「こだわりの逸品」をいただきつつ、先生の生い立ちや考え方に、そこはかとなく迫る、「新・東京シュガーベイブ」のスピンオフシリーズ「山口日昇と新・東京シュガーベイブ・グルメ部」(別名:たかり部)正式発進!
野菜たちをカラフルに盛りつけて、見た目の印象を華やかにしてます。
山口 川越シェフの自慢の一品ということでバーニャカウダを、先ほどさっそくいただいたんですけど。バーニャカウダに対するこだわりを教えてもらえますか?
川越 全国的にバーニャカウダというネーミングでいろんなレストランさんが展開されてると思うんですけど。
ウチはお店が代官山だというのもあるので「代官山の…『畑』」というネーミングなんですよ。
山口 ほえ〜、畑!
川越 代官山ならではというか、代官山らしい僕なりのイメージで盛りつけしてます。でも、そもそも代官山に畑なんてないじゃないですか(笑)。
山口 ええ、じつにシャレっこけた街ですからね。
川越 だから「もしも代官山に畑があったらこんな感じかしら?」というイメージで、野菜たちをカラフルに盛りつけて、見た目の印象を華やかにしてます。
山口 確かにまず盛りつけの華やかさにビックリしますよね。
川越 代官山=おしゃれで洗練された街というイメージをみなさんお持ちじゃないですか。
だから、単なるバーニャカウダを出すよりも、キラキラかわいい盛りつけの野菜の盛り合わせを出したいなと思ったのが、こういうネーミングになったんです。
山口 まさにキラキラネーム(笑)。野菜も焼いてあったり、茹でてあったり、生だったりと、その野菜の特性や旨味がよく出るようにひと工夫されてますけど、綺麗だけどもけっこうなボリュームですよね。これがコースの前菜として出てくるわけですか。
川越 けっこうなアイテム数が乗ってるんですけど。それを最初に全部召し上がってくださいというわけではないんです。
これをコースの途中でつまみながら楽しんでいただきたいというのと、これについてるおソースも、パンにつけていただいてもおいしいのでバケットがついてきます。
コースの中でつまみながら食べてもらえたらなというので、あのボリュームになってるんですよね。
【バーニャカウダ】
イタリア・ビエモンテ州を代表する冬の野菜家庭料理。ピエモンテ語で「バーニャ」は「ソース」、「カウダ」は「熱い」を意味する。アンチョビ、ニンニク、オリーブオイルなどを混ぜ合わせたディップソースに、ジャガイモ、カブ、セロリ、ブロッコリーなどの野菜を浸して食べるフォンデュに類似した料理。
ディップソースはテーブルの上で温めながら食すのが一般的だが、川越流のソースは温めないでいただき、かつ、とっても濃厚なのが特徴。
山口 野菜を茹でただけっていうところも多いですよね。
川越 そうですね。それはそれでシンプルで美味しいと思うんですけど。ウチはまずコースの最初ということで、お客さんもお酒を召し上がられる前で、まだちょっとほぐれてないんですよ。
そういう時に目に入ったものってすごく覚えていただけるんですね。これが中盤でちょっとお酒が入ってくると、どんなものを食べたか忘れる時がある。
だから、最初、メイン、最後のお料理に特に印象に残るようなものを出すことで、例え酔ってお帰りになったとしても、次の日に「ああ、あんな料理が出てきたな」と覚えていてもらいたい。
そういう思いで、最初にはインパクトのある、こういう盛りつけのものを出してます。
山口 ファーストインパクトですね。
川越 これは僕の育った環境が関係してると思うんです。田舎育ちなので、人をもてなすとか、宮崎弁で「さあ、食べんね、食べんね」って、「食べなさい、食べなさい」という意味で言うんですよ。
お腹いっぱいになるまでいろんな料理をお出しする。そういう環境で育ってると、ついつい自分のお店に来てくださった方々にはたくさん楽しんでもらいたい、たくさん喜んでもらいたい、たくさんワクワクしてもらいたい、という気持ちがあるんですね。
だから、レストランというサービス業をやるきっかけは、もちろん料理に興味があったこともありますけど、そういう自分の所に来てもらうことで、我々も嬉しくなる。おもてなしするのが楽しいという気持ちも大きいんです。
山口 どんどん料理を出すというのは田舎に行くと凄いですからね。なぁ、柴田。
柴田 僕の田舎は秋田なんですけど、料理をどんどん出してもてなさないと、むしろ恥ずかしいことぐらいの感じですね。
川越 田舎はそういうところがありますよね。
自分の努力次第でプラスにもマイナスにもなる仕事につきたかったというのはありますね。
山口 川越さんはオーナーシェフですけど、経営者と料理人の狭間で矛盾を抱える面も出てくると思うんですよね。
川越シェフの場合は、料理人よりも先に経営者でありたいという思いがあるんですよね?
川越 そうですね。生活していく上で生業にしていくには、サービス業の中のお料理のお仕事であれば、僕の性格上、能力上、なんとか機能してやっていけるかなとは思ってました。
山口 料理以外に、もし生計が立てられるならやりたかった職業ってあるんですか?
川越 スポーツ選手とか。チームよりも個人の力量で勝負していくスポーツに興味がありました。
山口 チームプレイより個人プレイの方が向いてる。それは僕もそうなんで、気持ちはなんとなくわかります。
川越 個人プレイというか、自分の努力次第でプラスにもマイナスにもなる仕事に付きたかったというのはありますね。
山口 他人に合わせにくい性格なんですか?
川越 はい(笑)。
山口 そうは見えないですけどね。
川越 いや、そういうところはあります。
山口 我が道を行くタイプ?
川越 わがままですね。
山口 でも、気は遣うほうですよね?
川越 他人の顔色を伺うというか、できることなら他人に嫌われたくないという思いは強いかもしれません。
山口 でも、「いざとなったら嫌われてもいいや」っていうとこはないですか?(笑)
川越 その覚悟はあります(笑)。そこは複雑です。嫌われたくないけど、嫌われたら仕方ない、みたいな。
山口 自分からは嫌われたくはないけれども、嫌われたら嫌われたで仕方ないという。
川越 そうですね。自己責任という部分では腹を括ってずっと生きてきたところはありますね。