結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2020年5月12日 Vol.424
目次
- 物語をどう書き進めるか - 文章を書く心がけ
- 店長に言いたいことがある - 仕事の心がけ
- 中学生・高校生のころの勉強で大切なこと - 学ぶときの心がけ
- 大学生のアルバイト
- 『《自分の理解に関心を持つ》(前編)』 - 結城浩ミニ文庫
はじめに
結城浩です。
いつもご愛読ありがとうございます。
* * *
機械翻訳の話。
おもしろそうなパズルの動画を見つけました。
◆Coiled 15 puzzle
https://youtu.be/rfAEgxNEOrQ
どんなパズルかは見るだけで想像が付きますね。英語の説明文があるので、Google翻訳による翻訳とDeepLによる翻訳とを比べてみました。
◆原文
This is a variant of the classic sliding tile puzzle, where the puzzle is coiled around a cylinder. The goal is the same: to put the tiles back in the correct order. Unlike the classic 15-puzzle, this version is solvable because of the extra connection between the first and sixteenth squares of the frame.
◆Google翻訳
これは、古典的なスライディングタイルパズルの変形で、パズルが円柱の周りに巻かれています。 目標は同じです。タイルを正しい順序に戻すことです。 古典的な15パズルとは異なり、このバージョンは、フレームの最初の正方形と16番目の正方形の間の余分な接続のために解決可能です。
◆DeepLによる翻訳
これは、パズルが円筒の周りにコイル状になっている古典的なスライディングタイルパズルの変形です。目的は同じで、タイルを正しい順番に戻すことです。古典的な15パズルとは異なり、このバージョンでは1マス目と16マス目の間に余分なつながりがあるため、解けるようになっています。
さあ、二つの翻訳を比較して、いかがでしょうか。
Google翻訳の方は、逐語訳で「誤訳になるのを避けよう」としている印象があります。でも、日本語としてはやや不自然に感じました。それに対して、DeepLはまるで「ちゃんと分かってる」みたいな翻訳文になっている印象があります。
たとえば一つ目の文。Google翻訳は「古典的なスライディングタイルパズルの変形で、パズルが〜」といったん区切るので、文章の係り受けを誤読しにくくなっています。でも不自然。
DeepLは「パズルが円筒の周りにコイル状になっている古典的なスライディングタイルパズルの変形」と一気に言ってるので、コイル状になっているのが古典的な方か、変形になっているのかの多義性が生じてしまっています。でも自然。
次はコロンの取り扱い。Google翻訳は「目標は同じです。タイルを正しい順序に戻すことです」と二つの文に分けています。でもDeepLは「目的は同じで、タイルを正しい順番に戻すことです」と、日本語として自然な流れになっています。
大きく違うのは「square」の訳語選択。Google翻訳は「正方形」と翻訳し、DeepLは「マス」と翻訳しました。私はDeepLの方が適切な訳語を選んでいると感じました。
Google翻訳は「solvable」を「解決可能」と訳していますが、DeepLは「解けるようになっている」と訳し、まるでパズルの話題であることを理解してるみたい。
地味だけど大きいと感じたのは「このバージョンは」と「このバージョンでは」の違いです。古典的なパズルと変形版との差違を強調しているところなので、DeepLの翻訳した「このバージョンでは」の方が読みやすいと感じます。
今回のパズルの文章は短いので、英文を直接読んでもそれほど時間は掛かりません。でも、たとえば長い英文にさっと目を通したいというときにDeepLを使うのは非常に有効だなと感じます。自然な文章なら大意を取りやすいし、自分が原文をじっくり読むべきポイントを探しやすくなるからです。
DeepL翻訳については結城メルマガVol.422でも話題にしました。
◆結城メルマガVol.422
https://bit.ly/hyuki-mm422
