ソウルメイトの雅也君


「許せない奴だ」

雅也君は彼との一部始終を聞き案の定激怒した。憤懣やるかたないという風に、テーブルを拳で叩いた。そして、一年半も付き合って、年齢詐称に気付かなかったのかと、私に詰め寄った。


「十歳鯖読むなんて相当の手練だぜ」


と、雅也君は言った後で、私の話を聞き、


「それは花菜ちゃんが馬鹿だ」と言い直した。


 彼と話していて、世代が違うなあと感じたことはなかったのかと訊かれても、最初に教えられた三十二歳という年齢でさえ十六だった私には、倍も生きている大人だと仰ぎ見ていたのだから、実は三十七歳だと告白されても、本当は四十二歳だったと聞かされても、そこに大差は感じなかった。


実際は父親と三歳しか違わないのに、父と彼が同世代と気付かなかったのは、二人が全くタイプの違う男性だったからだろう。父は大相撲やプロ野球に興味がなく、歌謡曲は聴かないし、カラオケにも行かない。ドライブを嫌い、温泉巡りの趣味もない。運動は体に悪いと言い、毎朝のラジオ体操しかしない。食通だけれど、都会の店を多く知っているわけではない。


 雅也君に彼の写真を見せると、


「まあ、洒落て若く見えるけど、四十前後ってところだな。梅宮辰夫や松方弘樹みたいな昭和の匂いがする」


と言われ、私たちだって昭和生まれじゃないと言い返した。


「松平健とか小林旭とかさ。そういう雰囲気の男だろう?」


と、雅也君は言った。


「う~ん。徹さんは石原裕次郎と小林旭の歌が好きなの。二人の歌はなんでも歌えるのよ。私もCD買ってよく聞いてたわ」


と、答えると、彼は呆れた。


「石原裕次郎と小林旭のファンって時点で気付けよ。裕ちゃんはもう死んでるし、小林旭がデビューしてから四十年近く経ってるだろう。俺らの親の世代のヒーロー、昭和のスターだってわかるよな。どこの三十二歳が『夜霧よ今夜も有難う』って歌うんだよ、何でそこで『銀座の恋の物語』を練習するんだよ。おかしいだろ?」


と、息巻いた。


「ちあきなおみも歌えるわよ」


と、言ったら、おでこを中指でピンと弾かれた。