結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年1月10日 Vol.250
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
早いもので2017年になって、もう十日目ですね。
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数学ガール6の話。
今年に入ってから『数学ガール6』第3章を書いています。 大きな骨組みと素材は十分用意できているので、 正確には「書いています」よりは「読んでいます」の方が的確ですね。
しかしながら、あちこちがぎくしゃくしているし、 トーンの調整も出来ていないし、物語の運びがわざとらしいので、 直す部分はまだまだたくさんありますね。 これからしっかり磨いていかなければなりません。
それにしても、まだ第3章をうろうろしている状態。 第10章にたどり着くのはいつになるでしょう……
いや、違います!
そんなことで不安にならず、淡々と現在のテキストに集中しましょう!
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寿命100年時代の話。
結城はリンダ・グラットンさんの『WORK SHIFT』という本が好きです。 そのリンダさんが新刊の『LIFE SHIFT』を出したタイミングで、 糸井重里さんと対談していました。 以下がその対談記事です。
◆寿命100年時代をどう生きる?
http://www.1101.com/lynda2/index.html
ここには三回に分けて「寿命100年時代」 をどのように生きるかが書かれています。 たいへん興味深く読みました。
特に、自分の人生を「学ぶ時期/会社勤めの時期/引退後」 のように3ステージとしてとらえることから変化するという話は、 深く共感するものがありました(「人生のマルチステージ化」)。
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旅をしたり、経験を積んだりして社会の見聞を広める
「エクスプローラー」のステージ。
キャリアを外れ、自分で職を生み出す
「インディペンデント・プロデューサー」のステージ。
同時にいくつもの活動に関わる
「ポートフォリオ・ワーカー」のステージ。
すでにいま、そういった生き方を選ぶ人たちが
増えてきているんです。
http://www.1101.com/lynda2/index.html
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ここからは、連想して結城が思ったことです。
寿命が延びたとしても、自分には老いがやってくる。 老いを「劣化」としてとらえるのではなく「変化」としてとらえたとき、 その変化をどのように自分が生きる時間軸に収めるのがいいのでしょう。
若い時代に「自分の人生はこうでなければいけない」 と思っていたのと違う何かが起きるとき、起きたとき、 それをどのように受け止めるのがいいのでしょう。
能力的にあるいは経済的に受け止められない事態が起きても、 自分が柔軟な価値観を持っていたら、ぐっと(あるいはふわっと)、 どんな事態でも受け止められるのかもしれません。
そこには一見「矛盾」に見える現象があります。
しっかりした信念を持ち、トラブルに備える計画性があったとしても、 いつでも想定外のことが起きるものです。 自分には限界があり、すべてを予見して備えることはできない、 そのようなことを認めたときこそ、備えができつつあるのかも。
人生は謎に満ちていますね。
◆『ワーク・シフト ─ 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009DFJE9Q/hyam-22/
◆『ライフ・シフト ─ 100年時代の人生戦略』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01LYGI45Q/hyam-22/
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百人一首の「五文字要約」の話。
Suto Kentaroさんの個人サイト「ねこいりねこ」には、 面白いコーナーがたくさんあります。 以下のページは、小倉百人一首を一首ずつ「五文字要約」しています。
◆小倉百人一首(ねこいりねこ)
http://catincat.jp/information/100nin1sh.html
上記サイトから、いくつか例を引用します。
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣り舟
↓
旅に出ます
忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふど 人の問ふまで
↓
顔に出た恋
夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関は許さじ
↓
逢うの無理
ひとつひとつの要約もおもしろいのですが、 そもそも「五文字要約」をしようという発想がおもしろいですね。 五文字という制約を自分に課すことで、 新しいユーモアや発見が生まれているようです。
このサイトは、まきむぅ(牧村朝子)さん (@makimuuuuuu)のツイートで知りました。
