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第22回:【政策】若者雇用戦略を総括する(最終回)
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第22回:【政策】若者雇用戦略を総括する(最終回)

2013-06-16 13:46
    後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
    第22回:【政策】若者雇用戦略を総括する(最終回:まとめ)

    さて、この連載企画では、2012年の「雇用戦略対話」について何回か論評を加えてきました。
    第1回:http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar25033
    第2回:http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar94304
    第3回:http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar159585
    第4回:http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar208724
    雇用戦略対話:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koyoutaiwa/index.html
    若者雇用戦略の推進(内閣府):http://www5.cao.go.jp/keizai1/wakamono/wakamono.html

    ここまで見てくると、この雇用戦略対話もまた、現代の若年労働・雇用政策、そして経済政策の流れの中に位置づけることができるということがわかってきます。若者雇用WG第5回で私が述べたとおり、2000年代の若年雇用政策ないし言説には、2回のバックラッシュがありました。1回目は「ニート」論として、2回目は「学生の大手志向が問題だ」とする現代的な「雇用のミスマッチ」論としてです。そしてこの雇用戦略対話は、この2回目のバックラッシュの影響が強い中で行われたものです(バックラッシュについては第5回で提出した私の資料及びこの企画の第1回参照)。

    ただそれでも、少なくない委員、特に吉田美穂や上西充子などは、このようなバックラッシュの流れの中で、現実的な解を模索しようと頑張っていたようにも思えます。吉田については非進学校の立場から、なおかつ専門的な知見も踏まえてキャリア教育の可能性と限界について述べていました。また上西についても、キャリア論の専門家の立場から雇用戦略対話そのものが立つ認識の危うさについて鋭く指摘していました。他にも専門家としては樋口美雄、堀有喜衣なども、この雇用戦略対話についてある程度の疑問を提示する発言をしています。そしてこれらの影響は、最終的な「若者雇用戦略」にも一部現れております。

    しかし「若者雇用戦略」を全体的に見ると、このような専門家や実践者の指摘よりも、(2回目のバックラッシュによって生み出された認識に基づいた)既存の雇用政策や、(第5回で委員をドタキャンしたはずの)藤原和博的な認識のほうが全面的に現れているように見えます。これはいったいどういうことなのか。

    やはり、内閣府が政策としてやっている以上、既存の雇用政策に真っ向から異議を唱えるようなものはやはり採用されにくいのだと思います。そしてなぜ最終的な提言において、結局のところ若年層の側にかなりの責務が負わされているのも、既存の若年層の雇用に対する認識(つまり2回目のバックラッシュで提示された認識)に真っ向から反対するようなものは出しにくい、というものがあるのだと思います。

    そもそもの問題として、先日配信した「第10回博麗神社例大祭」のサークルペーパーで述べたとおり、ロスジェネより下の世代においては、労働問題が主張しにくくなっているという現状があります。海老原嗣生によって2回目のバックラッシュの元となる言説が発表されたこともそうですけど、他にも労働問題におけるロスジェネの立場が強すぎたという問題もあります。例えばロスジェネ言説の初期においては、ちょうど大学の新卒採用情況が好転していた時期でもあり、2008年頃に大学を出た世代は「自分より劣っているはずの世代なのに「売り手市場」で楽々と内定を得るようになっている」という言説が大手を振ってまかり通っていたことがあります。

    また「相対的剥奪感」や「生きづらさ」を売りにしてきたロスジェネに対して、それより下の世代はよりニヒル、シニカルに社会を捉え、自分が苦しいならそこから「逃げれば」いい、というものが提示されることが要請されてきた、という現状があります(これについては、「サンシャインクリエイション60」で出す新刊『「働き方」を変えれば幸せになれる?:平成日本若者論史7』で詳細に論じる予定です)。所謂「ブラック企業」をめぐる言説においても、家入一真などの論者から「そういう問題にこだわるのは莫迦莫迦しい、起業して会社という考えから自由になればいい」というニヒリスティックな「意見」が自己啓発の文脈で出てきておりますし、またロスジェネ系の論客ないしメディアからも「若い世代はとにかくそんなことは気にせずに熱心に働くのが一番」という言説も生まれております。現実に死者・病者が出ているのに!

