結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2020年5月5日 Vol.423
目次
- 電子書籍は「頭に入らない」感じがする
- Amazon Pollyを使ってテキスト読み上げ音声コンテンツを作成する
- 数学の本をノートに書き写す勉強法はどうですか - 学ぶときの心がけ
- 小説家、読者との距離感をどう考えるか - 文章を書く心がけ
はじめに
結城浩です。
いつもご愛読ありがとうございます。
* * *
映画のメイキング動画の話。
映画の「メイキング動画」ってご存じですか。DVDの特典映像に入っていたりする動画です。映画をどんなふうに作っているか、その舞台裏を見せてくれるものですね。
結城は、それがすごく好きです。
ずいぶん以前の映画ですが、トム・クルーズの出演する『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』のメイキング動画を見たことがあります。
その中でたいへん感銘を受けたのが「アタッシュケースを何個も作る」という話です。その映画では、アタッシュケースは登場人物が持つ重要なアイテムの一つでした。映画を観ている途中では、ずっとそれが一つのものを使っているとばかり思っていました。でも違うのです。
普通の場面で使うアタッシュケース、アクションシーンで振り回すアタッシュケース、また場面が進んで終盤近くなったときのアタッシュケース。映画の中では、同じ一つのアタッシュケースとして映るものが何個も用意されていたのです。
なぜ何個も作るのでしょう。
たとえば、アタッシュケースを振り回すアクションシーンがあります。当然ながら、重かったら振り回せないし、役者に当たったりすると怪我をしてしまう。だから、柔らかくて軽い素材で作る。
また、場面が進むにつれて、落としたり、壁に当たったりする設定がありますから、それに合わせてアタッシュケースに傷を増やしていくのです。
そんな細かい配慮、映画だけ見てたら絶対わかりません。
そのメイキング動画を見て結城が覚えているのはアタッシュケースの話だけです。でも、実際に作られている映画では、それに限らずたくさんのアイテムが登場します。ほんの短いシーンであっても、それだけ手間暇かけて作っている。
そんな手間暇を想像すると、うん、自分もがんばろうという気持ちになります。よい成果を上げるために、他人に知られようと知られまいと工夫と努力を惜しまない。そうありたいと思うのです。
がんばろう。
* * *
では、今回の結城メルマガを始めます。
どうぞごゆっくりお読みください。
電子書籍は「頭に入らない」感じがする
質問
紙の『数学ガール』はじっくり読めるのですが、Kindle版『数学ガール』はフワフワしてしまって頭に入ってこない感じがします。
何かいい対策はありませんか。
回答
ご愛読ありがとうございます。
あなたの感じているお気持ちは、少しわかります。私も、Kindleなどの電子書籍を読み始めたときはそうでしたから。
あなたの対策になるかどうかわかりませんが、私の場合のポイントは次のようなものでした。
Kindleやスマートフォンやタブレットなどの機器を使って読もうとすると、ついWebを読む感覚になってしまうのです。どんどんと「先に進もう、先に進もう」という気持ちで、流し読みに近い感覚になるのです。目が滑っていくとでもいうのでしょうか。
その感覚に気付いてからは「自分は、いま、本を読んでいるのだ」や「自分は、いま、一枚の紙に向かっているのだ」という気持ちを意識し始めました。簡単にいえば、先を急がないということ。私の場合は、そのような意識が習慣になって、ずいぶん変わりました。
数学書の場合、しばしば本を閉じてそらんじてみることがあります。それでうまく行かなければ、紙を出して書くこともあります。意識してスピードを落とし、自分の理解を確かめるのはいいことですね。
もっとも「数学が出てくる本は、電子書籍では読めない」と考える人もいらっしゃるようです。それを否定するわけではありません。本との付き合い方というのは、人それぞれですからね。
私は、紙でも電子でも読みます。読む場所を選ばないし、スクリーンショットも撮りやすいので、電子の方がより便利に使っていると思います。
以上、何かの参考になればうれしいです。
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