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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その23
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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その23

2019-11-29 14:23
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    【本号の目次】
    1. 目視調査実習
    2. 父島に到着
    3.2008年6月の調査
    4. 調査終了、打ち上げ会

    目視調査実習

     6月13日は小笠原諸島を南北にぐるーっと回りながら、海棲哺乳動物や海鳥類の目視調査の実習である。大泉先生と森さんが目視の「いろは」からイルカ・クジラ・海鳥の見分け方、特徴などをレクチャーした後、船のアッパー・ブリッジ(船橋の屋根)に腰をすえて目視を開始した。実習生も一列に腰かけて海を見つめる。今日は水平線まで雲一つなく絶好の目視日和であった。とはいえ、私は昨日の深海カメラのデータの取りまとめのため調査員室でパソコンに向かっていた。データの処理を昼飯前にかたづけて、アッパー・ブリッジに上ってみると早速近くにマッコウクジラが見つかった。頭上にはカツオドリが飛び回り思わずビデオカメラを向けた。大泉先生は愛用の双眼鏡の持ち手を握り、遠くを観察していた。コビレゴンドウらしき鯨影を目視したとのことだが、肉眼ではまったくわからなかった。この日もマダライルカの大群が船について泳ぎまわり、目視実習はたいへん充実したものになった。
     明日は父島二見湾に入港予定ということで、その夜は船のサロンに一等航海士、甲板長、二等航海士、大泉さん、調査員それに私が集まり、打ち上げの酒盛で盛り上がり、ベッドに潜り込んだのはミッドナイトを過ぎていた。

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    「望星丸」のアッパー・ブリッジに陣取り、海棲哺乳動物や海鳥の目視調査

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    噴気孔を上げながら海面を泳ぐマッコウクジラ、親子だろうか?

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    背びれの形が特徴となるコビレゴンドウの群れ

    父島に到着

     翌朝は若干二日酔い気味で痛む頭を抱えながら下船の準備をした。深海カメラなど調査用具をコンテナに収納して甲板に並べた。早朝8時30分に第二便の通船(船と港を結ぶ小型漁船)が横付けして見慣れた岩本さんが乗り移ってきた。岩ちゃんは手早く私の荷物と調査用具を入れたコンテナを通船に移し替えて、二見港の青灯台まで運んでくれた。青灯台と小笠原ホエールウォッチング協会は目と鼻の先である。協会の前庭で荷解きをして、すぐさま深海カメラを二台携えて小笠原漁協ビルのすぐ横にある漁師の作業場に向かった。
     漁師の作業場は父島の漁師以外は入ることができない。しかし、2002年から毎年磯部さんと調査を続けてきたことにより、このころは他の漁師も認めてくれて自由に作業場に出入できるようになっていた。磯部さんに二台の深海カメラをわたして、縦縄に吊るすハーネスとカメラの下に付ける仕掛けをスタンバイしてもらう。ハーネスは脱落防止のためワイヤーとナイロンテグスの二重構造で持ち手のハンドルを横に渡す、結構手間のかかる作業になる。磯部さんは嫌な顔もせずに黙々と作業を続けてくれた。顔見知りの漁師さんから「今年も深海カメラやるのかい。頑張れよ」と、はっぱをかけられた。

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    漁師の作業場で深海カメラの吊り具を製作する磯部さん

    2008年6月の調査

     小笠原の6月は天候が安定して凪の日が続く。翌日から朝3時半に起きて港に向かい、5時出航、1時間から1時間半ほど航走して調査海域につくと4台のHD深海ビデオカメラを所定の水深の長さに調整した幹縄につなげて次々と投入する。目印になる旗をつけた浮き球に繋いで船から離し、ほぼ500m間隔で一列に並ぶように流す。続いて漁業用縦延縄を4本ほど投入して、7時半から8時に朝食。岩ちゃんが炊き上げたご飯にインスタント味噌汁、目玉焼きにベーコンかウインナー、それに各種漬物が並ぶ。船の上の朝飯は格別だ。朝食が終わると、投入した旗竿に付いている浮き球を、船を走らせながらチェックする。その後、船を止めてカメラの撮影時間が過ぎるまで、待機する。磯部さんや岩ちゃんとおしゃべりをしたり、甲板に横になってうとうとする。小笠原の太陽は半端ではなく、あっという間に赤茶色に日に焼ける。一週間も経てば、島の人と見分けがつかなくなるが、下手に焼きすぎると皮膚がベロベロに剥けて大変なことになる。正午過ぎ、漁業縦延縄を引揚げた後に、4台の深海カメラを揚収して直ちに帰路につく。途中で船足をおとして、昼食となる。お昼も岩ちゃんが炊き上げたご飯にレトルトのカレーかハンバーグ、レタスのサラダに漬物各種が並ぶ。これがまた、なんとも美味い。

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    竿を横に出して、横方向から餌を襲う様子を撮影できる特殊な深海カメラを投入する

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    森さんが海に入り、撮影してくれた横向き深海カメラと仕掛け

    調査終了、打ち上げ会

     午後2時半から3時までには帰港して、深海カメラを携えて小笠原ホエールウォッチング協会へ戻り、前庭で深海カメラを水洗いした後、録画された映像をパソコンに取り込みながらチェックする。そしてハードディスクをフォーマットして、充電済みのバッテリーにとりかえ明日の調査のスタンバイをする。4台の深海カメラを整備するのは結構時間がかかり、定宿のシートピアの夕食に間に合わないことも多々あった。こんな毎日を一週間繰り返し、延べ28本に及ぶ深海で撮影されたHDビデオテープを手にいれることができた。父島にいる間に可能な限り時間を見つけて目を通してみたが、残念ながらダイオウイカらしき姿は捉えられていなかった。東京の研究室にもどってから、より詳しく映像を調べることになる。
     父島を発つ前日の晩に、磯部さんが調査打ち上げを兼ねた夕食会を自宅で開いてくれた。岩本君も顔を出して酒盛りとなる。ただし岩ちゃんは全くの下戸で、酔っぱらってグデングデンの私と磯部さんのヨタ話を聞くのを最上の楽しみとしていた。6月23日午後2時、「おがさわら丸」は二見港を出港して26時間の航走の後、翌日午後4時半に東京竹芝桟橋に着岸した。

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    小笠原ホエールウォッチング協会の前で4台の深海カメラを岩ちゃんと整備する


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    漁業用縦延縄で釣り上げた2008年6月一番の大物、吻を入れると、全長3m近くあるメカジキ


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