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「昔のままでいいんだ」という発想はあの人にはないでしょ。

柳沢 2012年の暮れに『かみぷろ』というWEBマガジンを立ち上げまして。「橋下徹とは何か?」という特集を始めたんです。

一部ではご好評をいただき、一部では「あいつらはいったい何をやってるんだ!?」との批判もいただいて。

夏野 いいじゃないですか。橋下さんを考えるということは時代の先端をいってますよ。新しいリーダーの形ですから。

山口 最近もまた、体罰から端を発して自殺者の出た、桜宮高校体育科の入試を中止すると言い出して、いろんな角度で物議を醸してますね。

夏野 僕は、あれは正しい判断だと思いますね。あれだけのことが起こって、これからどうするか決まってないのに、新入生の受け入れなんてあり得ないと思います。

柳沢 で、「橋下徹とは何か?」をやってる中で、なぜ石原慎太郎と組んだのかというと、橋下徹という人の歴史的背景の中で「父性を求める気持ち」がすごく強いんじゃないかという話をしたんですね。

もう一つ、元気な老人を見ると世間はみんなすぐ老害、老害と言いますが、元気な老人の価値を取り込む、もっと言えば利用する「老益」という意識が橋下徹にはあったんじゃないかと。

そこで今回は「老害とは何か?」について考えてみようと思ったんですね。

夏野 「老害」という話になると年齢が大きなテーマになると思うんですけど。

その年齢というのは、精神的な年齢の問題で、肉体的な年齢の問題ではないと思うんですよ。だから、「老害」というものの定義は、まさに「精神的な若さを失ったことによる害」ですよね。

逆に言うと、精神的には若いまま経験を積んでいくと「老益」になるんじゃないかと思うんですね。

それをもっと噛み砕いて言うと、人間、年齢を重ねれば重ねるほど経験値は高まっていくし、いろんな判断力もついてきます。

こういうプラスがある反面、チャレンジの心が失われたり、いままでこうやってうまくいってきたから、これからも同じようにやっていけばうまくいくだろうと、これを経路依存って言いますけど、こういうマイナス面も出てくる。

このマイナスの面というのは、精神的に若い人は克服できるんですよ。常に好奇心を持つという姿勢でいれば、経路依存に陥らなくて済むから。

「昔はこうだったけどいまは違うよな」と常に新しい状況を受け入れることができて、常に新しいやり方にトライできる。

経路依存に陥らないで経験値だけが高まっていったり、判断力が高まっていったりすると、これは素晴らしいじゃないですか。

その典型が 田原総一郎さんだと思うんです。もう80歳近いのに、好奇心が衰えないと自分で言ってる。

同じように僕は石原慎太郎さんもそうだと思う。あの人も新しい問題意識に常に敏感ですよね。「昔のままでいいんだ」という発想はあの人にはないでしょ。

柳沢 ないですね。

夏野 それから原発の国会事故調査委員会の黒川清さんがそうですね。あの人も70代後半だけど、とてもそうは見えない。常に新しいことをやられていて。

ああいう人たちの精神的な若さ、チャレンジする心、好奇心を失ってない老人たちというのは、極めて元気で、極めて面白いんです。

柳沢 実に面白いですね。

夏野 だから、時々物議を醸したりすることはあるものの、問題点を提示したりするという意味では「益」なんですね。

一方で、現状を肯定し、新しいことを受け入れず、自分の過去がベストだったと思い込んでいる。これは社会の改革とか、社会の進化にとってマイナスに作用する。これが「老害」だと思うんですね。

精神的に老化してる人は、若い人でも「老害」。30歳ぐらいでも「老害」の人はたくさんいます。

こういう人たちの特徴は、昔話をしたがる、現状を肯定したがる、都合の悪い話は耳を塞ぐ、新しいことにはネガティブな目で対応する。

山口 夏野さんの知ってる30歳ぐらいの人で、そういう人はいますか?

夏野 いますね。

山口 IT業界にもたくさんいますか?

夏野 そういう人はIT関連には普通来ないです。まずITが嫌いですから。

山口 ああ、そうか。

夏野 そういう人は僕が学生の頃にもいましたよ。僕が20代の頃にWindows対Mac論争というのをよくやっていて。「なんでWindowsを支持する奴がいるんだろう?」って思ってたんです。

明らかにユーザーインターフェイスがMacの方が上でしたが「これだけ多くの人が使ってるんだからWindowsの方がいいんだ」と頑なに言い張ってるヤツがいて。「こいつ、頭が硬直化してるなあ」と思ってましたけど。


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猪木さんは「老害」なんですか?

