結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年6月14日 Vol.220
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
気持ちのいい春から、 雨の季節へと移りつつありますね。
雨の季節。
雨の季節というと、 新海誠監督の『言の葉の庭』という映画を思い出します。
この映画を初めて観たとき、 まったく予備知識なしで観たので、
「いったい何が起こるんだろう」
という気持ちでいっぱいになりました。 美しい映像が物語にぴったり合っていて、 とても好きな作品の一つです。
以下が公式サイトですが、トップに予告動画があるので、 もしも「予備知識なしで観たい」という方はご注意ください。
◆『言の葉の庭』
http://www.kotonohanoniwa.jp
* * *
Web日記の話。
結城はWeb日記を自分のサイトで公開しています。 現在のフォーマットにしたのが2002年ですから、今年で約14年。 以下で公開しています。
◆結城浩の日記
http://www.hyuki.com/d/
◆結城浩の日記(過去日記一覧)
http://www.hyuki.com/d/#calendar
約14年というと月単位で並べてもこれだけの分量になります。 ちょっとした分量ですよね。
最近は、日々の活動や思うことを書くときには Twitterでさくっとツイートする方がずっと多くなってしまいました。 でも、Web日記を完全にやめちゃうのは抵抗があります。 何しろ14年も続けてきたわけですから。
たまに読み返すと、懐かしい記事が見つかります。 たとえばこちらの日記は『数学ガール』(無印)が刊行されて、 結城の手元に本が初めて到着したころ(2007年6月)の日記です。
◆2007年6月26日の日記
http://www.hyuki.com/d/200706.html#i20070626224554
いまからちょうど9年前の話!これが一冊目ですから、 当然まだ「数学ガールの秘密ノート」シリーズもありません。 最近は「数学ガール」どっぷりの毎日なので、 この日記はたいへん新鮮な感覚で読めました。
以下の日記は2002年1月11日のもので、 「文章教室」というWebコンテンツを更新したというアナウンスです。 「文章教室」というWebコンテンツは10年以上の年を経て、 『数学文章作法』という書籍に結実したことになりますね。
◆2002年1月11日の日記
http://www.hyuki.com/d/200201.html#i20020111000000
これだけ昔の日記を、もしも紙の日記帳に書いていたら、 現在まで残っていただろうか。 あるいはファイルに書いたとしても、 どこにも公開せずに自分のコンピュータ上だけに置いていたら、 現在も読めただろうか。 ときどき、そんなことを思います。
「Webで公開しておく」
というのは、ほんとうにうまい情報の保存方法だと思います。
もし紙の日記帳だったら、引っ越しのどさくさでなくなりそう。 自分のコンピュータだけに置いていたら、 どれがマスター版かわからなくなりそう。 単なるファイルとして置いてあっても読み返しにくいですしね。
でも、Webで公開してしまえば、その心配はなくなります。
他の人にとって読みやすいものは、
自分にとっても読みやすい。
そんなことが言えそうです。
Webというのはほんとうにありがたい発明だと思います。
そして、
「自分の成果物をWebで公開していく」
という発想で活動してきた、昔の自分をほめてあげたい。 その発想のおかげで現在、 こうやって自分の成果物を振り返ることができるわけですから。
あなたは、自分の成果物、 どのように管理していますか。
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インタビューの話。
結城の『暗号技術入門 第3版』の中国語版(簡体字版)が刊行されます。 それを記念して、 出版会社Turing Booksが運営している「iTuring Interview」 というWebコラムに結城浩のインタビュー記事が掲載されました。 以下で中国語版・日本語版を読むことができます。
◆結城浩へのインタビュー(日本語版)
http://www.ituring.com.cn/article/216184
◆結城浩へのインタビュー(中国語版)
