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小説『神神化身』第二部 二十三話  「櫛魂衆・闇夜衆合同稽古 前夜」
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小説『神神化身』第二部 二十三話  「櫛魂衆・闇夜衆合同稽古 前夜」

2021-10-22 19:00
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第二部 
    第二十三話

    櫛魂衆・闇夜衆合同稽古 前夜


      六原三言は、あまり夢を見なかった。
     三言にとって睡眠とはルーチンワークの一部でしかなく、夜になったら目を閉じ、朝になったら覚醒する。その程度のものだった。
     記憶喪失になったばかりの頃は、昔の記憶を夢で見る可能性について話をされたこともあった。けれど、むしろその時期の方が夢を見ることが少なかったように思う。三言にとっての眠りとは、ただ体力を回復する為のものだ。
     それが、最近変わった。
     相変わらず頻度は少なかったが、三言は以前よりも夢を見るようになった。内容の大半は朝日と共に消えてしまうものだったけれど、瞼の裏に、頭の隅に、残る欠片もあった。
     夢の中の三言は心細く、涙を流している。自分の元から誰かが去ってしまったからだ。自分にはもうどうすることも出来ず、不安の渦の中から動けない。どうしてこんな気持ちになるのか分からなかった。何かとても大切なものを失ってしまったのに、空いた穴が何の形か分からない。
     けれど、そんな三言を助けてくれようとする人がいるのだ。
     それで三言が救われるのかは分からない。何しろ、三言は何を失ったのかも分からない。けれど、三言を助けようとしてくれるその気持ちが──祈りが、心を少しだけ軽くしてくれる。
     総じて悲しい夢だと思うのに、目覚めた後の気分は不思議と悪くない。三言はいつものように布団を出て、小平の待つ全力食堂に向かう。

     今日の朝食は目玉焼きとベーコンとしらすを食パンに載せた、全力食堂特製トーストだった。しらすはアンチョビのように塩辛く味付けてあり、パンに合う。お代わりをすべくトースターに二枚目の食パンをセットしていると、不意に小平から声を掛けられた。
    「今日は何だかご機嫌だな! いいことだ!」
    「そう見えますか? だったら嬉しいです!」
    「なんか良い夢でも見たか? 大漁の夢とかな!」
     そう言って、小平が豪快に笑う。少し悩んでから、三言はゆっくりと口を開いた。
    「いい夢かは分からないんですけど……悪くない夢を見ました」
    「おお? お前もなかなか哲学的なことを言うな。いいぞ、全力で」
    「俺は悲しい気持ちだったんですけど、なんだかフッと楽になる気持ちもあって……結果的に、悪くなかったです」
     上手く説明出来ているとは言い難かったが、少なくとも伝えたいところは伝えられたはずだ。小平は三言の言葉に真剣な表情で頷いている。
    「悪くないってのはいいことだ。お前はいい夢を見たぞ、三言」
    「そうなのかもしれません」
    「お前、お医者にかかった時に、夢を記録しろって言われたりしてただろ。ほら、回復のきっかけがうんたらかんたらで」
    「そうですね。結局、俺が何の夢も見なかったから、記録も何もありませんでしたし……」
    「書けるもんが出来てよかった。ポイントカードと一緒だろ。何にせよ増えてくってのはいい。よっし、今夜は鍋にするか。海老もたんまり入れてな」
    「本当ですか!」
     思わず声が大きくなってしまう。少し子供っぽいかもしれないが、海老鍋ではしゃがないのは、海老にも小平さんにも失礼だ、と三言は思う。すると、小平は一層嬉しそうな顔をして「その顔もいいぞ。お前は櫛魂衆になってから更にいい顔するようになった」と言った。
    「そうだ。お前ら、今度闇夜衆と舞奏披するんだろ?」
    「はい。合同舞奏披ですね。相模國からは少し離れた社になりますが……」
     他衆と合同舞奏披をする際は、二衆の所属する社とは全く関係の無い舞奏社で行うことになっている。三言も初めて行くところで、遠足のようだな、と少しだけ思った。
    「それもまたいい。昨日の敵は今日の友ってわけだ。舞奏ってのはいいもんだな」
    「そうですね……。闇夜衆の皆さんとも、少しは仲良くなれた気がしますし。……友達、と呼んで頂けるかは分かりませんが。でも、三人とも素晴らしい覡ですから、俺はもっと仲良くなりたいです!」
     元気に言うと、三言は闇夜衆の三人のことを思い出した。圧倒的な存在感を持ち、目の離せない舞奏をする萬燈夜帳。今までに無いような華麗な動きで見ているものを魅了する昏見有貴。そして、──その目に強い決意を宿し、願いの為に魂を懸けて舞う皋所縁。
     他の二人に会えるのも勿論嬉しかったが、三言は何よりも皋所縁に会えるのが楽しみだった。三言は皋の舞奏が好きだが、舞台を下りた後の、うって変わって不器用そうな彼そのものも好きだった。皋と会うと、三言はなんだか不思議な気持ちになるのだ。
     今回の舞奏披では、もう少し皋と仲良くなりたい。そんなことを考えているうちに、トースターから食パンがポンと飛び出してきた。

