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Vol.393 結城浩/文章のリズムを整えるテクニック/書籍のシリーズを構成するときに考えていること/高価な買い物/継続して努力するのが苦手/
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Vol.393 結城浩/文章のリズムを整えるテクニック/書籍のシリーズを構成するときに考えていること/高価な買い物/継続して努力するのが苦手/

2019-10-08 07:00
    Vol.393 結城浩/文章のリズムを整えるテクニック/書籍のシリーズを構成するときに考えていること/高価な買い物/継続して努力するのが苦手/

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年10月8日 Vol.393


    目次

    • 文章のリズムを整えるテクニック - 文章を書く心がけ
    • 書籍のシリーズを構成するときには何を考えているのか - 本を書く心がけ
    • 高価な買い物をするときの心がけ
    • 継続して努力するのが苦手

    はじめに

    結城浩です。

    いつもご愛読ありがとうございます。

    まずは大事なニュースから。

    『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』のWeb立ち読み版を公開しました!

    ◆『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』のWeb立ち読み版
    http://ul.sbcr.jp/MATH-v2TrQ

    こちらのWeb立ち読み版では、目次、はじめに、プロローグ、第1章全文、第1章の練習問題を読むことができます。

    ユーザ登録は不要で、アプリのインストールも不要です。

    ワンタップで読み始められ、もちろん無料です。ぜひ、お読みください。

    今回の『学ぶための対話』は、学ぶこと、教えること、理解することという大切な話題を扱っています。

    生徒さんや学生さんだけではなく、学校の先生や、保護者さんにも読んでいただきたい一冊。

    あなたのお知り合いにも、本書をご案内していただけるとうれしいです。

    ◆『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』のWeb立ち読み版
    http://ul.sbcr.jp/MATH-v2TrQ

    * * *

    今回の『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』はシリーズ第12巻目となります。

    これだけ長いシリーズを書くのは初めての体験。いろんなことを考えます。後ほど「本を書く心がけ」のコーナーで「書籍のシリーズを構成するときには何を考えているのか」というお話をしようと思います。

    ◆『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』
    https://bit.ly/hyuki-note12

    * * *

    科学クイズ。

    コップ一杯の水の中に、水の分子はおおよそ何個あるでしょうか。以下の中から最も適切なものを選んでください。

    • 約六千万個
    • 約六千億個
    • 約六千兆個
    • もっと多い

    正解は少し後で。

    * * *

    スーパーで買い物しているときの話。

    結城は毎晩帰りがけにスーパーに寄ります。晩ごはんのための買い物をするのです。

    あるとき、スーパーで「今日は唐揚げ〜」と歌いながら踊っている小さな女の子がいました。

    きっと、唐揚げ大好きなんでしょうね!

    その「唐揚げの舞」とでもいうべき踊りを見ていて、結城は、あずまきよひこさんが描く『よつばと!』というコミックを思い出しました。この「唐揚げの舞」はよつばと!的な風景だなあと感じたからです。

    ◆あずまきよひこ『よつばと!』
    https://www.amazon.co.jp/dp/4048690663/?tag=hyuki-22

    * * *

    パズルゲームの話。

    結城はスキマ時間にiPhoneでゲームをするのが好きです。

    好みはパズルゲームです。△や□といった形が並んだものを動かすというのは特に好きです。

    逆に苦手なのは実世界に模した舞台で行うアドベンチャーゲームのようなものです。グラフィクスは綺麗なのですが、あまり気持ちがすっきりしないからですね。取れそうな物体に見えるのに取れなかったり、そんなにジャンプできないだろうというところまでジャンプできたり。そんな「ゲームの制約」がわかりにくいのが気になるのです。それは、ユーザインタフェースの問題なのかもしれません。

    ところで最近知った「The Gardens Between」というパズルアドベンチャーゲームは、リアルなユーザインタフェースに近いのですが、たいへん気に入りました。

    操作は単純なのですが、時間や因果をいじっていろんな「あり得た世界」を旅するような感覚を味わえます。

    うたい文句は「時間を操って確かめ合う友情」とのこと。最初は意味不明でしたが、プレイしてみると確かにそういうゲームでしたね。

    とはいえ、最後はどうしても「すべての世界を総当たりで試す」というブルートフォースに近い解き方に陥ってしまうのですが、それでも楽しめます。「おお、そう来るのか!」というプチ発見と感動がちりばめられており、飽きが来ないように工夫されています。