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情報入手の話。
大学関係者でない私がいうことでもないかもしれませんが、いまの時期、大学生は、自分の大学のWebサイトを定期的に確認し、大学からのメールもちゃんと読むといいかもしれないと思いました。大事な連絡を見逃さないようにするためです。
大学からのメールをふだん見ない人は、大事なメールが「迷惑メールフォルダ」に入っていないかを確認するのも忘れずに。いつもなら何となく入ってくる情報が、自宅にいると入ってこない危険性がありそう。
会社でも同じです。リモートワークが占める割合が多くなると、いつもなら何となく入ってくる情報が滞る可能性がありそうです。
意識して情報を取りに行く。意識して情報を伝えるようにする。
それがないと、気がつかないところで学びや作業の品質が低下しそうだな。
そんなことを思いました。
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では、今回の結城メルマガを始めます。
どうぞごゆっくりお読みください。
物語をどう書き進めるか - 文章を書く心がけ
質問
結城先生は執筆をされる際に、どのように物語を書き進めていきますか。
私は趣味で物語を書くのが好きなのですが、どうも行き詰まってしまうことが良くあります。
いくつかのアイデアを列挙してから、取捨選択しながら物語を構成するという方法をとっているのですが、途中でまとまらなくなったり、方向性が曖昧になってしまいます。
回答
ご質問ありがとうございます。
私の物語の書き進め方については、以下の本に非常に詳しく書きましたので、もしよろしければどうぞ。Kindle版もあるのでいますぐ読めます。
◆数学ガールの誕生
https://birth.hyuki.net/
私の物語の書き方は、簡単にいえば「キャラクタにまかせる」といえます。キャラクタが動いていく様子を私はじっと見て、追いかけて、それを書き留めるという方法ですね。なので、あなたがいう「いくつかのアイデアを列挙してから、取捨選択しながら物語を構成する」とはずいぶん違うようです。
私がどんなふうに文章を書いているか、どんなふうに物語を紡いでいるかは「結城メルマガ」で何度も何度も出てくる話題なので、リンクで回答させてください。
「物語のスタートはジャンルやストーリーではなく、キャラクタやシーンやセリフです」という話をこちらの文章で書きました。
◆小説執筆に憧れているがストーリーが思いつかない - 文章を書く心がけ
https://mm.hyuki.net/n/n671daa3baa24
「キャラクタに敬意を払い、丁寧な対話を重ねることで、そのキャラクタらしい話し方を描くことができる」という話をこちらに書きました。
◆自分の書く物語の登場人物と仲良くなりたい - 文章を書く心がけ
https://mm.hyuki.net/n/n7502c523826e
「キャラクタに自然なセリフを言ってもらうにはどうするか」という話をこちらに書きました。
◆マンガのキャラクターのセリフが説教くさくなってしまう - Q&A
https://mm.hyuki.net/n/na4ab35b97049
「新しいキャラクタが登場するときに何を考える必要があるか」という話をこちらに書きました。
◆数学ガールに新キャラ登場 - 本を書く心がけ(結城メルマガVol.347)
https://mm.hyuki.net/n/n9442b7a2b151
「Web連載をどんなふうに毎週書いているか、新しいキャラクタとのお話をどうすすめているか」という話をこちらに書きました。
◆数学ガールに数学苦手なキャラクタが登場するという新しいチャレンジ(結城メルマガVol.350)
https://mm.hyuki.net/n/n87a43eec0dc7
もっと一般的な「物語の組み立て方」のお話をこちらに書きました。
◆読み切り漫画は描けるけれど、連載漫画が描けない
https://mm.hyuki.net/n/nb9985dd12bd4
以上のリンク先を、改めて読み返してみたんですが、けっこういろんなことを書いていますね。でも、すべてに通じて基本的に言っていることは「キャラクタが中心」ということです。作者のお仕事は、キャラクタに舞台と問題を与えて、キャラクタの行動や考えや発言を注意深く見て、それをきちんと書き留めることであると私は思います。
もちろんそれは、私個人の考え方であって、あなたに押しつけるつもりはありません。
物語を作るのは楽しいですよね。楽しみつつがんばってください!