その15 グレイシー柔術を時空を超えて妄想で暴走開始。(前半)
幕末から明治の初期にかけて、海外からやって来た異国の人々と日本人が試合をした記録が残っている。その結果は日本人の全勝。どれもあっという間に勝っている。その時のスタイルは古流の柔術だったんだと思う。相手が何も知らなければ古流の柔術は圧倒的に強い。
古流の柔術とは1対1を前提としない。戦は多人数だし、暗殺も一人で来ることはまずない。だから多人数と戦う前提で技が構築されている。1対1と多人数を相手にする際の最大の違いは、正面だけ見ても殺されるということ。前だけに注意を払っていたら、横や後ろの相手にあっという間に切られてしまう。前後左右に注意を払い、前後左右に対する攻撃方法を持つのが古流の大きな特色だ。
現代の格闘技は1対1が前提だから、自分の正面に相手がいる。だから正面に対する攻撃と防御がテクニックのほとんどを占めている。ボクシングなら両手を前に伸ばして、手の平を付けた状態。その手の中でしかパンチの威力がないように出来ている。ジャブもストレートも両手を伸ばして出来た三角形の中で威力が生まれるように出来ている。フックもアッパーも同じ。三角形の外側では威力が出ない。だからボクシングは脇を締める。
レスリングも同じように脇を締めて自分の正面の力を効率良く使うことによって効率よく技を使うことが出来る。相手のサイドに入ることをやっても自分はきちんと正面の力を使うことで、ボクシングやレスリングのテクニックは構成されている。
古流の武術は両手を伸ばして出来た三角形の外側に力を集め、技として使うのだ。自分の横や後ろに対して、いちいち正面を向いて攻撃や防御をしていたら間に合わない。だから自分の横の力を使う。横からなら正面から後ろに移動するよりも効率良く後ろの相手と向き合えるのだ。
古流の技は全く西洋的な格闘技とは違った発想と成り立ちで構成されている。1対1の格闘技とは古流からしてみると、つけ込む穴がたくさんあるのだ。だからあっという間に大きな外国人に勝つことが出来たのだ。
ところが前田先生が試合をやったのは興行なのだ。いつもあっという間に勝っても観客は集まらないのだ。少し時間をかけて、丁々発止の技のやり取りがあったほうが観客は喜ぶ。
ボクサーのパンチを距離を取ってかわしたり、少し時間をかけてかわす。そうすると観客の期待が大きく膨らむ。きっとボクサーのパンチがあの日本人をとらえてKOするぞ、と観客の想像が大爆発するのだ。僕の妄想で暴走も大爆発だ(笑)。
古流武術の技は時間をかけないで勝つことに知恵が集約されている。多人数が相手なのに一人に時間をかければ、他の敵に横や後ろから狙われるから時間はかけられない。だけど興行ではある程度の時間をかけて勝負をしたほうが良いのだ。
そして相手に怪我をさせないで勝つことも必要になる。試合をする度に相手に大怪我をさせていたのでは、そのうちに対戦相手がいなくなる。それでは興行に出られなくなる。興行に出られないということは仕事をなくすということ。つまり失業になってしまう。
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