    うん、やはりユーザインタフェースの問題なのでしょう。実世界を模しているからといって下手に自由度を上げなかったゲームバランスがいい。実際には決まり切った操作をしているのだけれど、あたかも実世界を旅している感覚がある。そんなゲームです。

    原稿を書くあいまにプレイしてコンプリートしたのですが、大変素敵なゲームならではの体験でした。最初から最後までゲームの難易度バランスが私にはぴったりでしたね。

    ◆The Gardens Between
    https://thegardensbetween.com

    美しい庭園の島が連なる不思議な世界に迷い込んだ、親友同士のArinaとFrendtを追いかけます。パズルを解き、島の持つ秘密を見つけるために時間を操りましょう。(公式Webサイトより)

    ◆App名: The Gardens Between、デベロッパ: The Voxel Agents
    https://apps.apple.com/jp/app/the-gardens-between/id1371965583

    ◆The Voxel Agents
    https://www.thevoxelagents.com

    * * *

    機械学習に関する対話。

    こんな対話がふと心に浮かびました。人間と機械の対話です。

     人間「機械には〇〇はできないんだ!」
     機械「〇〇ってなあに?」
     人間「〇〇っていうのは、これがこうなって…」
     機械「たとえば、どういうもの?」
     人間「たとえば、やってみせようか。こんな感じのもの」
     機械「学習して〇〇できるようになったで」
     人間「機械には○○はできても、△△はできないんだ!」

    この対話の背景を話します。

    人間が○○を明確に理解したことの証は、○○をプログラムとして表現できること。人間がよく理解していないことはプログラミングできない。つまり、機械にも実行させられないのです。少なくとも近年まではそういう認識が強くありました。

    でも近年は、機械学習とコンピュータ自体が大きく進歩しています。そのため、人間がよく理解してなくても「○○はこんな感じのもの」とやって見せられるなら、機械は○○を非常によく真似てくれるのです。人間は「機械にはこれができない」と思っているけれど、実は、具体例をたくさん示すだけで機械ができるようになることはとても多いといえるでしょう。

    プログラミングすることで明示的に○○を示す手間と、たくさんの具体例を出すことで暗黙的に○○を示すことの手間は大きく違います。ネットを通じてたくさんの具体例が集まりやすい時代ですから、機械の能力はこれからもどんどん高くなるでしょう。機械学習のニュースでもよく「たくさんの具体例から、何かを判断する」というケースが報道されていますね。

    機械学習への第一歩は『プログラマの数学 第2版』の付録にもまとめてあります。

    ◆『プログラマの数学 第2版』
    https://www.hyuki.com/math/

    * * *

    科学クイズの答え。

    正解は「もっと多い」です。

    コップ一杯の水を仮に180グラムで考えることにします。

    コップ一杯の水に含まれる水分子は、約六千兆個の約1,000,000,000倍になります。

    ものすごい数ですね!

    簡単に解説します。水の分子量は18なので、水18グラムに含まれる水分子の個数は1モル個です。1モル個というのは聞き慣れない人もいるかもしれませんが、おおよそ6の後に0が23個ついた数になります。つまり、約600,000,000,000,000,000,000,000個です。

    これは水18グラムの場合なので、180グラムならこの10倍で、水分子は約10モル個です。つまり、約6,000,000,000,000,000,000,000,000個です(0が24個)。

    選択肢の中に「六千兆個」というものがありました。これは6の後に0が15個ついた数です。

    六千兆個は6の後に0が15個、コップ一杯の水では6の後に0が24個。ということは、コップ一杯の水に含まれる水分子の個数は、六千兆個の約1,000,000,000倍になります。0が24-15=9個並んでいます。

    最初に「コップ一杯の水を180グラムで考える」と書きましたが、もしもこれを100分の1にして1.8グラムだとしても、水分子の個数は六千兆個の約10,000,000倍ということになります。

    このように考えてくると、分子の個数というのは、私たちが日常的に扱う数よりもはるかに、はるかに、信じられないくらい多いということがわかりますね!