柳沢 経営者的な老害というのはまさにいまの夏野さんの話の通りだと思ってたんですが。クリエイター的な老害ってあるじゃないですか。

僕が思うに、若い人たちがやりたいということを、なんだかんだ理由を付けてやらせずに潰していくのが経営者的な老害。

で、若い人たちが何かやる前に上の人がやっちゃう、それを見た若い人が「なんでそんなことやっちゃうわけ!?」と驚いて見てるのがクリエイター的な老害。

石原慎太郎なんかまさにそうで、若い人たちがみんな「なんでそんなこと言っちゃうわけ!?」と思って見てる。

夏野 それって「老害」なのかな?

柳沢 いや。それが「老害」と呼ばれることが多いなと。

夏野 はい、はい。年寄りが新しいことをやったり、言ったりしてることに対して否定してかかってる人って必ずいます。むしろそういう人が「老害」だと思うんです。

この前、田原さんのことを「老害」だと言ってる人がいて、Twitterで論争をしました。「田原さんのどこが老害だ、今まで何も考えず自民党とか民主党に投票してる人の方がよっぽど老害じゃねえのか?」みたいな。

柳沢 常に好奇心を持って、新しいことをやったり、言ったりしてる老人たちの元気な部分というのは、我々は「老益」としてすごく認めることが多いんですよね。

夏野 「日本はこれから変わっていかなきゃいけない」と思ってる人にはそう見えるんですよ。

ところが、世の中には現状肯定派という人たちがいるんです。そういう人たちから見ると、石原さんでも、猪瀬さんでも、「老害」に見えるんです。

橋下さんはまだ若いから「老害」とはあんまり言われないけど、同じように見られてる。なぜなら「秩序を乱す」と彼らは感じてるから。

例えば最近、最高裁で「一般大衆薬のネット販売規制は違法」だという判決が出ました。厚生労働省や自民党議員の一部の人たちは、あの判決をだした最高裁判事を「老害」だと思ってるかもしれない。

自分に都合の悪いことは全部「老害」にしてるんですよ。

柳沢 確かにみんなそういうような意味で「老害」という言葉を使いたがってますよね。

夏野 ですけど、それは評価が定まれば最後にわかるんです。

柳沢 僕らの本籍地であるプロレスや格闘技の世界でも、アントニオ猪木というとんでもない「老害」がいてですね(笑)。

夏野 猪木さんは「老害」なんですか?

柳沢 いや。僕らにとっては「老益」なんです。だけど、いまのファンや関係者にとっては当然「老害」なんですよ。

夏野 なぜですか? 秩序を乱すから?

柳沢 まさにそういうことです。

夏野 害か益かは何を基準に判断するかによって逆の評価になり得ます。

僕は、社会の進化を止めようとする方向に動いた時はすべて害だと思うんです。

柳沢 まったくその通りですね。

夏野 進化を止めないでむしろ自由度を高めようとか、進化を加速する方に行った時が益。

例えば、クリエイターの中で言うとゲーム業界。パッケージのゲームを作っている時に成功したクイリエイターたちが、ソーシャルの時代になってみんなダメなんですよ。これはまさに経路依存で。

パッケージのゲームの作り方と、ソーシャル系のゲームの作り方は全然違うし、ソーシャル系で育ってきたクリエイターというのは、まったく発想も違うわけです。課金の仕方から何から。

それをわからないから潰しちゃったりする傾向があるので。それが「老害」になる。

柳沢 我々は20年前に紙媒体で雑誌を作っていて、今はそれをWEBでやろうとしてる。

僕らの感覚でいうと、こうやってインタビューをして、原稿を作るということに関しては一緒なんですけど、メディアが違うわけで、全然違う考え方をしなきゃいけないことも多い。

この歳になって「これは一からだな」ということで、「株式会社しろおび」というのを立ち上げて、一から出直そうと(笑)。

夏野 「これは一からだな」ということを認識できてる人はいいんですよ。

でもね、こういう仕事は紙媒体からWEBに替わっても「ゼロからじゃない」ということがすごく大事で。読者にとっての満足感を最大化するっていう目標はまったく一緒ですよね。

