあっても上のイトコ仲間がそれを自供
する可能性は全くなく(コロンビア人はそんなヤワではない)、完全犯罪のつもりな
のだ。したがってこの筋書きは私やみんなの推量であるが、まず間違いのないところ
である。
ペーニャ ブランカの村は元々二軒の本家から分家していった二グループに分かれい
ていた。互いに反目し合い、何かにつけて争いごとが絶えなかった。
村のサッカー場、ビリヤードバー、時には冠婚葬祭の場までが紛争の場所となった。
これまでに数知れぬほどの殺人事件が頻発してきた。まさに狂気の殺人村であった。
私の友人でもあったキンチョーは深夜自宅の玄関前で騒ぐ若者を”ウルサイ!”と威喝
するやいなや反抗してきた二人を射殺してしまい、村には居られなくなり引っ越して
行った。多分自分の身内派の若者であったらそういう暴挙にはでなかったであろう。
ゲリラ地域に隣接する貧しい村はコロンビア中どこでも同じようなもので人びとの
精神状態は非常に荒んでいた。ましてエメラルド ゾーンやコカ ゾーンとなれば
なお一層欲がらみで荒廃していた。もはや中世並みの社会秩序である。
もちろんボゴタをはじめとする都市部はそういうことはないが、その近郊の貧民窟
となると似たようなものであった。
リカルドはパーチョと相反する親戚グループに属していた。リカルドの身内派の長は
ノエ叔父さんで善良な人柄であり、私の良き友人でもあった。
どちらかというと、ノエの身内派に善良な者が多く、反対派の方の連中とは私も幾度
か揉め事があった。鉱山が隣り同しということで私の発電機から電気をわけてやって
いたが、産出があったとき約束の配当の半分しかくれなかった。
事故から三日ほどしてから、リカルドの弟のマルコが鉱山村や私の坑夫宿舎周りに姿
を現し、坑夫相手にいろいろ聞きまわっていた。殺されたリカルドの身内なので私も
ほっておいた。私にも話を聞きたいと、面会を求めてきたので会ったが、彼の決意が
ムラムラと伝わってきた。周りの連中もコトのなり行きを虎視眈々と眺めていた。
復讐の連鎖の始まりにならなければ良いがと私は憂慮した。
おぞましい事件がその二日後の金曜日、事故から一週間めの週末に起こった。
 
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大変面白かったです。次回は早く記事をお願いします。
7ヶ月前
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