https://twitter.com/makimuuuuuu/status/815930515882577924
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「過度の一般化」を避ける話。
「過度の一般化」を避けるだけで、人生はちょっぴり楽になります。 「過度の一般化」というのは、
自分が見聞きした少数の例が○○になっていることから、
すべてが○○になっていると結論すること
を意味します。P(a)から∀x[P(x)]を導出するようなこと。
たとえば「自分と同世代の《あの人》や《この人》がやってること」は、 「同世代の人すべてがやっていること」だと考え、 さらには「同世代である自分もやらなくてはいけない」と考えること。 それは、典型的な「過度の一般化」でしょう。
「過度の一般化」を避けるコツを一つ伝授します。 自分が「○○をしなくてはいけない」と感じるとき、 しなくてはならない理由を明示的に文章に書いてみることです。 私は「なぜ」これをするのかを考える。それを文章にしてみる。 文章として書かなくてもかまいません。 口に出してみて、吟味する。自分は○○をしなくていけない理由は何か、と。
ときには他人が「過度の一般化」を理由にして、 あなたに何かを強制してくる場合があります。
他の人もみんなやっていることだから、
あなたも○○しなさい。
という主張ですね。これは「同調圧力」と呼ばれることもあります。
「同調圧力を掛けてくる日本社会はまちがっている!」とか、 「世間の目が気になる日本は住みにくい」などと主張するのもいいですが、 まずは、自分の目の前の行動に注力するのも大事です。 世の中を呪詛する気持ちもわかるけれど、 自分の次の一歩で《革命》を起こす案はいかがでしょう。 《革命》というと物騒ですが、
あなたはそうおっしゃいますが、
私は○○しません。
という道があることを意識するという意味です。
あなたはそうおっしゃって、
私に同調圧力を掛けてきましたが、
私は自分の判断で、こうします。
もちろん、この判断でこうむる不利益はわかっています。
でも、私はこちらを選びます。
という一言がありえるという意味です。 いままで言えなかったこの一言が、 ある日、あるとき言えたなら、それは《革命》の名に値します。 もしも、誰も、この一言を言えないとしたら、 何万年経っても世の中は変わらないでしょう。
実際、どんな選択肢にも、 メリットとデメリットはあるのです。 選択するというのは、メリットとデメリットの両方を享受するということ。
もちろん「この場面では長いものに巻かれておくか」も選択肢の一つです。 他者に文句を言われる筋合いはありません。 革命家からの同調圧力に屈してはいけません。
おい、お前も、同調圧力に負けず革命起こせ!
みんなやってるぜ!
革命してないのはお前だけだ!
というのはナンセンスですね。自己言及的なナンセンス。
私は、各人の選択を尊重することは「多様性の受容」に繋がると思います。 本人がよく考えて選択したことなら、その選択を尊重する。 人の選択の多様なあり方を認め、尊重する。 そのような選択の尊重は、 相手をきちんと生身の人間として扱うことに通じると思います。
とはいうものの、話はそんなに単純じゃありません。 ある人が、明らかに危険な道に踏み込もうとしているとき、 それは「個人の選択だから、危険な道に進むのも尊重しよう」 と言って見過ごすべきなのか。 それとも「そっちに行くな!それは危険だぞ!」と言うべきなのか。 それは単純な話ではありません。まったく単純じゃないのです。
しかしながら。
自分が「過度の一般化」を行っていないか。 同調圧力に屈してばかりいないか。 それを振り返るのは、決して無駄なことではありません。 自分の生き方を不当にゆがませないようにするために。
あなたはどう思いますか。
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点のまとまりの話。
じゃがりきんさん(@jagarikin)が、おもしろい動画をツイートしていました。
https://twitter.com/jagarikin/status/816406112886890496
これは、いくつかの点がぐるぐると動いている動画です。 そこに描かれる大きな円が変化することによって、 点の動きが変わるように見えるのですが、 実は点の動きはまったく変わっていないというのです。 以下、上のツイートの動画から画像をいくつかキャプチャしました。 動画は上のツイートのリンクをたどってください。
人間の目がまとまりを認識してしまうために、 こんな見え方になるのでしょうか。
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ディープラーニングの話。
「機械学習」や「ディープラーニング」という単語をよく耳にします。 いまのところ結城はこれらについて何か語れるほどの知識はありません。 もちろん関心はありますし、いくつか本をながめています。
そんな中、ネットで評判がよかったので、 こんな本を買ってみました。
◆『ゼロから作るDeep Learning
Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装』(斎藤康毅)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4873117585/hyam-22/
