30代のはじめ、「文学とは何か?」ということを突き詰めて考えていた。
そのとき、砂が水を吸収するように次から次へと本を読んでいたのだが、中でも印象に残っているのが「これがニーチェだ」の著者である永井均さんだ。

永井さんは哲学者だ。大学の先生をしているが、いわゆる学者然としたところがなくて、「学究の徒」という印象が強い。ぼくは、永井さんの本を何冊か読んで、「哲学とは何か?」ということの考察を深めることができるようになったのである。

永井さんは哲学の専門家なので、中にはとても難しい本がある。その一方で、一般向けの入門書もいくつか書いており、この「これがニーチェだ」もそのうちの一冊だ。

永井哲学の大きな特徴の一つは、哲学とは「答え」ではなく「問い」――ととらえているところだ。
例えば、「人間とは考える葦である」というふうに結論を示すのではなくて、「人間とは何か?」という問いそのものを見つけ出す――永井さん