Vol.188 結城浩/村上春樹『職業としての小説家』を読みながら/結城浩ミニ文庫/自分がユーザになるツール/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年11月3日 Vol.188

はじめに

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

この「はじめに」を書いているのは11月2日なんですが、 すっごく、寒いんです! 雨だし!

……すみません。こほん。

気を取り直して……もう、11月なんですね。早いです。

 * * *

新刊の話。

いよいよ、『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』の刊行が間近に迫ってきました。 たなか鮎子さんのイラスト、米谷テツヤさんの装丁によるカバー画像ができたので、 いそいそとランディングページを作りました。

 ◆数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実 | 結城浩
 http://note6.textfile.org/

ランディングページはいつもの通り「でんでんランディングページ」 というツールを利用しています。

 ◆でんでんランディングページ
 http://lp.denshochan.com

このツールはTumblrというサイトのテーマとして実現されています。 Tumblrの無料アカウントに設置することで、 無料で自分の本のランディングページが作れることになります。 とてもたすかります。

そして、サイン本。

『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』の、 サイン本無料プレゼントという企画を行っています。 この結城メルマガが配信される2015年11月3日(火)が〆切ですので、 忘れずに、ぜひお申し込みくださいね。

 ◆『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』《サイン本無料プレゼント》
 http://snap.textfile.org/20151017123720/

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「私だけは特別」の話。

あるとき、道を歩いていて出し抜けにこんなことを考えました。

 「自分は他の多数の人とは違う考え方をしている。
  だから自分だけはそんな失敗を絶対しない」
 ……と考えて失敗する人が、実はとても多いのではないか。

ちょっとややこしすぎますかね。

要するに、こういうことです。 誰か他の人の失敗を見て「あーあ、だから言わんこっちゃない」 と思う場合って、程度の差はあれ、誰しも経験あると思います。

 あの人はこういうふうに考えてうまくいくと思ったんだろうな。
 そういう人、確かに多いかもしれない。
 でも、私は違う。私だけは特別。
 私はそんなふうには考えないから、同じような失敗はしない。

……と考える状況を想像してください。 でも、そういうふうに考えて、 その上で(他の大多数と同じようなルートをたどって)失敗する人、 多いのではないかなあということです。

一言でいえば「他山の石」ということわざを軽視する人が多い、 ということですが。

この話のポイントの一つは、 「自分は他の多数の人とは違う考え方をしている」という考え、 その考えそのものが、実はありふれた考えであるという点です。 つまり「私は他のみんなとは違う」「私だけは特別」と考えるのは、 多数の人と同じ考え方なんじゃないでしょうか。

で、注意を怠るから、失敗が多い。

あなたは、以下のどちらの傾向が強いですか。 誰かが失敗しているのを見たときに、どう思いますか。

 1.こういう失敗をする人は多い。
   でも、私は違う。私だけは特別。

 2.こういう失敗をする人は多い。
   ということは、私も同じ失敗をする可能性がある。

え、結城は「1」と「2」のどちらかって?

私は、たいてい「2」のように考えますね。 自分も他の人と同じように失敗する可能性がある、と考えますねえ。 他の人と違って「2」のように考えられる私ってすごい! 私だけは特別!……あれれ、おかしいな?

あなたは、どちらですか。

 * * *

ナブラ演算子ゲームの話。

先日「ナブラ演算子ゲーム」というものがあると聞きました。 ナブラ演算子というのは数学で使う演算子で「∇」 という記号で表現されます(いま「なぶら」で変換できました)。

ナブラ(一階微分)、ラプラシアン(二階微分)、 インテグラル(積分)、ログ(対数)、逆関数、極限などを使って、 相手の基底を0にしていくというカードゲームです。 演算子で関数を変換するというところは数学ですけれど、 ルールと仕組みがわかれば(たぶん)楽しめるゲームなのでしょう。

 ◆ナブラ演算子ゲーム
 http://nablagame.com

 ◆ナブラ演算子ゲーム公式Twitterアカウント
 https://twitter.com/nablagame

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数学といえば……

結城は『数学ガール』のような数学読み物を書いています。 そのため、ときどき読者さんから、 「結城さんは数学者なんですね」と誤解されることがあります。

でも、はっきりと、

 「結城浩は数学者ではありません」

と明言するようにしています。

結城浩は数学者ではありませんし、数学の研究者でもありません。 なぜなら、非自明な数学の定理を証明したこともないし、 数学を進展させる論文を書こうとしているわけでもないからです。 結城が書いているのは数学を楽しむための読み物であり、 数学の論文ではありません。

結城浩は数学者ではありません。 でも、私は数学愛好者です。 また、数学者・数学研究者・数学徒・数学愛好者を、 何らかの形で応援したいと心から思っています。

以上、自己紹介の一種として。

同じ主旨のことを、日本数学会出版賞を受賞したときに、 受賞のことばとして以下のように書きました。

 ◆2014年度日本数学会出版賞受賞者のことば
 http://mathsoc.jp/publication/tushin/1902/2014pubprize.pdf

