悲しいかな、昔ながらのロマンティックは今や廃れたジャンルとなりつつあるようです。
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そう言えば、80年代、90年代、2000年代初頭くらいまでは「ラブコメの女王」と呼ばれる女優も沢山いましたが、最近ではチャーミングさをウリにするような女優は少なくなってきており、どちらかというと、「演技派だけどラブコメだってイケる」というスタンスをとっている女優が増えて来ているような気がします。

かつて「ラブコメの女王」と言われた人も、可愛さだけではなく高い演技力を求められる映画への出演を望んでいるような傾向がありますし、もしかしたら女優の「ラブコメ離れ」があるのかもしれません。

そんな中、io9は、ラブコメが廃れ始めているというこの流れを悲しむべきだと訴えています。というのも、ラブコメのキャラクターやプロットは、サイエンス・フィクションのそれよりも心理学的にも正確で現実的で、リアルさを求めるハード・サイエンス・フィクション・ファンにとって愛すべきジャンルなのだそうです。

それでは、以下からio9が伝える正確な「ラブコメ」の科学を見て行きたいと思います。


【しくじり効果】

ラブコメにおいて、「しくじり」は非常に重要です。恋愛モノのヒロインは、必ずと言っていい程、階段を転げ落ちたり大事な会議の前に派手に転んだりします。そこまで派手でなくとも、コーヒーをぶちまけたり、悪意の無い嘘に騙されたりといった何らかのドジを踏みます。

実は、この些細な失敗は、ラブコメにおいて計算と言えます。というのも、失敗や弱点、欠点こそがラブコメのストーリーを展開させていくからです。そして、観客に出演者を「可愛いな」「好きだな」と感じさせるポイントなのです。


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ブリジット・ジョーンズの日記


例えば、ヒロインが元カレの目の前で派手に水たまりにダイブしたとします。私たちは、そんなドジなヒロインに同情しつつ、人間らしさを感じて好きになるらしいのです。

これを、心理学者は「しくじり効果」と呼んでいます。例に挙げた通り、ちょっとした失敗やしくじり、おっちょこちょいな動作が、人の好感度をあげるというものです。比較的小さな失敗をする人や、ちょっとした欠点があるものを好きになります。それは、単なる同情ではありません。

欠点が或る人が、模範や手本となるような能力の高い人、完璧な人であればあるほど、好感度は上がるのです。しかし、どんな時でも軽いミスをすれば好感度が上がると言うわけではなく、状況を見極めなくてはなりません。


【ヒロインとヒーロー】

「しくじり効果」は常に有効というわけではありません。それが、「効果抜群おっちょこちょい効果」ではなく「しくじり効果」と言われている所以でもあります。「しくじり効果」は、洗練された人に、人間味ある演出をしたのみ有効と言えます。ほとんどの効果は類似した状況でのみ発揮されます。

ここで「しくじり効果」を調べたある実験を紹介します。それは、数人の被験者に、何人かがインタビューを受けていたり、能力テストを受けている様子を録音したテープを聞いてもらった後で、人物の好感度を採点したり意見したりもらうというものです。テープの中の人物は、能力が高いものもいれば、凡人、低い者もいます。そして、インタビューやテストの最後に、何人かは失敗をします。


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ラブ・アクチュアリー


詳細は多岐に渡りますが、総合的に見て、被験者が最も高く評価し好感度を持ったのは、高い能力を持ちつつも、小さな失敗をする人物でした。あるテープを使った実験では、飲み物をこぼした人の方が、こぼさない人よりも好感度が高いという結果が出来ました。ただし、それは高い能力を持つ人物に限ります。

平凡な人物に至っては、コーヒーをこぼした事を非難されました。ラブコメのヒーローやヒロインは、何処にでもいるようなキャラクターとして設定されていますが、実は、ラブコメ界において理想的な人物として描かれているのです。

例えば、殆どの場合、ラブコメの登場人物はリッチで、誰もが憧れるような仕事に就き、仕立てのいい上質な服に身を包んでおり、映画スター顔負けの美男美女ばかりです。冷静に考えてみれば、非の打ち所の無い完璧な人物で、実際に側に居たら近寄り難いと思うのではないでしょうか。しかし、そんな人物に階段から転げ落ちるという失態を取らせることで、この人物は決して完璧ではないということを観客に伝え、親近感を持たせるのです。


【プロット】

ラブコメの問題点として、しばしば、そのプロットが挙げられます。しかし、観客は、ラブコメというものが、「美しい男女が出会い、デートし、問題が起こり、最後は雨の中でキスする」という単純な映画だと百も承知で見ているはずです。そして、殆どのラブコメのプロットは、登場人物が無視しても構わない程度の小さなミスでなりたっています。そして、観客はそれを求めているのです。


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Say Anything...


再び「しくじり効果」の例をあげてみましょう(この例の場合、「欠点効果」と呼ぶ方がしっくりくるかもしれません)。人は、なんの問題もない完璧なものと比較して、その選択にインパクトを与えるような小さな問題があった方を、より一層欲しがる傾向にあります。

車を駐車する必要が無いにも関わらず、駐車場が完備されているレストランと、車を停めにくいレストランとを比較して、停めにくい方に行きたがるといった具合です。ラブコメにおける小さな欠点(やしくじり)は、プロットを盛り上げる口実だけではありません。観客は直に解決できたり放っておいても構わない小さな問題を見たがっているのです。そのような小さな障害が、画面の中のふたりをより良く見せているのです。


【観客】

しかし、先にも述べたように、「しくじり効果」は常に有効というわけではありません。それは、キャラクターが能力の高い完璧な人物である無しだけでなく、見る側、つまり観客にもよるのです。


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プリティ・ウーマン


毎回異なるグループで行われたテストでは、有効であるという結果が出ている一方、あるケースでは、「しくじり効果」は、男性被験者における、能力の高い男性/女性両方の評価は上げたけれど、女性被験者においては効果が無かったという結果が出ています。

また、別のテストでは、「しくじり効果」が男性/女性両方に有効だが、その効果の出方はそれぞれ異なるという結果になりました。それだけでなく、同性の欠点がある人間に好印象を持つけれど、男性は能力がある男性女性は自分と比較して少し能力の劣る女性を好む傾向があったのです。

この他、被験者の自尊心を試すテストでは、自尊心が高い方が「しくじり効果」に対して感受性が低く、自尊心が低い人物の方が、ヒーローに欠点があることを好むという結果が出ています。科学界において、この人には効くが、この人には効かないといったオン・オフ現象のようなものは余り歓迎されません。これでは、「しくじり効果」は信頼度が低いと言わざるおえないでしょう。

しかし、近年、ラブコメが下火になってきている原因が、ただ単に効果を発揮する状況と、ターゲットが定まっていないだけだった場合、それら要因がピタリと組み合わさりさえすれば、観客の心を掴む新世代のラブコメが続々登場する可能性は多分にあると言えるでしょう。


[Via The Surprising Effect of Partner Flaws on Romantic Affect, The Effect of a Pratfall on Increasing Interpersonal Attractiveness, Testing Competence and Acceptance Explanations of Self-Esteem, To Err is Humanizing. via io9

中川真知子

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RSS情報:http://www.kotaku.jp/2014/06/the-suprisingly-accurate-science-of-the-romantic-comedy.html