Vol.307 結城浩/再発見の発想法 - ロールオーバー/人を惹きつける文章を書く/効果的な勉強法/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年2月13日 Vol.307

はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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『数学ガール/ポアンカレ予想』の話。

先日『数学ガール/ポアンカレ予想』の本文のみ脱稿していましたが、 先週になって残っていた原稿(エピローグ、 参考文献と読書案内、あとがき)を脱稿しました。 これでようやく一段落です。

といっても気を緩めるわけにはいかなくて、 2018年春の刊行を目指して時間との闘いになります。 今週はイラストとカバーの打ち合わせがあり、 来週には初校が到着。 来月上旬には初校の読み合わせと作業が盛りだくさん。

大きめの修正はとにかく今月中に片づけなくては。

6年振りの「数学ガール」新作、 応援よろしくお願いいたします!

 ◆『数学ガール/ポアンカレ予想』
 http://www.hyuki.com/girl/poincare.html

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『プログラマの数学 第2版』の話。

2018年1月に刊行した『プログラマの数学 第2版』ですが、 ようやく電子書籍が出始めました! 編集部からはデータ送信は済んでいますが、 電子書籍の書店ごとに販売開始時期は異なるようです。

以下のリンクはアマゾンへのリンクですが、 不思議なことにまだ「単行本(紙版)」と「Kindle版」 とのあいだにリンクが張られていません。 つまり、単行本のページをウオッチしていても、 Kindle版の存在がわからないことになりますね。 担当氏によりますと数日でリンクは張られるらしいですが、 ご注意ください。

 ◆『プログラマの数学 第2版』Kindle版
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B079JLW5YN/hyuki-22/

 ◆『プログラマの数学 第2版』単行本(紙版)
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797395451/hyuki-22/

楽天Koboでも配信が始まったようです。

 ◆『プログラマの数学 第2版』楽天Kobo電子書籍版
 https://books.rakuten.co.jp/rk/d6ccb0078e42388984820728554ee6ef/

また、Webですぐに読める「Web立ち読み版」も公開されています。 目次から第1章の終わりまで読めます。登録不要、もちろん無料です。

 ◆『プログラマの数学 第2版』Web立ち読み版
 http://ul.sbcr.jp/MATH-yCEtr

 ◆『プログラマの数学 第2版』
 http://www.hyuki.com/math/

応援よろしくお願いいたします。

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書店に自著が並ぶ話。

最近、新刊の話題をよく書くためか、 「書店に自分の書いた本が並ぶというのはどんな気分ですか?」 というご質問をいただきました。

控えめに言っても、最高にうれしいですね。

単純な「うれしさ」とも違い、 「うれしさ」と「誇らしさ」と「気恥ずかしさ」と 「感謝」と「わずかの不安」が入り交じったような、 そんなドキドキ感があります。

これまで結城は何十回も自著が書店に並んでくるのを見てきましたが、 毎回このドキドキを味わいます。

もちろん、書店に並んでいる自分の本を手にとって、 ページをぱらぱらとめくることもあります。 そこに書かれている文章は校正のあいだに何度も何度も読んだものですが、 書店でぱらぱら読むとまた違う印象を受けるものです。

そしてその感覚をしっかりとらえることは大事だと思います。 なぜなら、その書店で私の本を手に取る読者は、 まさにその場所でいま自分がやっているようにぱらぱら読むからです。

まわりにどんな本が置かれているか、 重さはどうか。立って読むときのページのめくりやすさはどうか。 店頭で本を手にするときには、 文章を校正しているときとはまったく違う要素があることがわかります。

これまで、 書店で自著が購入される瞬間を見たことが数回あります。 非常に重要な体験でした。その購入者は本を手に取り、 はじめの部分をじっくり読み、途中をぱらぱらと眺め、 本の最後にある値段を確認し、また途中を眺め、 そしてレジへ持っていきました。

そのあいだ、少し離れたところで私はその様子を 不審に思われないよう注意しつつ、じっと眺めていました。

そのとき結城が感じたのは、 読者さんはひとりひとりこんなふうにして、 結城の本を購入くださっているのだなあ、 という深い感謝の思いです。

結城は、書店で自著が並んだ棚にいくと、 本を手に取る人の気持ちを想像し、 「どうか、この本を必要とする方に届きますように」 と祈るようにしています。

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インタビューの話。

以前受けたインタビューが、

 『数理的発想法』

という書籍になりました。 結城浩を含む12人のインタビューが掲載されています。

インタビューイー12名は以下の通りです。

 第1章 書く、描く、物語る
  高野文子/藤井太洋/結城浩
 第2章 技術をデザインする
  江渡浩一郎/増井俊之/渡邊秀徳
 第3章 本と、デジタル
  高野明彦/河村奨/地藏真作
 第4章 科学者たち
  岡田美智男/吉村仁/本間稀樹

ぜひお読みください!

