結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年10月3日 Vol.288
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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体調が悪いときの話。
自分の体調が悪いとき、 結城は「人を励ましたくなる」という傾向があるようです。
体調が悪いとき、結城は機嫌が悪くなるのですが、 それと同時に「励ましたい」という気持ちも強くなるのです。
不思議です。
「励ましたい」という気持ちをもう少し具体的に書くなら、
・相手が見逃している相手の良いところを探し出し、
・その「良いところ」に注目したらと相手をうながす
ということのようです。
つまり、何かお世辞をいって元気出させるというのではなく、 何かしらの「発見」を見出したくなるということでしょうか。 まあ、理屈は通っています。
でも、自分の体調が悪いときに、 なぜそんな「発見」をしたくなるんでしょう。
結論はまだわからないのですが、どうも、 「自分自身に対しても同じことをしたいから」 という理由のようです。
つまり、自分の体調が悪いので、
・自分が見逃している自分の良いところを探し出し、
・その「良いところ」に注目したらと自分をうながす
ということを自然とやりたくなるらしいです。
人間って、複雑なのか単純なのかわかりませんね……
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よい職場環境を作る話。
先日、RubyKaigiというカンファレンスがありました。
◆RubyKaigi 2017
http://rubykaigi.org/2017
結城は参加していないのですが、 楽しそうに参加している人たちのツイートを眺めていました。
そんな中、@selmertsx さんのこんなツイートを見かけました。
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弊社はRubykaigiへの参加は出張扱いだったので、
参加費、宿泊費だけでなく、
前日移動分の代休まで貰えたことをアピールしておきます #rubykaigi
https://twitter.com/selmertsx/status/913352416594092033
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開発に関わる会社であっても、 RubyKaigiへの参加を業務と認めない会社の場合、 参加する人は自腹で参加することになります。ですから、 出張扱いにしてくれる会社というのは開発者にとって魅力になります。
結城は、こういう「弊社の良いところアピール」って大好きです。 自分が勤めている会社への言及というと、 つい愚痴になったり不満になったりすることが多いと思いますが、 このツイートのような「弊社の良いところアピール」 は読んでいて気持ちがいいですね。
結城がこのようなアピールが好きな理由は、 単に読んでいて気持ちがいいからだけではありません。 このようなアピールは、
「みんなで幸せになろう」
というメッセージにつながってると感じるからです。
会社側が「そうか、開発者にはこういう措置が喜ばれるのか!」 という理解に至ることもあるでしょうし、 会社広報的にも低コストでいい効果があるかもしれません。
「弊社の良いところアピール」は、 みんながやるといいと思います。 そうすると、その「良いところ」 が業界の共通認識になっていくのではないでしょうか。
ちなみに、RubyKaigi 2017のWebページにある、 「アンチハラスメントポリシー」はすばらしいですね。 「衝突なくつどえる場の維持」のため、 このような宣言を明示的に掲げておくのは、 とても大切なことだと思います。
◆RubyKaigi Policies
http://rubykaigi.org/2017/policies#ja
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映画の話。
先日アマゾンプライムビデオで、 「ジャックリーチャー:Never Go Back」を見ました。
◆ジャック・リーチャー: Never Go Back (字幕版)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B06XDJN3LY/hyuki-22/
ぜんぜん期待をせずに見たのがよかったのか、 予想以上によい映画だと感じました。
で、どこがよかったのかを説明しようと思い、とほうにくれました。 ストーリーも、アクションも、敵の造形も、伏線とその回収も、 ラストの盛り上がりも全体的に「いまひとつ」だったからです。
でも「見てよかった」と感じました。
いったいなぜだろう……と考えてみると、 ひとえに「登場する少女に対するトムの演技が心にしみた」からのようです。 ずいぶん顔のしわも増えてきたトム。 そのトムが、自分の子供かもしれない少女のことをじっと考えるシーンに、 不思議なほど心動かされました。
ぜひあなたも見るといいよ!おもしろい映画だよ! とは勧められません。
トムの表情にしみじみとしたものを感じた映画でした。 こういう楽しみ方もあるんですね。
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質疑応答と信頼関係の話。
相手に質問した後で、
「イエスかノーかで答えてください」
という要求をする人がときどきいます。
このような要求は、 よっぽどうまく使わないと適切な質疑応答にはなりません。
「イエスかノーかで答えよ」という要求によって、 「質問」は「詰問」に変化してしまうことが多いからです。
「イエスかノーかで答えよ」という要求は暗黙のうちに、 質問者の「あなたの前提条件を聞く耳は持たない」 という態度を示します。
「イエスかノーかで答えよ」という要求によって、 質疑応答の場が「相手から情報を引き出す場」から、 「相手を糾弾する場」に変化しかねません。 それが意図したことでないならば、 留意したほうがいいですね。
きちんとした質疑応答が成り立つためには、 ある程度、互いの理解や信頼が必要になります。 私にはそれは当然のことだと思えます。 答えがまったく信頼できない人に質問をする意味はないからです。 詰問や糾弾をしたいならば別ですけれど。
あげ足を取る態度や、言質を取る態度や、 言葉尻をつかまえる態度があると、 質疑応答の場はぎこちなくなります。 回答者は過度に防御的・攻撃的になったりします。 質問者に意図がなくても、言葉遣い一つでがらっと場が変わることがありますので、 なかなか難しいですね。
「それはどういう意味?」と聞き返すだけのことでも、 相手と状況によってはチャネルが壊れてしまうことがあります。 議論し合う研究者同士と、 生まれて初めて先生に質問に来た小学生とは違うのです。
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マストドンの話。
結城は分散型SNS「マストドン」のインスタンスを一つ運営しています。
◆social.hyuki.net
https://social.hyuki.net/
これはいわゆる「おひとりさまインスタンス」で、 このインスタンスにアカウントを持っている実質的なユーザは、 結城ひとりです。
「実質的な」と書いたのは、 厳密にいえばこのインスタンスにも複数のユーザがいるからです。
先日、結城はこのインスタンスに「連ツイ紹介アカウント」を作りました。
◆連ツイ紹介アカウント
https://social.hyuki.net/@rentwi
このアカウントは、自動的に動作するbotで、 結城がTwitterで連続的なツイートをすると、 それを自動的に察知してトゥートします。
「結城浩が連ツイしてるよ!」
と紹介するアカウントというわけですね。
そんなアカウントを作って何の役に立つかというと……ええと…… おもしろいからいいのです!