    「ううううう、連日お天気はよろしいのにわたくしの気持ちは曇天ですことよ。あーあー、ねえー合同稽古の日が雨だったら雨天延期だったりしないの? ほら、遠流とか萬燈先生とか業界人じゃん。ギョーカイでお仕事しなきゃなのに、風邪引いたら大変だよぉ? 雨降ったら延期しよぉよー」
    「大丈夫だ比鷺! 合同稽古は舞奏社の中で行われるから天気は関係無いし、週末のお天気は晴れだそうだ!」
    「僕はちゃんと体調管理してるから風邪は引かない。萬燈夜帳の方は知らないけど、あの人に挑まきゃならない風邪菌が可哀想だから引かなそう」
    「ぐぐぐ、三言の晴れやかなお言葉と、遠流の斜め上の方向に飛んでく反論がダブルパンチですわぁ」
     三言がこんなに楽しみにしているというのに、比鷺は相変わらず元気が無かった。折角、久しぶりに稽古場じゃなくて比鷺の家に集まっているというのに、週末に合同稽古があるという事実が全てを打ち消してしまっているらしい。最初は悲しかったが、比鷺がこうして駄々をこねることも何だか楽しい。こういうのを様式美、というのだと、三言は比鷺から学んだのだ。
    「合同稽古はきっと行ったら楽しいぞ。比鷺も帰りたくなくなるかもしれない」
    「流石にそれは無さすぎる。も、俺ヤだからね。稽古中の俺はもう皋さんとしか絡まないから。あの人なら俺に負担掛けてこないもん。何か他二人がアレすぎて、皋さんからマイナスイオン感じるくらい。実質空気清浄機」
    「それは困ったな……俺も皋さんと話したいんだが」
    「えっ! 何その積極性!」
    「可哀想にな。こうなる前にもっと態度を改めるべきだったが……」
    「ちょっ遠流!? 何で俺が捨てられたみたいな顔すんの!?」
    「比鷺を捨てるつもりはないが……楽しみじゃないか? あんなに凄い覡達と一緒に稽古出来るなんて」
     三言は笑顔で言ったが、遠流も比鷺も微妙な顔をしている。比鷺に至っては大きな溜息を吐いた。
    「まあ、萬燈先生は褒めてもくれるからちょっとそこがアドなんだけど、昏見さんは一方的にこっちを速射してくるからさぁ……」
    「あの人は訳が分からなすぎて恐怖を覚える」と、遠流も苦々しげに言う。どうやら、二人とも昏見が苦手なようだ、と三言は悲しい気持ちになった。
    「あーあ、俺も髪の毛結んでローポニテっぽくして行こうかな。そしたら昏見さん、めちゃくちゃ優しくしてくれるかも」
    「お前がそんなことしたら、むしろ逆鱗に触れそうだけど」
    「よく分からないが、比鷺が髪を括るのはいいと思うぞ。似合いそうだ」
    「んへへ、ありがとー。でもなあ……髪纏めちゃうと……」
     無意識なのか、比鷺がそっとうなじに触れる。そこは、化身(けしん)があるところだ。見せたらいいじゃないか、と以前の三言なら言っていたと思う。けれど、何だか今はそれを言うのが躊躇われた。比鷺の化身はとても綺麗で、色んな人に見てもらいたいのに。
     自分に何か変化があったような気がするが、三言には自分の中に起きた変化が上手く説明出来ないのだ。
     その時、スマートフォンが鳴った。どこか上品なピアノの音は、遠流の──それも、仕事用のものだ。
    「あ、ごめん。少し出てくる」
    「またぁ? 遠流、最近ちょっと忙しくない?」
    「黙れ。……ライブ断ってる分、ちゃんと販促とかそういうのには協力しないと……」
     そう言うと、遠流はベランダへと出て行ってしまった。
     遠流は最近、アイドルの仕事を断り始めている。
     合同舞奏披を控えて、覡としての役割に集中したいというのが理由だ。その分稽古によく顔を出してくれるようになっているので、櫛魂衆の六原三言としては嬉しい。けれど、八谷戸遠流のファンとしての六原三言は……すごく寂しいような気がしている。
    「遠流、なんか忙しそうだよね。悪い意味で」
    「悪い意味で? ってどういうことだ?」
    「うーん。あいつ、忙しかったりしても、自分が決めたことだったらやる奴だもん。そんでキャパオーバーになったりもするけどさ……でも、今はちょっと……悩んでるっぽいから。悪い意味」
     比鷺はとても賢いし、色々なことによく気がつく。三言には見えていないものが沢山見えているのだろう。
    「……いい意味になるといいな」
    「あ、三言がそんな顔しなくていいから! だーいじょうぶ、何とかなるよ。何だかんだ、合同稽古まで行ったらさ、吹っ切れて遠流も元気になるかもだし」
     ね、と比鷺が言う。
    「そうだといいな」
     闇夜衆との合同稽古が──ひいては合同舞奏披が、遠流の抱えている何かを、少しだけ軽くしてくれないだろうか。三言はそっと、宛先も無く祈る。