http://www.ituring.com.cn/article/216181
このWebコラムでは、読者の「著者について知りたい!」 という要望に応えるため、総計100名以上の著者にインタビューしています。 クヌース先生やカーニハン氏もインタビューされていますね。 Webコラムの上とはいえ、その並びに加われるなんて光栄なことです。
◆Webコラムの一覧(中国語)
http://www.ituring.com.cn/minibook/12
クヌース先生のインタビューは冒頭からなかなか深い話が。
◆クヌース先生へのインタビュー(英語版)
http://www.ituring.com.cn/article/742
◆クヌース先生へのインタビュー(中国語版)
http://www.ituring.com.cn/article/details/747
◆カーニハン氏へのインタビュー(英語版)
http://www.ituring.com.cn/article/1592
◆カーニハン氏へのインタビュー(中国語版)
http://www.ituring.com.cn/article/1725
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学校の話。
ふと、こんなことを考えました。
「自分が生きていくために必要な知識のかなりの部分は本から得られる」
まあ、あたりまえのことですが、 でも、そもそもこの「知識は本から得られる」という知識は、 学校で教えているでしょうか。 あまりにもあたりまえ過ぎて教えていないでしょうか。 わたしは学校で教わった記憶はないのですが、 忘れてしまったのでしょうか。
本に限った話ではありません。 学校は「知識」を教えるだけではなく、 「知識を得る方法」を教えているでしょうか。
どうでしょうね。
こんなふうに話してくると、 まるで学校を非難しているように聞こえるかも知れませんが、 そうではありません。素朴な疑問なんです。
もっとも、結城は必ずしも「知識を得るため」に本を読んできたわけじゃありませんね。 結果として知識は得たけれど、それを主目的として読んできたわけじゃない。 役に立つから知識を得ようとしたのでも、役に立つから本を読んだのでもない。 もっと単純で、
「おもしろいから本を読んできた」
というのが正確な状況だと思います。
学校の授業も、自分の将来に役立つから聞いていたわけじゃなくて、 おもしろいから聞いていたし、おもしろいから勉強していたような。 そして「おもしろい」と思ったことだけ、自分の身についている。 そんなふうに感じます。
あなたは学校で、 自分の進路について「ちゃんと」考えましたか。
結城は、長期的な展望に立って自分の進路を切り開いていく、 という意識はほとんどなかったし、 現在でもそんな意識はないですね……
* * *
Twitterでの「数学の問題」の話。
先日、Twitterで結城をフォローしてくださる方が32000人になりました。 たくさんの方にフォローしていただけて大変光栄なことです。
フォローしてくださる方が多いせいかどうかわかりませんが、 最近「数学の問題」をTwitterで出題することがとても多くなりました。 たとえば、以下のリンクでは結城が出題した問題が出てきます (Twitterでの検索リンクです。読み物としてまとめようとしましたが、 あまりにも数が多かったので、またいつか)。
◆結城浩がTwitterで出題した「数学の問題」
https://bit.ly/1PnCC73
フォローしてくださる方が多いと、 問題を出題したときの反応も多くなりますし、 解答のバリエーションも増えます。 アンケート結果も見ていて楽しくなります。 感謝なことですね。
最近はアンケートで出題することも、 また手描きの画像を使って出題することもあります。 いずれにしても問題の出題は楽しいです。
問題ができるだけあいまいにならないように (でもくどくならないように)したいですし、 アンケートでの出題なら、選択肢をうまく用意したい。 手描きの画像なら、眺めても楽しくなるような絵にしたい。
どんなに簡単な問題でも、気まぐれな出題でも、 せっかくなので読者さんに楽しんでもらいたいのです。 そのための工夫を考えるのはとても楽しいことです。
そして、おもしろいことに、 そのようにして工夫して出題すると、 問題で扱っている内容は自分自身の頭にもしっかり残るんです。
問題として出題すると、 数学の概念が自分の中に定着するなんて、 すてきなご褒美ですね!
