スポーツ中継などでは、よく勝利した選手の喜ぶ姿がクローズアップして映し出される。派手なガッツポーズをしたり、奇声をあげたり。それは感動的で見応えのあるシーンなので、ニュースなどでもくり返し取りあげられるため、多くの人の目にとまる。
それゆえ、多くの人にとって勝利とは、そういう感動的なシーンだととらえられている。

しかしそれは、本物の勝利の実態とは違う。そういうふうに喜びを爆発させるのは、勝つか負けるか不確かだったときなので、「本物の勝利」とはいえないのである。それは、サイコロを振って自分の賭けた目に出たような、心許ない勝利なのだ。次はどんな目が出るか分からない。

そういう勝利を、ここでは扱わない。ここで扱うのは、本物の勝利――全てを兼ね備えた勝利だ。

では、本物の勝利というのはどういうものなのか?
――それは、もっと静かなものなのである。もっと呆気ないものだ。もっと穏やかなものなのだ。

「本物の勝利」