柳沢 はいはい。

夏野 そういう意味でいうと、やり方は多少変っても、哲学まで変えなくていい。でも、ゲーム業界の場合は哲学を変えなきゃいけない。

柳沢 あ、そうなんですか。

夏野 パッケージのゲームの場合は、まず6000円ぐらい払ってソフトを買ってくれるわけでしょ。だから、ゲームの中でのユーザーの満足度を上げる、そのことをものすごく気にするわけです。

それに対してソーシャル系のゲームは、とりあえずみんなタダでできるわけでしょ。その中でお金を払ってくれる人の満足度を思いっ切り上げなきゃいけない。

お金を払ってない人の満足度をあんまり上げちゃうと、ソーシャルゲームというのは失敗しちゃうんです。お金を払わないでみんな満足しちゃうから。不満足を醸成する仕組みを用意しなきゃいけない。

山口 ああ、不満足を醸成する仕組み。

夏野 ところが、パッケージのゲームは不満点をなるべく潰す作業。

ソーシャルは不満点をなるべく残してそれを解決するためにお金を使ってもらおうという発想なので、哲学がまったく違う。

そこまで哲学が違うと、パブリシティも変わってくるんです。パッケージの場合はストーリーの中身をなるべく明かさない。

ソーシャルの場合はどんどん明かすんです。どんどん中身を知ってもらって、俺もああいうふうになりたい、あんなところまで行けるんだ、そういうところを見せつけてやらないとみんなお金を払ってくれない。

柳沢 なるほど、ゲーム業界というのはそういう世界なのか。

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ナイスミドルみたいな人に勝てないわけですよ。

山口 夏野さん自身が「老害」扱いされたことってないんですか?

夏野 いや、あるでしょ。Twitterなんかで僕と意見が合わない人は僕のことを「老害」と言いますよね。

多分、通信会社にいた時も、僕がやめたのが43歳だったから、「老害」とまでは言われなかったけど、邪魔だと思ってた人はたくさんいたと思いますよ。

山口 「老害」と言われる人は影響力を持ってますよね。

夏野 まあ、そうかな。影響力のない人は害にも益にもならないからね。

柳沢 夏野さんは我々と同世代ですけど、僕らの年齢がいちばん境目というか、下からは邪魔だとか言われがちだし、でも一流企業とか行けば60代、70代でバリバリ現役の人もたくさんいる。

だけど、夏野さんを見てると、実にいいポジションというか、上からと下からのサンドイッチのおいしいところにいるなあと思って。

夏野 そうかなあ?

柳沢 少し年下のドワンゴの川上さんとか、ホリエモンとかから見ると、実に頼りになる兄貴分という感じがするんですけど。

夏野 多分、ホリエモンぐらいの世代まではいいと思うんですよ。もっと下の35歳以下から見るとウザいんじゃないですか。

柳沢 僕らもまったく一緒でしょうね。

夏野 でも、それでいいんじゃないですか。

柳沢 ええ、いいと思ってます。

夏野 経験値がある人が、一緒に何かをやってくれたり、応援してくれたりすることっていうのは、自分で推し進めたいことがある人、純粋に自分のやることの成功率を高めたい人にとってはプラスなはずなんです。

橋下さんと石原さんの関係は、じかに会って話して見た時に、この人はビッグサポーターだと橋下さんは思ったんでしょうね。

柳沢 そうでしょうね。

夏野 ところが、「老害」という言葉をネガティブな意味で使う人の中には、自分がやりたいようにやるために、余計な正しいことを言われるのが嫌だっていう人がいるんですね。

ゴールの成功率を高めるよりは、目の前のことを楽にやりたいという人が。こういう人から見ると、本来は「老益」かもしれないような、助言、アドバイス、お節介が「老害」に見えるんです。

山口 単純に元気のいい老人を忌み嫌う若者もいますよね。いつまで元気なんだと。

夏野 います、います。そういうケースで多いのは、なんで俺たちの年代の女性をターゲットにするんだってことですよ。

山口 「年甲斐もなくギラギラしやがって」と。

夏野 僕もそうでしたから。20代の頃に同世代の女の子の不倫とかいう話を聞くと、「自分は家族を持ってるくせにふざけんなよ!」と思うんだけど。

でもナイスミドルみたいな人に勝てないわけですよ。財力的にも、知識的にも。そうすると年のことを言うしかない。

山口 そこしか攻められない。

夏野 同性で10歳ぐらい年が離れてるのがいちばん難しいんです。30代と40代の男性同士とか難しいじゃないですか。40代と50代の男性同士になるともっと難しいんですよ。

でも、40代と60代とか、40代と70代とかになると、逆に腹を割って話せるんですね。これも僕は橋下さんと石原さんの関係に感じましたね。

山口 石原慎太郎と橋下徹は37歳離れてますね。

夏野 それぐらい年が離れると、「生意気だな、こいつ」とか、気にならなくなるんですよ。お互いに言ってることを素直に聞けるので。

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だったらまた新しい物を作ればいいじゃないですか

柳沢 夏野さん自身は、10年後、20年後の自分の理想像というのをどう考えてます?