    * * *

    それでは、今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。


    文章のリズムを整えるテクニック - 文章を書く心がけ

    質問

    いつも有益な作品や情報を発信してくださりありがとうございます。

    結城さんは文章を書く上で活用しているリズムはありますか。

    「数学ガール」シリーズに登場する女の子たちの名前が三文字である理由も気になります。

    文章のリズムでいうと、七五調(支点力点作用点、ペンパイナッポーアッポーペンなど)のような耳に残るリズムを用いることはあるのでしょうか。

    先日、この「七五調」というものの存在を知ったもので、他にも文章のリズムを整えるテクニックがあれば教えていただきたいです。

    よろしくお願いします。

    回答

    ご質問ありがとうございます。

    文章のリズムはとても大切です。

    耳に残る、記憶に残るからという理由だけではなく、文章のリズムは《読みやすさ》に大きな影響を与えるからです。

    文章のリズムが心地よいと「もっと先を読みたい」という気持ちが湧いてきます。逆に文章のリズムが乱れていたり、ぎこちなかったりすると「もう読みたくない」という気持ちになります。内容とは別次元の話ですね。文章のリズムは、読者が読んでいく意欲に強く働きかけるのです。

    「数学ガール」に登場する女の子はミルカ、テトラ、ユーリという三文字が多いですが、リサ、ノナという二文字もありますね。その他にエィエィという四文字もあります。名前は大切ですが、短いことが多いのでリズムといえるかどうかは微妙です。

    文章のリズムを整えるテクニックとして最も有効な方法は「音読」です。

    音読というのは、自分が書いた文章を声に出して読み上げるということです。これは文章のリズムを自分が把握するためにとても大切なことです。

    文章のリズムを整えたかったら、音読しましょう。

    文章全体を書き上げてから全文を読み上げるのも悪くはありませんが、もっと大事なのは「書きながら読み上げる」ということです。

    ずっと声に出し続けていたら疲れるので、頭の中だけでもいいですけれど、一文を書くごとにその文を読み返してみるのです。頭の中で声に出すつもりで読み返します。ここぞというところでは、実際に声に出すのもいいでしょう。

    そしてもちろん、音読して気に入らなかったら直していくことになります。

    ここではやや難しい行動が要求されていることがわかります。

    • 意味が通じるように文を書きなさい。
    • 文を書いたら声に出すつもりで読み返しなさい。
    • リズムが乱れていると感じたら書き直しなさい。
    • ただし、意味を変えるような書き直しはいけません。

    書き直してリズムを整えると読みやすくなりますが、それで文章が不正確になっては困ります。かといって文章の正確さだけを追求してリズムが悪くなり、読者の読み進める意欲を失わせてはいけません。なかなか難しい要求ですね。

    そこで大事なのは「言い換えの力」であることがわかります。意味を変えずにどれだけ別の言い方ができるか。表現を変えられるか。それは単語レベルでもそうですし、文の形式についてもそうです。いま自分が考えていることを一通りにしか表現できないなら、リズムが悪くても直しようがありません。別のリズムを持つ表現を試みるためには「言い換えの力」が必要になります。

    実際、結城はここまでの回答を書いてきて、細かい修正を何度も行いながら書いています。そこでは必ず「意味(正確さ)」と「リズム(読みやすさ)」の両方が妥当な範囲に収まるように心がけています。

    いずれにしても、文章のリズムを整えるために「音読する」ことは大事です。音読しましょう。

    「七五調」はいいですね。たとえば以下のフレーズは『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』のプロローグの一部です。七・五・七・五・七・七が二回繰り返されています。

     たった二つの手がかりで、何ができるというのだろう。
     二つあるなら、何でもできる。

     たった二人の君と僕、何ができるというのだろう。
     二人いるなら、何でもできる。

    もっとも、音の数を数えてこの部分を書いたわけではなく、何度も読み返して整えていったらこうなったというのが実際の執筆です。

    七五調に限らず、たくさんのリズムがあります。名前はついていないけれど、読んでいて心地よいリズムというものはあるものです。「なんとか調」が先にあるのではなく「具体的なたくさんの音の経験」がとても大事なんだと思いますよ。

    ご質問ありがとうございました。

     
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