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心がけの話。
結城は何か仕事や作業をするとき、 いつも「心がけ」を見つける習慣があるようです。
「本を書く」でも「プログラムを作る」でも、 あるいはもっと家庭的な作業、 たとえば「ゴミ捨て」でもかまいません。 ともかく自分が何かを行うときに、
どうしたら、うまくいくだろうか。
を考える習慣があるということです。 そして、何かがうまくできたとき、
なぜ今回はうまくいったんだろうか。
次回もうまくいくためには、
どんな《心がけ》をすればいいのか。
と考えるのです。
だからこそ結城は「○○の心がけ」 のような文章をよく書くのですね。
◆結城浩の心がけ
http://www.hyuki.com/writing/
どうも結城は、 何かの心がけ……ゆるい行動規範のようなもの……を見つけ、 それに従って行動するのが好きなようです。
自分がやっていることはいきあたりばったりじゃない。 行動規範に従っているのだ、と感じたいのかも。
そうやって一つメタの立場に立って考えたり、 行動を観察したりするのが楽しいのでしょうね。 あなたはいかがですか。
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アマゾン定期おトク便の話。
結城の家では、定期的に買うものをアマゾン定期おトク便で買っています。
◆アマゾン定期おトク便
http://amzn.to/1YmFc4G
これを使うと、重いものでも頻繁に買いに行かなくてすみ、 買い忘れの心配もなく、しかも近所の店で買うよりも安いのです。 ここまで顧客にメリットが多いとアマゾンを使わない理由がない! ……といいたくなるほどです。
定期的に配達してくれるというのは、 「三河屋さんの御用聞き」の現代版といえそうです。
「アマゾン定期おトク便」のようなサービスは、 できてみれば当たり前に見えますけれど、 これを実現するためにはいろんな障害があるのでしょうか。
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クヌース先生の話。
先日、クヌース先生(Donald E.Knuth, TeXの生みの親)が書いた、 TAOCP(The Art of Computer Programming)という本を読んでいました。 ふと、ちょっとした改善箇所に気付いたので、 どきどきしながら指摘メールを送りました。
クヌース先生は誤りの指摘におもしろいシステムを採用していて、 世界で最初に誤りを指摘した人に「小切手」を送ってくれるのです (といっても、現在は諸事情によりおもちゃの小切手ですが)。
そして、まちがいを指摘した人は、 "The Bank of San Serriffe"(サンセリフ銀行) という仮想の銀行にアカウントが作られ、 まちがいの指摘数に応じた残高が記録&公開されているのです。
クヌース先生は有名な完璧主義者で、まちがいが非常に少ない。 そんな先生の本にまちがいを見つけるというのは自慢できること。 要するにサンセリフ銀行のアカウント残高は、 TAOCPを読む層にとって自慢なのです。
◆サンセリフ銀行のアカウント残高一覧
http://www-cs-faculty.stanford.edu/~uno/boss.html
ちなみに結城はすでにアカウントを持っております(自慢)。
◆Knuth先生から小切手をいただきました!(2013年7月26日の日記)
http://bit.ly/1c8VbdE
◆和田英一先生の残高は0x$23.00ですね(なお、23は16進数)
今回の指摘メールでまた残高が増えるといいなあ……
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「あたりまえ」と「あらためて」
文章を書いていて気付いたことがあります。 結城はどうも、
「あたりまえ」のことを、
「あらためて」考える。
というのが好きなようです。
自分が見たもの、聞いたもの、ふと思いついたこと。 それが「あたりまえ」だとしても「あらためて」考える。 どうもそれを楽しく感じるようなのです。
「あたりまえ」というと、考えるのをそこでやめそうになります。 だって、あたりまえなんですから。考えるまでもないことなんですから。 でもあえてそこで「あらためて」考えてみる。
・ほんとうに「あたりまえ」なのかな。
・自分は「あたりまえ」と感じたけれど、実は違うんじゃないかな。
・「あたりまえ」と思っていたけど、見逃している要素があるんじゃないかな。
そんな疑問がふわふわっと心の底から浮かび上がってくるのです。
そして実際、どんなことでも、いろんな角度から見ることができます。 少し考え直すだけで新しい局面が発見できるものです(ほんとに)。 結城は、そういう発見が大好きです。
「あたりまえ」のことを「あらためて」考える。 そして何かしらの発見がある。そうすると、 つまらないと感じていた毎日が、 おもしろくないと感じていた生活が、 新しく生き生きと輝き始めるのです。
なーんだ。 毎日がつまらないのではない。 生活がおもしろくないのでもない。 ただ、自分の目が曇っていただけじゃないか。
「あたりまえ」のことを、
「あらためて」考える。
あなたもぜひ、お試しください。
* * *
では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 再発見の発想法 - デファクトスタンダード
- 書籍の「自炊」で思うことあれこれ - 仕事の心がけ
- 学びを支える要素 - 教えるときの心がけ
- 『数学ガール6』を書きながら - 本を書く心がけ
- おわりに