     *

     クレプスクルムのカウンターに着き、萬燈夜帳と話している皋所縁は、初めてこの店に来た時とは比べものにならないくらい柔らかい表情を浮かべている。かつての昏見が見ていた表情といえば、求められるがままに探偵として振る舞っていた時の大袈裟なくらい不敵な表情か、救いの届かないこの世を嘆く苦しげな表情かだった。そう思うと、今の皋は本当にいい方向に変わった。昏見がそれを理想と据えられるくらいに。もし昏見がもっと謙虚で慎み深かったら、このままでいいと思ってしまう程に。
     生憎と昏見有貴はカミをも恐れぬ貪欲さを持っている人間なので、それを許す気など無いのだが。
     そんなことを考えていると、萬燈がちらりとこちらを見た。彼の口の端が悪戯を思いついた子供のように上がる。
    「どうした? 妬いてるか昏見」
    「やだなあ、妬きませんよ。誰と舞おうが、どんなに失格しようがかまわぬ。最後にこの昏見有貴が華麗に奪い返せばハッピーエンドのオールオッケー」
    「俺が構うんだけどなぁー。てか、萬燈さんも妙な絡み方すんなよ……面倒臭くなるだろ……」
    「でも、お店に来るなり萬燈先生と話し込んでファーストオーダーすらくれないのは、クレプスクルムのマスターとしても傷ついちゃいます」
     試しに悲しそうな声を出してみると、皋はあからさまに動揺した顔を見せた。いつもとは違う方面から攻められたことで、ちょっと罪悪感を抱いたのだろう。その様は素直で大変よろしい。内心でほくそ笑まれていることも知らず、皋は気まずそうに言った。
    「それは確かに……俺が失礼だったかもな……じゃあ、その……なんか……俺も頼む……」
    「あら! それは大変嬉しいですね。じゃあどうします? 今ご用意出来るものですと、フランスロレーヌ地方産ミネラルウォーターの水道水割か、もしくはスピリタスになりますが……」
    「なんで両極端の二つをチョイスするんだよ。どう考えても最初の一杯で度数九六度の酒は飲まねえだろ。ミネラルウォーターを水道水で割んな」
    「おお、流れるように三つも頂きましたー! ときめきますね! じゃあ六甲のおいしい水も一匙混ぜてあげちゃいます! いやあ、所縁くんってばグルメな上に欲しがりさんですね!」
    「わっかんねえよその隠し味! はぁ……萬燈さんは何飲んでんの?」
    「グレンスコシアビクトリアーナだ。美味いぞ」
    「あー、ウイスキーか……まあ無理だわ。萬燈さんなら絶対度数高いやつだろうし」
    「私達の前では酔ってもいいんじゃないですか」
     揺さぶりを掛ける意味で、そう言ってみる。すると、皋があからさまに動揺した顔を見せた。
     皋はアルコールの入ったものを人前で飲まない。一見ただの下戸であるかのように見えるが、それは彼の引いた一線であり、呪いの一種でもある。自分の意識が少しでも朦朧とすれば、大切なものを見逃してしまうかもしれない……という麗しき強迫観念。
     もう探偵じゃないと言っている癖に、皋は自分が酔うことを許さない。瞬きの間に世界が変わってしまうことの恐ろしさを、皋は未だ忘れられないでいる。昏見が皋の夜を肩代わりしてくれることなんて、まるで期待していない。