結城が運営する「おひとりさまインスタンス」には、 現在以下のアカウントがあります。
◆結城浩(本人)
https://social.hyuki.net/@hyuki
◆結城浩のブックマーク(ブックマークを自動的に紹介)
https://social.hyuki.net/@bookmark
◆「結城浩の連ツイ」紹介(連ツイを自動的に紹介)
https://social.hyuki.net/@rentwi
◆RSS/Atom Feed Watcher(いくつかのサイトの更新を自動的に紹介)
https://social.hyuki.net/@rss
せっかく「おひとりさまインスタンス」を運営しているんだから、 何かおもしろいことできないかなあ……とあれこれ試しているのです。
上に書いた「結城浩のブックマーク」というのは、 結城がはてなブックマークでWebサイトを登録すると、 そのことをトゥートするアカウントです。
これを実現する仕組みはやや複雑です。 図に描いてみました。
ブックマークをつけると、 自動的にそれがTwitterでツイートされます (これははてなブックマークの機能)。
結城のサーバ上でcronで動いているプログラムは、 定期的に結城のツイートを調べます。 そして、はてなブックマークからのツイートを識別して、 マストドンにトゥートします。
IFTTTで動いているレシピは、 マストドンのRSS出力を調べ、 それをEvernoteに保存します。
このようにして、結城がブックマークを付けた情報は、 Twitter, Mastodon, Evernoteに流れているのです。
そんな流れを作って何の役に立つかというと……ええと…… おもしろいからいいのです!
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「コミュニケーションは方法選択から始まっている」という話。
ときどき、
メールで気持ちを伝えるのは難しいから、
直接会って話がしたい。
という人がいます。あるいは逆に、
表情を読んで感情を推察したり、
リアルタイムに返事したりするのは難しいから、
メールで話したい。
という人がいます。
注意したいのは「どちらが正しい」とは決めつけられないということ。 「直接会って話した方がいい」と「メールで話した方がいい」とは、 どちらもありうる話なのです。
コミュニケーションにはいろんな要因があります。 文章、声、表情、リアルタイムかどうか、 物理的な距離、周りに他人がいるかどうか、 そういった無数の要因はコミュニケーションに影響を及ぼします。
会った方がいいのか、メールの方がいいのか、 絶対の正解はありません。 ともかく暫定的にどうするか決めなければ話が進みませんから、 初めての相手なら、 「とりあえず会いましょう」や「まずはメールで」 ということになるでしょう。 でも「こうでなければならない」と決めつけてしまうのは、 品質低下を招く場合もあるでしょうね。
特に大事なのは、自分にとって都合のいい方法が、 必ずしも相手にとって都合がいいとは限らないという点です。 コミュニケーションは内容が大事だ、 というのは真実の一面に過ぎません。 形式や方法に無頓着になるのはもったいないことです。
象徴的な例を一つ挙げましょう。
大人が小さな子供と話をするときのようすを想像してください。 そのとき大人は「膝をかがめる」かどうか。 すなわち、大人が小さな子供と目線の高さを合わせて話すかどうか。
「子供が話す言葉の内容」と「大人が膝をかがめること」 との間に直接的な関係はないかもしれません。 でも、内容は変化しそうじゃありませんか。
コミュニケーションは、 コミュニケーションの方法選択から始まっています。 どの方法を選ぶかによって、内容も変化することがあるからです。
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印象深い声を持つ女性ヴォーカルの話。
2007年に結城は、
「印象深い声を持つ女性ヴォーカルを教えてください」
という記事を「はてなダイアリー」に書きました。
そして多くの方から情報を教えていただきました。
◆(2007年)印象深い声を持つ女性ヴォーカルを教えてください
http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20070310/vocal
今年は2017年ですので、あれから10年目。 イマドキの情報が欲しくなったので、 Twitterで尋ねてみました。 新しい情報をリプやハッシュタグで教えて!
そしてまた多くの方から情報をいただきました。
◆(2017年)印象深い声を持つ女性ヴォーカルを教えてください
https://togetter.com/li/1152871
あまりにも多すぎて、まだすべてはチェックできていません。 でも、こういう形で紹介いただかなければ、 なかなか出会えない歌声にたくさん出会うことができ、 結城はとてもしあわせです。
2007年では「はてなダイアリー」のコメント欄などで情報をいただき、 結城がそれを記事に反映する形でまとめました。
2017年では、Twitterで情報をいただき、 そのツイートをtogetterとしてまとめました。
紹介されている歌い手だけではなく、 呼びかけ方と情報のまとめ方も、 10年で変遷していることに気づきました。
おもしろいですねえ。
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それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- データ保存とネットワーク
- 「優秀なプログラマ」の話 - 文章を書く心がけ
- 文章が完成間近になったときに感じるつらい気持ち - 文章を書く心がけ
- おわりに