結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年6月7日 Vol.219
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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執筆の話。
現在の結城が執筆している主な本は以下の二冊。 一つは『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』で、 もう一つは『数学ガール6』です。
『やさしい統計』の方は、 ベースになっているWeb連載の原稿がありますから、 それをもとにして書籍への変換作業を着々と続けています。
ちなみに、ベースになっているWeb連載の原稿というのは、 連載10回分で、その文字数は13万1831文字。 図版の数は56個になりますね。
変換作業は、 全体を読み返し「書籍としてふさわしい形」に直していく地味な作業です。 図版を直し、練習問題と解答を新規に作っていきます。 連載時にはひとつの章が2週にまたがっていましたので、 そのつなぎ目部分も整える必要があります。
そうやって変換作業をしているうちに、 もっと本質的な問題を発見します。 それは、Web連載のときには気にならなかった「全体のバランス」です。 書籍というのはひとつの「まとまり」ですから、 その中でひとつの世界を作らなければなりません。 本を一冊読み終えたときに、
ああ、わたしはこういう世界を通ってきたんだなあ
という感慨を持っていただくための工夫が必要になります。
もちろんWeb連載の時点から、そのようなことは意識しています。 連載10回分で一冊の本になりますが、 その10回には共通のテーマがあり、 そのテーマにそって話を進めてきましたから。 しかしながら、あらためて書籍として見直すと、 どうしても「でこぼこ」が出てしまいますので、 そこをどう直すかが勝負になるのです。
ちょっと面白い話。
Web連載としてまとまった文章を書いたわけですから、 その分野のことはある程度わかっていることになります。 しかし、書籍にまとめる作業をしていると、 「ああ、これにはこういう意味があったのか!」 という《発見》が必ずあるのです。
念のために書いておきますが、ここでいう《発見》というのは、 新しい数学的発見というようなすごいものではありません。 そうではなくて、よく知っていると思っていた概念に、 新しい価値があることに気付くという意味です。
書籍を作っていく途中では、 そのような《発見》がほぼ確実にあります。 そして、そのような《発見》があると、 作業はがぜん楽しくなりますね。
結城はよく「本を書くことは楽しい」といいます。 作業として、お仕事としては「楽」ではありませんが、 自分が書いている文章を通して自分が学び、 「なるほどなあ!」という《発見》に出会うとき、 それは「楽しい」としか表現のしようがないものになります。
どんなにささやかなものでもかまいません。 自分が心の底から「なるほど!」と思える《発見》があり、 そしてその喜びを言葉に表現して読者に何とか伝えようとする。 結城はこのような仕事ができることをうれしく思っています。
ということで、 『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』と『数学ガール6』、 がんばって仕事を進めましょう!
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成果の比較の話。
「他人の成果」と「自分の成果」を比較して意気消沈するのは、 良い態度ではありません。 コミック『ガラスの仮面』で北島マヤがアルディスを演じ終えたとき、 ライバルである姫川亜弓のオリゲルドに対して拍手した、 そのような態度でいたいものです (コミックを読んでいない人にはわかりにくいたとえ)。
実のところ、 「他人の成果」と「自分の成果」を比較して《意気消沈する》のだけではなく、 「自分の方がいい」と《手放しで喜ぶ》のも良い態度ではないと思っています。 その理由は「誰かとの比較」という狭い視野だけで、 仕事の成果を評価することになりがちだからです。
誰かとの比較(だけ)で仕事を評価するのではなく、 自分が設定した基準によって評価したいですね。
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ゲームの話。
結城はパズルゲームが大好きです。 最近はiPhoneで Mekorama (メコラマ)というゲームにはまっています。
◆Mekorama by Martin Magni
http://www.mekorama.com
以前Odd Bot Outというゲームを結城メルマガで紹介しましたが、 Mekoramaの作者はあのゲームと同じMartin Magniです。
◆Odd Bot Out by Martin Magni
http://www.oddbotout.com
Mekoramaはマインクラフト風の世界で、 よたよた歩く一つ目のロボットを出口まで導くというパズルゲームです。 その様子は、こちらの動画で見ることができます。
◆Mekorama紹介動画
https://youtu.be/vaSJyEDmgWA
結城はアクションゲームやスピードを競うゲームが苦手で、 複雑に組み合わされた謎を解くようなゲームが好みです。 このMekoramaは、タイミングをはかる要素が少ないので、 たいへん楽しめました。
さらにMekoramaは、 自分で新たなゲーム画面を作ることもできます。 そしてそれをTwitterなどでシェアし、 他の人に解いてもらうこともできます。 画像ファイルをシェアするだけで、 実際に機能するゲーム画面をシェアできるのはいい仕組みですね (QRコードを利用)。 結城はこれまでに、20個以上のゲームを作りました。 作ったゲームは、以下のリンクからたどれます。
http://twilog.org/hyuki/search?word=mekorama
Mekoramaはゲームなのですが、 簡単な物理シミュレーションのように使うこともできます。 たとえば、以下のゲーム(?)は、 素数を見つけるエラトステネスの篩を模して作ったものです。