 ◆仲俣暁生『数理的発想法 “リケイ"の仕事人12人に訊いた世界のとらえかた、かかわりかた』
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798154342/hyuki-22/

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学部生にとっての研究の話。

質問

たとえば学部生が機械学習を学び、 それを応用しておもしろいことを考えようとしても、 たいていのことはすでに研究されています。

ということは、 すでに研究を進めている研究者よりも「良い研究」 をするのは難しいですよね。

トップ研究者ではない学部生にとって、 意味のある研究、意味のある応用というのは、 どういう方向にあると思いますか。

回答

具体的に「こういう方向」と示すことは、 私にはできません。

あなたが考えている内容というのは、 あなたの教官に尋ね、 議論すべきことではないかと想像します。

なぜなら、 どの方向の研究をどの程度進めるのかというのは、 学部生に対して指導すべき内容の一つだと思うからです。 分野ごとの機微はあるでしょうし、時代による違いや、 学生の能力による調整も必要なはずです。

教官と議論しましょう。まさにそのために、 大学に学費を払っているのです。

また、あなたの大学では 「トップ研究者ではない学部生」 も過去に研究を進め、論文を書いているはずですね。 過去の論文を探して読んでみましょう。 そうすれば、 「少なくともその時代には論文になった題材」 がわかるはずです。

なお、Natsu(hiko) MIZUTANIさん(@natsu_water)から、 関連する文章として以下のWeb記事を教えていただきました。 とても短く、しかも図入りでわかりやすい記事ですので、 ぜひこちらもお読みください。 Matt Might教授による"The illustrated guide to a Ph.D."という文章です。

 ◆博士号を取るとはどういうことか
 http://hamukazu.com/2013/11/14/illustrated-guide-to-phd/

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「問いと答えの呼応」の話。

Webページで、

 タイトルは「問い」の形なのに、
 文中でその「答え」が書かれていない

という記事を見かけるときがよくあります。 結城はそれがとても気になります。

タイトルが「問い」の形で、 文中に「答え」が明示的に書かれていないと読者は混乱します。

たとえば、次のような記事です。

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 タイトル
 XXXXはAだろうか?

 本文
 XXXXはBの場合や、Cの場合もあります。
 ホニャララ大学ではXXXXがDと見なされたことがありますが、
 世界的にはDとは見なされていません。
 XXXXがEやFと考えられていた時代もありますが、
 現在ではその可能性は否定されています。

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この記事を読んだ読者はいらいらします(ですよね?)。

なぜならタイトルで「XXXXはAだろうか?」と問うていながら、 本文ではその問いに直接答えを与えていないからです。

読者はこの記事を読み終えたときに、 「結局、XXXXはAなの?」 という疑問を抱いたままになるでしょう。

あるいはまた、本文から推測して、 「XXXXはAだということなのかなあ……」 とぼんやりと考えるでしょう。

いずれにせよ、 記事の情報伝達は失敗しています。

Webサイトにはしばしば「よくある質問とその答え(FAQ)」 というコーナーが用意されます。 それは読者にとって非常に有効なコーナーのはずですが、 上で述べたように「問い」と「答え」が噛み合っていないことがよくあります。

もしもあなたが自分の管理しているWebサイトを持っているなら、 ぜひ、問いと答えの呼応をチェックしてみてください。

『数学文章作法 基礎編』第6章「問いと答え」では、 「問いと答えは呼応させること」を強調して説明しています。

 ◆『数学文章作法 基礎編』
 https://mw1.hyuki.net

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右手左手の話。

人が文字を書いている様子を見たとき、 左手を使って書いていると、 結城は「あ、左手で書いている」と気がつきます。 そして直後に「どうしてそれにすぐ気付いたのだろう」 と自分で不思議に感じます。

まわりの人に尋ねてみると、 「私もすぐに気付きます」という人と「あまり気付かない」 という人がだいたい半々くらい。

文字を書いているときに限りません。 指さしたり、何かを片手で掲げたりしているときも、 「あ、左手だ」と気付きます。

たとえば、コインを持ってるこの画像を見ると、 すぐに「左手で持ってる」と気付きます。

 ◆コインを持っている画像

2018-02-12_money.jpg

念のために書いておきますが、 もちろん左手を使っていることを批判しているわけではありません。 自分が、使用している手の左右の認知に敏感なことに興味がある、 という話です。

右足左足の違いには気付きません。 右手左手の違いには気付きます。

結城が右利きだから左利きに気付くというのはありそうです。 ただ、それだけではなくて「相手の姿に自分の姿を重ねる」 という癖があるのかなと想像しています。

たとえば以下のツイートには、 数学の板書をしているサーバルちゃんのイラストがあります。

 ◆数学の板書をしているサーバルちゃん
 https://twitter.com/omnisucker/status/939309838877671424

何気なくこのイラストを見た瞬間、 私はサーバルちゃんになって板書している自分を想像する。 だから左手で書いてることに気付くのかもしれません。

私はリコーダー吹きですが、 たまにリコーダーを吹いているイラストで右手が上になっているものがあります。 リコーダーは左手が上になるのであれ?と気付きます。 でも、自分が使わない楽器だと気づかないかもしれませんね。

あなたは右手左手に気付く方でしょうか。

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それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 再発見の発想法 - ロールオーバー
  • 人を惹きつける文章を書く - 文章を書く心がけ
  • 役に立つ効果的な勉強法を考える
  • おわりに