     だからこそ、それを無理矢理にでも打ち砕いてやりたい気もしてしまう。人間は酒を楽しむことが出来る生き物なのに。
     とはいえ、ここでわざわざ詰めることはしなくていいだろう。昏見はいつもの笑顔を作ると、明るい声で言った。
    「なんてね」
    「……なんだよお前」
    「なんてね」
    「イントネーションを変えて言い直すな。それはやめろ」
     皋の顔が無事に曇るのを見届けてから、昏見は冷蔵庫で冷やしていたジャスミンティーをグラスに注ぐ。いつかの日に、皋が実際に下戸であることを確認するのも一興だろう。
     もし、全部が終わった後に、自分と皋が共に酒を飲む間柄になれていたら、の話だが。
    「はいどうぞ、所縁くん」
    「……どーも。何これ?」
    「ふふふ、当ててみてください」
    「え、……ジャスミンティー? じゃないな。……どうせジャスミンティーのジャスミンティー割とか言うんだろ」
    「えっ、所縁くんってばどうしちゃったんですか!? ジャスミンティーをジャスミンティーで割ったらそれはジャスミンティーじゃないですか!? なんでそんな回りくどい表現を!? まさかお疲れですか!?」
    「こいつ殴りてえ~」
     言いながらも、皋は大人しくジャスミンティーを飲んでいる。ジャスミンティーは副交感神経の活動を高めて飲んだ人間をリラックスさせる効果があるので、生まれてこの方眉間の皺が取れたことがなく、地元では『顔にフィヤオラルグフュール渓谷を持つ男』として名を馳せている皋にも効くはずだ。
     そうして皋で遊んでいると、萬燈が何やらグラスを見ながら思わしげな表情を浮かべていた。最初はお代わりでも欲しがっているのかと思ったが、そうではないらしい。
     最近、萬燈の様子がおかしいことには気がついていた。前々から掴み所のない天才だとは思っていたが、近頃は更にそれが加速している。萬燈を変えただろうもので大きなものといえば──やはり、櫛魂衆との舞奏競だろうか。
     これが原因で変化を見せただろう彼は、更に櫛魂衆との合同舞奏披を控えている。──これが影響を及ぼしていないとは思えない。試しに、その辺りを突いてみることにする。
    「そういえば、萬燈先生は櫛魂衆大好き小説家として名を馳せていますから、強敵と相見える機会は嬉しくてたまらないのでは? うーん、コロッセウムの精神を感じますね」
    「萬燈さんをグラディエーターみたいに言うなよ」
    「まあ、楽しみではあるわな」
     萬燈は特に表情を変えることなく、涼やかに言った。それでいて、彼が本当に楽しみにしていることは伝わってくるのだからずるい。萬燈夜帳に好感を持たない方が難しいのだから。
    「んなこと言うなら、皋も昏見も楽しみだろう」
    「はい! 勿論ですとも! 私は櫛魂衆が好きすぎて毎日『櫛魂衆』って文字を一〇〇〇回写経して過ごしていますからね」
    「俺は正直そうでもないっていうか……。舞奏競の時も大変だったのに、もう一度あいつらと舞奏すんの大変すぎだろ。俺さ、六原と会うとなんか眩しさで目潰れそうになるんだよな……あいつ常に元気だし……」
