ほぼ週刊若者論テキストマイニング
第3回:土井隆義『「個性」を煽られる子どもたち』ほか4冊

テキストマイニング第3回は、現代の青少年の「病理」について様々な考察を行っている、筑波大学教授の土井隆義氏を採り上げようと思います。以前私は土井氏について、「コミックマーケット82」(2012年夏コミ)のサークルペーパーで次のような文章を書きました。

【C82サークルペーパー】1. 誰もやらないので俺がやるシリーズ1:土井隆義論
http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11332879019.html

「誰もやらないので俺がやるシリーズ」ってもう2年以上やってないじゃん(そして今後もやるつもりはない)!…というのはさておき、今回改めて土井氏の文章を読みましたが、残念ながら上記記事で土井氏に抱いた感想は変わっていません。今回は土井氏の『「個性」を煽られる子どもたち』『キャラ化する/される子どもたち』『つながりを煽られる子どもたち』(全て岩波ブックレット、2004年/2009年/2014年)、そして弊サークルの『「ヤンキー」論の奇妙な位相――平成日本若者論史9』(後藤和智事務所OffLine、2014年/仙台コミケ216)でも扱った『友だち地獄』(ちくま新書、2008年)を検証しますが、いずれも、現代の若い世代の心性を病理的と簡単に決めつけるような内容だったというのは変わっていません。ちなみに土井氏については、テキストマイニングの作業中にこのようなことをツイッターに書いていました。

若者の問題がコミュニケーションとサブカルチャーの中にしか存在しないのだとしたら、そら解決策も自己啓発的なものにしかなり得ないよね。

― 後藤和智@仙コミF17/紅楼夢E27b (@kazugoto) 2014, 9月 21

一部の社会学者による若者論の問題というのは、まさに「若者の問題がコミュニケーションとサブカルチャーの中にしか存在しない」という認識なのですよ。だから労働問題とかも「とりあえずデフレ脱却しろ」とかいったらすぐに「それで救われない若者もいる」「問題はもっと根深い」とかはぐらかされる。

― 後藤和智@仙コミF17/紅楼夢E27b (@kazugoto) 2014, 9月 21

(なんでこういうことを突然言い出したかというと、今、土井隆義氏のテキストマイニングをやっているからです)

― 後藤和智@仙コミF17/紅楼夢E27b (@kazugoto) 2014, 9月 21

土井氏の言説は、まさに若い世代の「問題」がコミュニケーションとサブカルチャーの中にしか存在しないという観点で書かれていると思います。そのような言説がどのように構築されているかについて、テキストマイニングを用いて検討を行ってみたいと思います。まず、分析した書籍のプロフィールと、主要単語は以下の通りです。

表1-1
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表1-2
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多次元尺度法を使って単語をプロットしたのが図1-1となります(小見出し単位で集計、出現数57以上)。出てくる単語の多くがコミュニケーションに関する単語なのですが、第1次元の正方向(プロットで言うと右のほう)に、若い世代のコミュニケーションのあり方、あるいは「生きづらさ」についての単語が並んでいるように見えます。

図1-1 出現数57以上の単語の多次元尺度法による配置
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次に、単語に対して対応分析を行った結果を表1-3,4、図1-2に示します。軸には、各書籍の他、岩波ブックレットのみで集計した値と、ちくま新書だけで集計した値(『友だち地獄』の分析と完全に一致します)という6つのデータに対してプロットしました。結果は第1主成分の寄与率が既に60%という大変大きなものになっています。まず第1主成分については、『友だち地獄』と岩波ブックレットの3冊を分つ軸となっています。今回検証している岩波ブックレットの3冊のタイトルに全て「子どもたち」と書かれているように、左側には子供問題、右側には若者の問題に関する言語がプロットされていると見るべきでしょう。左側には「成長」や「キャラ」、右側には「自殺」や「メンタリティ」などの言葉がありますが、総合的に判断するに、左側には「関係性」の病理、右側には「自己」の病理を示す言葉が並んでいると見るべきでしょう。

表1-3
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表1-4
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図1-2
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また、前回より導入している、コーディングを用いた分析も行いました。コーディングルールは以下のようなものを用いています。

#基本

*若者
若者 | 若い+人 | 若い+世代

*学生
学生 | 生徒

*子供
子供 | 子ども

*彼ら
'彼ら' | 'かれら'

*今
今 | いま | 現代 | 昨今

*かつて
昔 | むかし | かつて

*今の若者
<*今> & <*若者>

*かつての若者
<*かつて> & <*若者>

#基本/推測に基づく断定/文末表現

*かもしれない
'かもしれない。' | 'かもしれません。'

*~と言える。
'いえる。' | '言える。' | 'いえます。' | '言えます。'

*~だろう。
'だろう。' | 'でしょう。'

*確かだ。
'確かだ。' | '確かです。'

*思われる。
'思われる。' | '思われます。'

#基本/推測に基づく断定/中間

*(し)つつある
'つつある'

*おそらく
おそらく | 恐らく

*最早~ない
seq(もはや-ない) | seq(最早-ない) | seq(もはや-ます-ん) | seq(最早-ます-ん)