    参考(当ブロマガより)…
    2013年1月5日配信記事「【思潮】「U-25サバイバルマニュアル」が描く「新・仕事人間」――その病理と時代背景」http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar26627
    2013年2月15日配信記事「【思潮】ロスジェネ系解雇規制緩和論者が若者バッシングに走るとき」http://ch.nicovideo.jp/kazugoto/blomaga/ar116575

    また雇用戦略対話とだいたい同時期に毎日新聞で連載されていた「リアル30's」についても、30代の「生きづらさ」を描きつつも、20代はほとんど出てきませんでした。ちょうどロスジェネの下端とされている年代が1982年生まれであり、2012年はその年に生まれた人が30歳になる年ですから、20代は労働問題の「主役」からは既に外されていると考えた方がいいかもしれません。そしてロスジェネの主張していた言説が「若者かわいそう論」として攻撃されたときに、おそらく最も害を被ったのは20代でしょう。

    この雇用戦略対話における「若者雇用戦略」は、最終的に2012年時点での20代、そして10代の労働問題の「語られにくさ」を強調する結果になってしまったと思います。「30代」を「主役」にし続けてきた若者労働言説について、この雇用戦略を通じて改めて問い直すべきではないのでしょうか。

    政策カテゴリの次回企画は、学力政策を扱った「現代学力政策概論」になる予定です。

    【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
    第23回:【思潮】「草食系男子」論とは何か(第2回:モラルパニックとしての「意欲を失った若者」)(2013年6月25日配信予定)
    第24回:【科学・統計】セイバーメトリクスを学ぶ(2013年7月5日配信予定)
    第25回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(最終回:テキストマイニング)(2013年7月15日配信予定)

    【近況】
    ・「サンシャインクリエイション60」にサークル参加します。
    開催日:2013年6月23日(日)
    開催場所:サンシャインシティ(東京都豊島区)
    アクセス:各線「池袋」駅東口より徒歩10分程度、または東京メトロ有楽町線「東池袋」駅より徒歩5分程度
    スペース:ワールドインポートマートA23ホール「K」ブロック06b

    ・「コミックマーケット84」2日目にサークル参加します。
    開催日:2013年8月11日(日)
    開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
    アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩3分程度、または東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
    スペース:東館「R」ブロック19b

    ・本年9月中旬に、日本図書センターより5年ぶりの商業新刊が刊行されます。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。

    ・「第10回博麗神社例大祭」新刊の『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』と『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』がメロンブックス、とらのあな、COMIC ZINで発売中です。またいずれも電子版もメロンブックスDLで配信中です。
    『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』
    告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524050938.html
    サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=35542729
    メロンブックス:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001061205
    とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/12/16/040030121698.html
    COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=16239
    電子版(メロンブックスDL):http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000163554
    『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』
    告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524045526.html
    サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=35543054
    メロンブックス:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001061206
    とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/12/17/040030121701.html
    COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=16240
    電子版(メロンブックスDL):http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000163553

    ・「杜の奇跡20」新刊の同人誌『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷――平成日本若者論史5』が現在発売中です。また、Kindle版もリリースしました。
    告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11489088720.html
    とらのあな:http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/10/93/040030109347.html
    COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=15815
    Kindle:http://www.amazon.co.jp/dp/B00DC8G04W/

    (2013年6月16日)

    奥付
    後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第22回「【政策】若者雇用戦略を総括する(最終回:まとめ)」
    著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
    発行者:後藤和智事務所OffLine
    発行日:2013(平成25)年6月16日
    連絡先:kgoto1984@nifty.com
    チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
    著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

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