これは大変いい本だと感じました。お勧めです。 お勧めの理由は以下の通り。
・Pythonを知らない人にも配慮している。
けれど、あまり細かいところまでくどくどとは書いていない。
・行列の計算方法を知らない人にも配慮している。
・細かすぎる内容にはあまり立ち入らず、
淡々といろんな手法を語っている。
・語るときには必ず具体的なコードと図を示している。
なので、 細かすぎず粗すぎもしないという粒度になっていますね。
結城がぱらぱら読んだ中での不満点も一応書いておきますと、
・「なぜ」その方法でうまくいくのかという理由、
その記述がいまひとつ物足りなかった。
・最初から最後まで、同じテンポだったので、
ややもどかしかった。
最初はもっとゆっくりで、最後はもっと急いでほしかった。
でも、これらの不満点は些細なことです。 この本は、多くの人に助けになると感じました。
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ネット上のもめごとの話。
Twitterでは毎日のようにもめごとが起きていますが、 インターネットのWebページが広がり始めた遠い昔から、 「Web掲示板」や「Webチャット」でも同じようなもめごとが起きていました。 人間は変わらないものですね。
ところでその時代から結城が見つけた法則をいくつか列挙します。
「人は、自分が言われると嫌なセリフを攻撃に使うもの」
言い換えると、その人が攻撃に使っているセリフは、 その人が言われたら嫌なセリフということになりますね。
「言い合いで、最後の一言を言いたがる人は愚か者にみえる」
つまり、捨て台詞は愚かに見えるということです。
「人は、自分と何かが《同じ》相手と激しく争う」
愛憎わかちがたいとも言えますし、同族嫌悪とも言えます。
「愚かな人は、目の前の論敵を負かすことだけを考える。 賢い人は、多くの見えないギャラリーの存在を意識する」
ネットでは、やりとりされる発言をたくさんの人が無言で見ています。 もめごとの相手のことだけを考えるのは賢明ではありません。
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「おみせやさん」の話。
辞書編纂者の飯間浩明さん(@IIMA_Hiroaki)が、 こんなツイートをしていました。
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「新年明けましておめでとう」はおかしい、
新年が明けたら来年になってしまうではないか
という意見があります。
でも問題ない。
「毛糸を編む」でなく「セーターを編む」、
「水が沸く」でなく「湯が沸く」という言い方があります。
結果を主語に持ってくる語法が日本語にはあるのですね。
https://twitter.com/IIMA_Hiroaki/status/815710021665234944
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なるほど。
このツイートで結城は、幼稚園のころの疑問を思い出しました。
幼稚園のとき「おみせやさんごっこ」という遊びがありました。 同じクラスの園児が紙で「お金」を作り、 折り紙や毛糸などを材料にして「商品」を作るのです。 ある子は果物屋さんになり、別の子はお花屋さんになるという具合です。
何日か掛けて「お金」や「商品」を準備しておいて、 準備が出来たところで「おみせやさんごっこ」を開きます。 園児同士が売ったり買ったりのまねごとをして楽しむのです。
園児時代の結城も「おみせやさんごっこ」を楽しみにしていたのですが、 ふと気がつきました。
「果物屋さん」は「果物」を売る。
「お花屋さん」は「お花」を売る。
だとしたら、
「おみせやさん」は「おみせ」を売るのか?
そんな疑問を抱いたのです。 「○○屋さん」という呼称には一貫性がないと思ったということです。
さらに「世の中には『おみせ』を売る商売もあっていいはずだ」 と考えたことも覚えています。 幼稚園児のときに考えていたことと、現在考えていることは、 あまり違いがありませんね……
ところで後日談。
幼稚園で実施される「おみせやさんごっこ」の当日。 身体が弱かった結城は風邪を引いて幼稚園をお休みしてしまいました。 せっかく楽しみにしていたのに……。 家の布団で横になって、
ああ、いまごろ、みんな、
『おみせやさんごっこ』してるんだ……
いいなあ……
と、悲しい気持ちになりました。涙がこぼれそう。
二日ほど過ぎて風邪が治った後、 祖母が、私一人のために「おみせやさんごっこ」をしてくれました。
結城が畳の上に折り紙で作った商品を並べ、 祖母が紙で作ったお金を持って「浩ちゃん、これくださいな」 と買い物に来るのです。
楽しみにしていた「おみせやさんごっこ」に参加できずにいた私。 そんな私をなぐさめるために、 たった二人だけの「おみせやさんごっこ」を開催してくれた祖母。
そんな、やさしいおばあちゃんのことを、 いまでもなつかしく思い出します。
別の意味で、涙がこぼれそうになりながら。
* * *
それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 天使が指をさしている - 本を書く心がけ
- 誤りの指摘 - 文章を書く心がけ
- 書くことはスキーに似ている - 文章を書く心がけ
- 必要な、はげましの言葉
- おわりに