#書籍オリジナル

*ある若者
ある+若者 | ある+子ども | ある+子供

*キャラ
キャラ

*ケータイ/スマホ
ケータイ | スマートフォン | 'ケータイ'

*インターネット
ネット | インターネット

*人間関係
人間+関係 | '人間関係'

*いじめ
'いじめ'

これらのコーディングを集計したものが表1-5になります(コーディング「確かだ」は観測されなかったが、今後もこの連載で用いる予定なので、削除はしなかった)。基本的にこのコーディングは、「書籍オリジナル」の部分については検証対象の書籍を読んだり、あるいは単語を集計しているときに気になったものを列記しているのですが、今回は若い世代の人間関係についてのものを検討しています。表1-5ではカイ二乗検定に基づく分析も行っています(帰無仮説:出現率が全体の出現率に等しい。期待度数は「全体の出現率」×「各書籍の文/段落/小見出し数」で算出。自由度3。カイ二乗値は各書籍の「(実測度数-期待度数)^2/期待度数」の総和で算出。)。

いくつか気になる点を挙げるとすると、まず「かつて」ですが、既に文の段階で有意差がない、というものになっております。使用頻度も、段落で見ると10%強というかなり高い頻度で使われているのがわかります。ただ読む限りでは、この「かつて」の内実についてはほとんど検証されていないというのが実感です。仮に土井氏が各著作を子供たちを「救う」ために書いたのだとしても、少なくとも土井氏の言説からは「今の子供のコミュニケーションのあり方は異常だ」以上の知見を得ることはできないように思えます。

図1-3は、段落単位でコーディングを集計したときのヒートマップです(総出現数30以上のコーディングのみを使用)。ヒートマップではコーディングに対してクラスター分析を行っております。まず「彼ら」ですが、「若者」と「今」と接近しており、土井氏の言うところの「彼ら」はもっぱら「若者」を指すものと考えられます。一方「子供」については「人間関係」と近いところに配置されましたが、これも土井氏の岩波ブックレットで取り扱っている内容が子供の人間関係についてということから来ていると言えるでしょう。ただ、「子供」「人間関係」のクラスターの中に、文末表現の「だろう」が入っているのが気がかりです。子供のコミュニケーションに対しては、土井氏はほとんど推測で言っていると言ってもおかしくはないかもしれません。

表1-5
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図1-3
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表1-6に、主要なコーディングの関連語を示します。コーディングでも、「若者」と「子供」(あるいは『友だち地獄』と土井氏の岩波ブックレット)の扱われ方の違いが見て取れます。例えば「若者」に対しては「かつて」のJaccard係数が、段落でも小見出しでも高くなっています。「若者」の結果から判断するに、これらはもっぱら若い世代一般に見られる傾向と、かつてのそれとの違いについて述べているものだと思われます。「子供」の側については「関係」とか「価値」などといった人間関係に関するものが多いように思えます。

表1-6
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〈没ネタ〉
土井氏と他の若者論系の論客との違いを分析すべく、今回用いたデータに、土井氏の言説と同じテーマを扱っているような、香山リカ、鈴木謙介、北田暁大の3氏の書籍(香山9、鈴木1、北田1)を追加して、対応分析をやりましたが…。図2-1に示すとおり、違いが明白に出過ぎたのでこれ以上検証しないことにしました(分析したのは16冊全体で出現数127以上)。

図2-1
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参考文献
樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析――内容分析の継承と発展をめざして』ナカニシヤ出版、2014年
※この分析にはフリーソフト「KH Coder」を使っています。

今回使用した辞書ファイルはこちら。今回から、分析ごとに辞書を作成するのではなく、前回の分析で使った辞書に、分析に必要になった単語を新たに継ぎ足していく方式をとります。

第4回(繰り下げ):イケダハヤト『年収150万で僕らは自由に生きていく』(星海社新書、2012年)、『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』(光文社新書、2014年)/「仙台コミケ219」のサークルペーパーとして配信予定
第5回:未定
第6回:中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書、2009年)、『ウェブを炎上させるイタい人たち』(宝島社新書、2010年)、『ウェブで儲ける人と損する人の法則』(ベスト新書、2010年)、『ネットのバカ』(新潮新書、2013年)/「第10回東方紅楼夢」のサークルペーパーとして配信予定

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サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=44689358

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詳細:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11928687101.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=46125258
(メロンブックスで委託もありますが現在同社通販サイトがリニューアル工事中のため通販へのリンクはできません)

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http://www.amazon.co.jp/dp/B00NMO2A0E/

・「第10回東方紅楼夢」にサークル参加予定です。
日時:2014年10月12日(日)
場所:インテックス大阪(大阪市営南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩2分程度、大阪市営中央線「コスモスクエア」駅より徒歩15分程度)
スペース:「E」ブロック27b

・「第百二十九季 文々。新聞友の会」にサークル参加予定です。
日時:2014年11月2日(日)
場所:京都市勧業館みやこめっせ(京都市営東西線「東山」駅より徒歩8分程度、京阪本線・鴨東線「三条」駅より徒歩15分程度)
スペース:「花」ブロック58

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
ほぼ週刊若者論テキストマイニング 第3回
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年9月24日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/

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