企業におけるコミュニケーションの根源的な問題を分かりやすく解説している、森口さんの『社員を動かすコミュニケーションとは』はもう読みましたか?

 

まだ読んでいない方には強くオススメしますが、以下の問題点が提起されています。

 

情報発信者と情報受信者のすれ違いは、情報に対する重要度と緊急度の認識のズレにより起こる。
端的に言えば、経営に関する情報は「自身にもたらすメリットがない情報」と一般社員に判断されスルーされてしまいがちだ。

 

一般社員である自分から見て、まったくその通りだと思います。

そして、自身が経営者だという方にも、過去の経験を鑑みれば思いあたるものではないでしょうか。

 

最後にはこうまとめられています。

 

社員が動くコミュニケーションを行うためには、情報を伝えたい相手=社員を慮って、本当に発信すべき情報を精査し、相手の心に深くささる情報発信をすることが必要だ。

 

まさにその通りだと思うのですが、1つだけ補完しておいたほうが良い気がしています。

それは、「本当に発信すべき情報の精査」をし続けた結果が、人の手を、口を重くしてしまっているケースも多いであろうということです。

 

 

■お前それ絶対だな! 怒られたらお前のせいだからな!

 

「社内SNSのテスト中です。結構見られてはいるようですが、なかなか発信する人数が増えません。どうしたら良いでしょう?」という悩みをよく目に、耳にします。

キャンペーンなどで書き込みを促す、ファシリテーターがユーザー個々に振るなどのアドバイスが一般的ですが、その前により重要で根本的な観点を忘れていないでしょうか。

 

エンタープライズ・ソーシャルが、情報を安心して発信できる場になっていますか?

 

 

「誤ったことを書くべきではない」という原則は、間違いなく正いものです。

ただしそれは、『「故意に」書くべきではない』であって、「正しいという裏が取れていること、絶対の確証がないものは書くべきではない」とイコールではありません。

 

そもそも、エンタープライズ・ソーシャルに限らず、ほぼすべての仕事は、確証を取れていることだけをやりとりしているだけでは先に進まないでしょう。

それなのに、「誤っている可能性があるものは書くべからず」というスタンスでエンタープライズ・ソーシャルが運営されていて、ひどい時には「お前の書いていた情報のせいで…」と責められるような場になっていたら…。

 

そんな場に書き込みを求められても、ほとんどの人はだんまりを決め込むのではないでしょうか。

あるいはせいぜい、正しいけれど何も生み出さないような、ありきたりの意見や事実、当り障りのないコメントだけが並ぶことでしょう。

そんな空虚なエンタープライズ・ソーシャル、必要ですか?

 

ソーシャルの推進者は、情報は書き込む側ではなく、それを利用する側がリスクも含めて受け止めるものという受益者負担の原則、考え方を伝えていくべきでしょう。

 

一方でユーザー教育としては、同時に、インターネットやソーシャルウェブ上にはエンタープライズ・ソーシャルとは異なり、意図的に誤った情報を流す釣り師やPV稼ぎをする人たちがいること、そしてそうした人々の発信する情報を鵜呑みにすることが危険だということを伝えていくことも重要です。

 

 

■他人事の100点と思い入れの持てる70点

 

社員を動かすコミュニケーションとは』は、主に経営層に対するメッセージの出し方指南だと思います。

いかに相手に理解してもらい行動を起こしてもらえるようにするかを「届けるべき情報は、届きやすい形にし、届けやすい接点をきちんと選んで発信するべきだ」というとても大切なポイントを解説してくれるものです。

 

そして、「影響力が強い経営陣には、その力をよりいっそう上手に使おうとする考え方や工夫が求められる」という点にも、疑念の余地はありません。

 

一方で、一般社員には、別の考え方や工夫が求められています。

 

エンタープライズ・ソーシャルを職場に取り入れている、あるいはテスト導入しているということは、社員一人ひとりの声が求められていることの現れでしょう。

社員からの問題提起や提案、社員間の対話の可能性に注目しているということです。

 

ソーシャルの推進者は、社員の声がまだ面識のない仲間にもオープンに共有されていくことの意義や意味を、それがもたらすポジティブな側面をきちんと伝えていきましょう。

そして、面倒がらずに、怖がらずにアイデアや意見、知識や考えを出してくれる社員が損したり、攻められたりすることがない場を作ってください。
呼びかけに応えてくれる人たちの手を引き、背中を支えてあげてください。

 

 

もう一点、エンタープライズ・ソーシャルがこれだけの注目を集める背景に、現状の情報や意識の共有スピードに対する問題意識があることにも、十分留意するべきでしょう。

 

日々の業務においても、そして中・長期的なビジネス上の取り組みにおいても、時間がかかっても良いから100点の回答が必要な事項よりも、70点でいいからできるだけ早く手にすべきという局面が、どんどん増えてきています。

物事の複雑さが増し続けていく今のビジネスにおいて、マイナス要素のない「100点満点の答え」なんて、そもそも存在していないのかもしれません。

 

こうした複雑な事項・局面で力を発揮するのは、「遠く先の100点」と「今の70点」のどちらでしょうか?

「どこか他人事のような100点の答え」と、「強い思い入れを持てる70点の答え」の、どちらが必要とされているでしょうか。

 

社員が動きたくなるエンタープライズ・ソーシャルを。
Happy Collaboration!

 


八木橋 Pachi 昌也

">by 八木橋 Pachi 昌也

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