動画で見たらこんな感じです(一瞬で終わりますが)。
◆Mekoramaで作ったエラトステネスの篩(動画)
https://youtu.be/NyuLofbBk1c
Mekorama楽しいですよ。
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何を見ているかという話。
先日、こんなWeb記事を読みました。
◆空間知覚をハックして、狭い室内を無限にまっすぐ歩き続ける「無限回廊」VR
http://wired.jp/2016/05/20/unilimited-corridor/
いわゆるVRを利用して「自分はまっすぐ歩いている」と知覚させるが、 実際には同じ所をぐるぐると回っているだけという仕組みの話です。 上記記事には動画もあります。
「自分はまっすぐに歩き続けていると思っているのに、 現実には同じ所をぐるぐる回っている」 というこの話は、比喩的な意味でこわいものがあります。
自分はプロジェクトをまっすぐに進めていると思っていたのに、 実は堂々巡りをしていたという話に聞こえてしまうからです。 「進捗はどうですか」「ぐるっとひと回り」なんて、 悲しい話です。
自分がどんなふうに歩いているかという「目」が正しく機能しているか。 そもそもそのような「目」を持っているかどうか。 あたりまえの話ですけれど、それはとても大事なことなのだと思います。
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二つ名の話。
ふと、「カタカナルビ付きの《二つ名》」がほしいと思いました。 よくライトノベルなどで登場人物にかっこいい(?)別名が付くことがあります。 そのキャラクタの特徴をあらわした、 ちょっと難しい言葉を使った「あだな」のようなものですね。
たとえば「数学ガール」のミルカさんには《饒舌才媛》、 テトラちゃんには《元気少女》という二つ名があります。
それで「結城自身にもそんな二つ名がほしいな」というツイートをしたら、 親切なみなさんがいろいろ考えてくださいました。 以下、いくつか紹介いたします。
みなさんが考えてくださった「結城浩の二つ名」です。
@zrzk_yakamasiki さん
愛徒結城(アンパンマンフレンズ)
@hisano_yuki さん
(数学者の)卵を温める者
@nolimbre さん
数学軟化剤《ミーティギトール・マテマティカエ》
@hakusaii さん
インキュベーター(きゅうべえ)
@mishuk0517 さん
数と少女を紡ぐ者(マス×ガール)
@kagakuma さん
虚実境界線(シュヴァルツシルト)
@world_fantasia さん
万能機械<パーフェクトシミュレーター>
匿名希望さん
《愛妻家》(ワイフラバー)
@2sin30cos30 さん
《幻影の数学伝道師》 Phantasmal Mathematica Evangelista
@roidy_tm さん
閃光頭脳(スパークリングブレイン)
@john_smith_XG さん
ラブワイフ!
匿名希望さん
愛妻電脳執筆家《ラブワイフ!》
@kumonogu さん
相数相愛(アイビーコン)
@kusoposi さん
虚空から言葉を紡ぎ出す者《ゴーストプログラマー》
@takako_ja さん
神と共に在る数学師(マス×プレイヤー)
結城の他愛もない願いに反応してくださったみなさんに感謝です……。
あなたなら、自分にどんな《二つ名》を付けますか?
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振り子の等時性の話。
「振り子の等時性」というのは、糸で吊った重りを振り子としたときに、 糸の長さが一定ならば、 一往復する時間は一定であるという物理学の法則のことです。
これは小学校の理科でも学ぶこと。でも、 この法則が成り立つのは《振れ幅が十分に小さいとき》という条件が付きます。 振れ幅が大きくなると、sinθがθで近似できなくなるからです。 振れ幅が大きくなると、振れ幅が小さいときに比べて一往復する時間は長くなります。
奥村先生の以下のページでは、 振れ幅が大きいときにはどうなるかという考察をしています。
◆振り子の等時性?
http://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/stat/pendulum.html
振れ幅が大きいときに振り子の等時性が崩れることは、 小学生の実験でも検出することがありえます。 でも、文科省の実験の手引きには、等時性に反するような実験結果を得たら、 それは児童が「自分の予想や仮説に合うようにデータを処理しているから」 という決めつけが掲載されているとのこと。
科学的主張のもとになっている付帯条件は、 つい見逃してしまいますが、 思わぬところでひっかかってしまうものですね。
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数学ボーイの話。
先日、数学検定一級に13歳の少年(菅原響生さん) が合格したというニュースが流れていました。
◆数学検定最難関1級、史上最年少13歳合格
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2788016.html
彼は、以前から結城の『数学ガール』を愛読しており、 結城がときおりTwitterで出す数学クイズにも、 よく解答してくれています。
今年(2016年)の元旦に積分の問題を出題したときも、 すばらしい解答を出していました。この積分の問題は、 結城が高村教授(はこだて未来大)からお聞きしたものですが、 高村先生も彼の解答を秀逸とほめておられました。
◆上記の話題の関連ツイート
https://twitter.com/hyuki/status/683090417961713665
これからも、 彼がその能力をしっかり伸ばしてくれるといいですね。
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では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- たったひとりのあなたのために - 文章を書く心がけ
- 場所を変えてチャレンジ! - 仕事の心がけ
- 未来を生きる若者へのエール
- おわりに