     皋が眉間に皺を寄せる。ジャスミンティーの効果はあまり無いらしい。実際に会ってしまえば皋も楽しそうに過ごしている気がするのだが、それまでが長いのが皋である。
    「大丈夫ですよ、所縁くん。伝家の宝刀・所縁くんトランプさえ持っていれば、みんな所縁くんと遊んでくれるはずですからね」
    「ぜってー持ってかねえ」
    「そうか、そいつは残念だな。なかなかどうして面白えことになりそうだが」
     櫛魂衆とのゲームに凝っている萬燈が、冗談なのか判別のつかないことを言う。そういえば、これも変化だ。萬燈が自分と戦うに相応しい者を──恐らくは新たな『他人』を得たのだ。
    「え、萬燈さんがそう言うなら持っていこうかな……ただのそこら辺に売ってる普通のトランプだけど」
    「その慈悲に感謝するぜ」
    「うわ、萬燈さんがその角度で微笑んでくるのエグすぎるな……」
     皋は戸惑ったように目を逸らす。自分達と接するのに慣れてきたとはいえ、皋のこういうところはあんまり変わらない。
    「じゃあ、合同稽古も合同舞奏披もすっごく楽しいことになるに違いありませんね! 楽しみだなー。私、手土産にニシンのパイとか焼いちゃおっかなー」
    「そういうノリで行くとこじゃないだろ!」
    「昏見が楽しそうで何よりだろ? 親愛なるチームメイトだ」
     いまいちノリが悪い皋に対し、萬燈が笑う。
     それを見ながら、昏見は思った。──果たして、萬燈の変化は自分の予測範囲内に収まっているだろうか?
     元より規格外な人間だ。全てを理解することは出来ないとは思っている。昏見の計画の外にはみ出してしまうこともあるだろう。それが奔放な行動だけに顕れるなら、まだいい。
     その変化が萬燈に何かしらの願いを抱かせた場合が問題だ。
     萬燈夜帳がカミに何かを求めた場合、それは──単なる予想、根拠の無い嫌な予感でしかないが──恐らくは、自分に不利益なものになるだろう。そもそも、昏見はカミに対してかなり好戦的なスタンスだ。手を併せて仰ぎ見ることも、萬燈のように並び立ち手を組むこともしたくない。
     もし、彼が何かを願おうとしているのなら、昏見は先んじてそれを知らなければならないだろう。そして、場合によってはそれを奪わなければならない。
     愛すべき名探偵の決死の願いと共に、目の前の異形の才の願いまで奪わなければならないとすれば、それは大変骨の折れる話だ。だが、昏見は獲物が手強ければ手強いほど燃える性質でもある。
     差し当たっては、合同舞奏披まで彼のことを注視しておかなければならないだろう。
     昏見自身の目的の為にも。
     昏見の中にあるものを微かにでも嗅ぎ取ったのか、それともただタイミングが出来すぎているだけなのか、萬燈がこちらに視線を移した。彼の手がグラスを掲げる。
    「悪いが、もう一杯貰えるか。まだ飲み足りねえんだ」
    「ええ、それはもう。いくらでも」








    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。





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