夏野 その頃、何をやってるのかまったくわからないですね。

「老害」というテーマに則して言うと、とにかく自分の下の世代の自由度を高める方向にいくことをできるだけやろうと思ってます。

つまり、自分自身が若手を否定しないということは当然のこととして、年功序列とか、終身雇用とか、シニアに有利な社会制度をどんどんぶち壊すことが僕の最大のミッションかなと。

いまの40代の中には守り側に入る人もいるんです。年金をきちんともらえる世代になんとか滑り込みたいとか。

だけど、これから先の日本を考えた時に、いまの40代以上はもう古い世代なので、僕らが作る日本ではないはずです。

柳沢 そうですね。

夏野 だとしたら、いままでの仕組みを40代が壊さないと、この仕組みは壊せないと思う。

40代が一度、壊してあげて、30代以下の世代の自由度が高まる方向で何ができるかということを考えますね。

僕は幸い40歳ぐらいの時に社会的に実績を挙げられたので、話を聞いてもらえる立場になったから。

山口 僕らは40代にして実績を崩しきってしまいました(笑)。

夏野 他人に情報を発信するためには実績を挙げなきゃいけないわけです。実績を挙げてた人ということで、やっとみんな話を聞いてくれるわけ。

みなさんの仕事が羨ましいなと思うことがあって、それは何かというと、仕事そのものが情報の発信で他者に影響を与えるでしょ。

そういうふうに思ってない編集者もいるかもしれないけど、情報を発信する立場の人って、基本的に社会が良くなればいいな、日本という国が良くなればいいな、自分のコミュニティー、例えばプロレスや格闘技業界がもっと繁栄したらいいなと思ってるはずなんです。

柳沢 我々は格闘技界で大晦日に興行をやったりとかビジネス・スキームを作ってきたんですけど。10年たってそれは壊れたんですね。

夏野 だったらまた新しい物を作ればいいじゃないですか。

柳沢 まさにそうで、僕らは新しいスキームを作ろうとしているんですけど、もう壊れてしまったビジネス・スキームにしがみつく人たちも非常に多いんですよ。

夏野 でも、そういう人たちはいずれ死んじゃうから。儲からないし。

山口 そう。このやり方ではもう儲からないってことも含め、僕らが示してきたはずなんですけどね(笑)。

夏野 最初から言ってきた、精神的な若さが大事だというのはそこです。

新しいことにチャレンジするというのは精神的に若くないとできないんです。大変だから。

同じことをずっとやってるというのは、これは若い人でも完全に「老害」なんです。

柳沢 良かった。我々もちょっとは「老益」に向かっていけそうで(笑)。

夏野 世の中は環境が変化してるので、自分が変化しないことの方がリスクなんです。

柳沢 そうですね。

夏野 だから、同じことをずっとやらない方が正しいんです。

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いまだにテレビと紙なんです

山口 常に好奇心を持って新しいことにチャレンジし続ける元気な60代、70代の人たちと、新しい価値観を持った20代、30代の人たちの橋渡しをするのが、我々40代の役割なんじゃないかと肌で感じてるんですけど。夏野さんもそう思うことはありますか?

