2014年02月27日発行 第0786号 特別
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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「文部省唱歌『春の小川』が浮かんだ風景」

 こころざしをはたして いつの日にか帰らん
 「朧月夜」「紅葉」「春の小川」そして「故郷」
 明治の青年たちが「文部省唱歌」に込めた夢とは――

 本日のメルマガは、猪瀬直樹著『唱歌誕生 ふるさとを創った男』から。

               *

(高野)辰之は(養女の)弘子の相手をしながら、子供の目線で自然を見つめ
ていたのだ。

  春の小川は さらさら流る
  岸のすみれや れんげの花に
  にほひめでたく 色うつくしく
  咲けよ咲けよと ささやく如く

  春の小川はさらさら流る
  蝦(えび)やめだかや 小鮒の群に
  今日も一日 ひなたに出でて
  遊べ遊べと ささやく如く

  春の小川は さらさら流る
  歌の上手よ いとしき子ども
  声をそろへて 小川の歌を
  うたへうたへと ささやく如く

 文部省唱歌の編纂委員会は合議制であり、作詞作曲者は特定しにくくなって
いる。昭和42年、日本音楽著作権協会に宛てた手紙で弘子はこう証言を残して
いる。

「『春の小川』は私が幼いころから育った代々木の練兵場のかたわらを流れて
いた小川ことでございます。そのころは、あのへん一帯は田圃でした。そのあ
たり一面に、タンポポやスミレ草などが咲いていたものです。私は父とよくそ
のへんを散歩しました。水は清冽でメダカがたくさん泳いでいるのを見ること
ができました。
“春の小川はさらさら流る、岸のすみれやれんげの花に、匂いめでたく色美し
く、咲けよ咲けよとささやく如く”。父は私と散歩しながらこの作詞が浮かん
だのだと言い聞かせてくれました……」

 作曲した(岡野)貞一の場合も、散歩がてらに曲想を得ている。

 いまの後楽園裏あたりに住んでいた彼は、息子匡雄の証言によると、「食事
を済ませてから、2、3時間、ひとりで外へ出て行き、戻ってくると黙って夜遅
くまでオルガンを弾いていた」という。

「家族がいっしょについてゆく、というようなことはありませんでした。ただ、
散歩に出ると近所のちょっとハイカラな食料品店で、輸入ものの缶詰やらハム
やらを買ってきてくれるんですよ。佃煮のこともありました。品物によって、
今日はあのあたりまで足を延ばしたんだな、なんて考えたものです」

「春の小川」の単純なリズムの繰り返しには、どこかほっとさせられるところ
がある。

(『唱歌誕生 ふるさとを創った男』中公文庫版187~189ページ)

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