「マイルドヤンキー」は地方文化か
そこで今回は、ポスト戦後的なホワイトカラーとはどういうものか?――ということを考えてみたい。
先の論考で、宇野さんは「東京西部のベッドタウンに持ち家を買って専業主婦を住まわせ、長距離通勤の電車内で週刊誌を読む」のが、戦後的なホワイトカラーだとしている。
こういうライフスタイルは、確かに以前はそこかしこにあったが、今はほとんど廃れてしまった。
では、それに替わる新しいホワイトカラーのライフスタイルとはどういうものか?
新しいホワイトカラーのライフスタイルは「スマホを持っている」ということだろう。
こういうと、「スマホだったらブルーカラーでも持っている」という反論が聞こえてきそうだが、ホワイトカラーとブルーカラーとでは、スマホの持ち方が違う。どう違うかというと、ブルーカラーはそれをインフラや娯楽物として「消費」しているのに対し、ホワイトカラーはそれを、新しいビジネスのための「勉強」あるいは「研究」の道具としているのである。
その象徴的存在が、ホリエモンだろう。
ホリエモンは、スマホのヘビーユーザーだが、彼の中に、それを消費している(使っている)という意識はほとんどない。彼の頭の中は、そのほとんどが「研究している」という意識で占められている。
そのため、例えばアプリなど、自分が好きかどうかは関係なく、流行っているからという理由でダウンロードしたり、使ったりしている。そして、それを自分がアプリ開発するときの参考にしようとしているのだ。
新しいホワイトカラーのライフスタイルは、このホリエモンのスマホの使い方に象徴されるように、本来は生活や娯楽のために提供されているものでも、勉強や研究の対象にしてしまう。
例えば、映画で「アナと雪の女王」がヒットしているとなれば、「流行っているから」という理由で見にいく。ここまではブルーカラーと一緒だが、ブルーカラーは「流行っているから楽しそう!」と思って見にいくのに対し、新しいホワイトカラーは「流行っているから研究対象となりそう!」と思って見にいくのである。
昨今のホワイトカラーは、勉強や研究にお金を払う。衣食住にしたってそうだ。流行りの服を着るのは流行の最先端を体験するためだし、食事は流行っているお店に行って「なぜ流行っているのか?」を仲間で議論しながら食べる。都心に住んでいるのも、新しい動きを敏感にキャッチするためだ。
新しいホワイトカラーは、女の子とデートをするときだって、彼女がつけている香水のブランドが気になって仕方がない。
「あれ、それ、いいにおい!」
これは、性的興奮から出てきた言葉ではなく、ビジネス的な興奮から出てきた言葉なのだ。
新しいホワイトカラーは、全てをビジネスに結びつけるような思考になっている。ビジネスのプライオリティに比べると、家族を持つということのプライオリティは低い。
いや、家族だって下手をすればビジネスの種だ。配偶者や子供を注意深く観察しながら「ファミリー向けのビジネス」を考えるときの参考にしようとしているのだ。
新しいホワイトカラーは、ほとんどビジネスの奴隷といっても差し支えない。
ビジネスといっても、旧来のシステムに則ってするビジネスは、その対象ではない。新しいホワイトカラーは、旧来のシステムにはなかった、新しいスキームのビジネスを模索している。何かイノベーティブでレバレッジの効くビジネスができないか――そのアイデアを捻り出そうとしているのだ。
彼らは四六時中、新しい「ビジネスアイデア」を生み出すことに注力している。そのことに、生活のあらゆることや、消費のあらゆることを結びつけている。そのために、できる限り勉強や研究をして、自分の頭を良くしようとしている。スマートになろうとしているのだ。
だから、彼らは勉強会が大好きである。勉強会こそ、新しいホワイトカラーのライフスタイルの中心にあるもので、全ての行動はそこに結びつけられる。
まとめると、新しいホワイトカラーは、ビジネスアイデアを生むために勉強し続ける。そのため、あらゆる生活、あらゆる消費活動を、頭が良くなることに結びつけようとする。
それが、彼らのライフスタイルである。
では、そういう新しいホワイトカラーには、どんな名前が最適か? 彼らのことを、一体どう呼んだらいいのだろうか?
ここではそれを、「スマートカラー」と名づけたい。
彼らは、新しいビジネスアイデアを生むために、自分がスマートになる(頭が良くなる)ことを一番の目的としている。そのために、まるでスマホのように、色んな引き出しを持とうとしている。自分の色を、ブルーやホワイトといった単色ではなく、さまざまな状況に応じて可変できる、スマートなものに染め上げようとしているのだ。
今後は、このスマートカラーに向けた新しいビジネス――彼らのライフスタイルに則したサービスや商品というものが、次々と生まれてくるのではないだろうか。
コメント
コメントを書く非常に鋭い意見だと思います。自分の周りでもポツポツとそういう人が増えてる感があります。
>>1
ぼく自身、常に一石二鳥を狙うというか、つい生活を仕事に役立てようとしちゃうんですよね。
その意味ではずいぶん貧乏性でもあると思います。