夏野 そう思いますよ。だから、僕がテレビとかメディアの仕事を積極的に受けてる最大の理由は、55歳以上の人たちのITリテラシーが異常に低いことなんです。

柳沢 かなり低いですね。

夏野 一方でいま社会の隅々までITは行き渡っていて、そのことを前提とした世論形成をしていかなきゃいけない時期に、意思決定の仕組みの中にITが全然入ってない。

これをなんとか啓蒙したいなっていう気持ちがあって。で、55歳以上の世代に伝わるメディアはいまだにテレビと紙なんです。

柳沢 確かにそうですね。

夏野 だから、テレビと紙には積極的に出ます。なので面白いんですよ。

10代、20代の人にとって僕はニコ動の人なんです。40代の人にとってはiモードの人。

60代以上の人にとっては『とくダネ』あるいは『バンキシャ』の人ですからね。要はテレビに出てるコメンテーターの人。そう思われてていいんです。

僕より下の世代がいまこういうことを考えてるんだよということを、60代以上の人に伝えたいから。僕自身はどんどん年齢不詳、職業不詳になっていけばいいなと思ってます。

柳沢 夏野さんのお付き合いは幅が広いですよね。20代から70〜80代まで。

夏野 それは通信会社の役員としてはできなかったことですね。

山口 クラスタというと年代で分けたがる層もいますけど、本質はそうではないですよね。

夏野 そうですね。もちろんマーケティング分析とかで年代を分けるのはいいんですが。

個人的な政治に対する意見とかで「お前らは40代だからそんなこと言ってるんだろ」なんて言われるのが嫌なんです。

40代だっていろんなこと考えてる人はいるし、20代だってそうだし。同じ年代だったらみんな同じことを考えてるわけじゃないでしょって。

山口 でも、みんなすぐ類型化したがりますね。

夏野 そう。日本ではこの類型化というのがものすごく弊害になってると思ってるんですよ。

この前、僕はもっと自由経済というか、規制緩和した方がいいと思ってるので、あるテレビの番組でそういう話をしたら、国会議員の方に「あなたみたいな学者にいまの経済の実際なんかわかってないだろう」って言われて。

まわりの人が「夏野さんは慶応大学で教えてはいますけど、学者じゃなくて実業家ですから」って言ったら、その人が「え〜っ!?」ってなって。

つまり、その年代の人から見ると、政治の人はずっと政治、学者の人はずっと学者をやってるものと思ってるわけです。

IT系のいろんな会社でやってきて、なおかつ慶応大学の教授なんて、そんな存在を理解できないのでしょう。

山口 複雑系という概念をわかりようがないんですね。

夏野 あの時に、「ああ、こうやって類型化して、相手を論破しようとしてるんだな、この人は」と思って。

僕が本当に学者だったら、「学者に何がわかる!」と言われた途端に話ができなくなるじゃないですか。

日本ってこうやって議論をなくしてきたんだなと思いましたね。

山口 月並みに言うと「決めつけ」。

夏野 これも「老害」だと思うんです。経路依存を前提とした議論なんて成り立たないじゃないですか。

年齢もよくわからない、肩書もよくわからない人間として議論をした方が面白いと思うんです。

僕はこれから若い人たちはチャンスだと思ってます。

昔のように大企業が優秀な人材を押さえてた時代は、とにかく会社に入って、10年、20年で一つずつキャリアを重ねていくという経路を辿らないとチャンスなんかなかなか生まれなかったわけです。

でもいまは就職できない、大企業ですら潰れかかってる。いま就職できないから起業してる人がいっぱいいるじゃないですか。

ここからいろんな人たちが出てきますから。大チャンスになっていくと思うんですね。ただ、そっちはそっちでまた固まらないようにして欲しいなあとは思いますね。

30代の経営者たちを見てると、若干、そういうところを感じるところもあるんですよ。身内をなるべく同じ年代で固めて。それはそれで危険でしょ。

30代の社長が40代の人を使うと気を使うというのもわかるんだけど。でも、いろんな人を混ぜた方が絶対にいいんですよ。

多様性の原則が集団には必ずあるんです。多様性のある組織の方が絶対に強い。

山口 あ、我々は多様性だけは自信があります(笑)。

柳沢 というか、多様性しかない(笑)。

夏野 だから、多様性を排除する言葉として「老害」というものが使われる時がいちばん危険ですよね。

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夏野 剛 ( なつの たけし )
慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授

1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。95年ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年 NTTドコモへ入社。99年に「iモード」、その後「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。2005年執行役員、08年にドコモ退社。

現在は慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、ぴあ、トランスコスモス、グリーなど複数の取締役を兼任。

World Economic Forum “Global Agenda Council on Social Media”メンバー、World Wide Web Consortium(略称:W3C) Advisory Boardメンバー。 特別招聘教授を務める慶應大学政策メディア研究科では「ネットワーク産業論」をテーマに講義する。

2001年ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選ばれる。 著書「ケータイの未来」「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」「iPhone vs.アンドロイド」「なぜ大企業が突然つぶれるのか」等多数。

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