こちらもまた、結城の考えを表すものですので、 もしご興味がある方はお読みください。

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ことりつぎの話。

Wired.jpで「ことりつぎ」というサービスを知りました。

 ◆どこでも、だれでも「書店をつくれる世界」にするしかない
 本を読むプロがはじめるイノヴェイション「ことりつぎ」
 http://wired.jp/2015/10/15/kotori-tsugi-ynst/

誰でも本屋をつくることができるようにする、そのための小さな「取次」なので、 「ことりつぎ」なのだそうです。 詳しくは公式サイトをみていただくとして、 結城がおもしろいなと思ったのは、 お店の一部分を「書店スペース」にするアイディアです。

雑貨屋さんや自転車屋さんのお店のスペースの一部を「書店」にしちゃう。 そうして、そのお店にくるお客さんがほしがるような本をそこに並べる。 「ことりつぎ」がそういうことを可能にするそうです。 これは確かにいい仕組みであると思いました。

というのは「そのお店に来る」という時点で、 お客さんが持っている興味や関心は、かなり想像が付くわけですよね。 雑貨屋さんに来る人、自転車屋さんに来る人それぞれに。

しかも、何かを買いたいと思ってやってきている。 その人の興味関心ににぴったりの本を並べておくというのは、 うまいアイディアだと思うのです。

本を買うためには本屋さんに行く、 というのは本という商品を中心にした発想といえます。 でも、この「ことりつぎ」が考えている書店スペースの発想は、 お客さんが欲しいと思うようなものを売る(そして、 それがたまたま本である)という形になっているのです。

さらには、「本」というものが持つ雰囲気やメッセージ性もいいですよね。 「自分の店ではこういう本に象徴されるものをお客さんに提供している」 という主張をさりげなく演出することができるからです。

この「ことりつぎ」というサービスが現実的にどのように機能するのか、 採算が取れるように回るのかは私にはわかりませんが、 その発想はとてもいいものであると感じました。

「自分が本屋さんをするとしたら、どんな本を並べて、 どんなスペースを作るだろう」

そう考えるだけでも、何だか楽しくありませんか。

 ◆ことりつぎ
 http://kotoritsugi.jp

なお、Twitterで #ktr2g というハッシュタグで検索すると、 「こんな本屋を作ってみたい」というツイートが見つかるらしいです。

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「お大事に」の話。

TwitterやFacebookで、体調が悪いようなツイートを見かけたら、 何はともあれ「お大事に」と返信するように心がけています。

返信前に、

 「声を掛けたら、煩わしく思われるかも」
 「そっとしておいてほしいかも」
 「機械的にリプしていると思われたくない」

などという思いがチラッと頭をかすめるのですけれど、 多くの場合、まずは「お大事に」と言ってしまいます。 それは、自分がつらいとき、 返信してもらうのがうれしかったからです。

もちろん、 ケース・バイ・ケースで状況は変わるものですし、 人に強制することではありませんけれどね。

せっかくSNSをやっているのですから、 自分が「よいかも」と思うことは、 一歩、踏み出してみたい。

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ハロウィンの話。

先日10月31日はハロウィンとのことで、 渋谷のスクランブル交差点の混雑ぶりが報道されていました。 マリオとルイージが歩いてたり、白雪姫とゾンビが手を繋いでたり。

ところで、たまたまではありますが、 少し用事があって結城は妻と二人でまさにその日、 東京は渋谷のスクランブル交差点を通っておりました。

(スレッドお化け坊やのスタイルで歩いたわけではありません)

まだ早い時間帯だったので人混みはそれほどではなかったのですが、 それでもやはり人にぶつからずには歩けないほどの混み具合ではありました。

何しろ人が多いので、普通の仮装(?)ではあまり目立たず、 よっぽど趣向を凝らさないと注目は浴びないようです。 結城が見た中でいちばん「なるほど」と思ったのは、 映画上映前に放映される「映画泥棒」に出てくる、 カメラ男とパトランプ男の二人連れでしたね。

ネットには批判記事などもあるようですが、 結城は単純に「おもしろかった」という、 小学生並の感想を抱いて帰宅しました。 妻は、歩行者の半分以上が仮装している状況を想像していたらしく、 「仮装している人、少ないのね」と期待外れだったようですけれど。

 * * *

それでは今週の結城メルマガを始めます。

今回は「結城浩ミニ文庫」のコーナーで、

 「賞について」

という文章をお送りします。 この文章は、村上春樹の自伝的エッセー 『職業としての小説家』を読みつつ書いたものです。

それから「仕事の心がけ」のコーナーでは、 「自分がユーザになるツール」として、 先日Tweeterというツールを作ったときの体験をお話しします。

どうぞごゆっくりお楽しみください!

目次

  • はじめに
  • 『賞について』 - 結城浩ミニ文庫
  • 自分がユーザになるツール - 仕事の心がけ
  • おわりに