ジョージ・ミラー監督


漫画『北斗の拳』やゲーム『Fallout』など、後のポストアポカリプス作品に多大な影響を与えた映画『マッドマックス』。

今回は、30年の時を経てシリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』をこの世に送り込んだ、ジョージ・ミラー監督にお話を伺いました。V8!
 


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――本作につながる『マッドマックス2』で作り上げた「バイカーたちの行き交う核戦争後の近未来」という世界観は、そもそもどのように生まれたのでしょうか?

ジョージ・ミラー(以下、ミラー):映画に興味を持ち始めた時、私は映画学校には通いませんでした。かわりに、「映画の言語」というのはどのように進化してきたのか? を考えたんです。

例え本がまだ読めない子供でも、映画を読む、つまり理解することはできますよね? 映画の言語というのは、まだ誕生してから120年程度の若いものです。そこで無声映画までさかのぼって、バスター・キートンやハロルド・ロイド、当時の西部劇、マック・セネットの喜劇などを見ました。そして、70年代くらいまでのアクション映画の代表作を振り返ったんです。

その後、家族と友達を路上で失った元警察官が登場する、1作目の『マッドマックス』のストーリーを書きました。ただ、当時は町中で撮影できるほどの予算がなかったんですね。それでも車や人間を多数登場させたかったので、人のいない裏通りや廃墟などで撮り、舞台を当時の時代から何年か後の、ディストピアとなった未来に設定しました。要するに、1作目の『マッドマックス』の設定は予算的な問題から生まれたんです。

しかし、『マッドマックス2』に関しては1作目を経たポストアポカリプスな世界観にしようと、始めから意識して作りました。マックスは車に乗った侍というイメージです。


――『マッドマックス』シリーズは年齢や国籍を問わず熱狂的に支持されていますが、その理由はどういったところにあると感じているでしょうか?

ミラー:まず、35年前に『マッドマックス』を最初に評価してくれたのは日本の観客です。

『マッドマックス』は寓話であり、神話的な物語の原型なんだと思います。神話的というのはファンタジーという意味ではなく、色んな文化に伝承されていく、同じようなメッセージを持つ、時代を超えた普遍性のある物語といった意味での神話的です。

舞台は近未来ではありますが、過去へと進んだ未来といった原始的な世界で、これは誰が見てもわかりやすく、普遍的で、さまざまな文化に響く要素のある、さまざまな文化が経験したことのある世界観なんだと思います。

アメリカの西部劇が倫理観や道徳観を描いた寓話であったのと同じです。そして、黒澤明監督の『七人の侍』がアメリカで『荒野の七人』になったのとも同じです。文化の異なるさまざまな地域に、同じストーリーが伝承されているというケースは多々あり、そういった現象が『マッドマックス』にも起きたんだと思います。


――本作の前に監督は『ベイブ』、『ハッピーフィート』という『マッドマックス』とは全くタイプの異なる作品を製作されていますが、それらを作った経験で本作に生かされているものはなんでしょうか?

ミラー:私は常に好奇心によって突き動かされているんですね。それなので、テクノロジーの進化といったものにはすごく興味があります。『ベイブ』、『ハッピーフィート』を作った時には、そういったテクノロジーに関して本当に多くのことを学びました。

初期の『マッドマックス』を撮影した頃はフィルムだったので、ラッシュを見るのに一週間待たないといけなかったんですね。でも、今は12台のカメラの映像を同時に、すぐに見られるわけです。テクノロジーのおかげで小型化したので、カメラはどこにだって置けます。そういう技術の発達というのは単純に興奮しますね(笑)。


――この30年の間に『マッドマックス』の世界観に新たに影響を与えたものはあるでしょうか?

ミラー:この30年間もそれまでと同様、毎日世界を見ているわけで、そこからは当然影響を受けています。例えば、2006年にインドへ行った時の話をしましょう。

ウダイプールに湖に囲まれたレイクパレスという美しいホテルがあるんですが、私がそこに泊まっていた時、湖は完全に干上がっていたんです。

湖のあったところには象がいて、子供たちはサッカーをしていました。そこで初めて「ウォーター・ウォーズ(水の戦争)」という言葉を聞いたんです。オイル・ウォーズ(石油戦争)というのは恐らく誰でも聞いたことがありますが、ウォーター・ウォーズというのは聞きませんよね?

他にも、世界では人がさまざまな局面で、モノ扱いされることが頻繁にあります。本作を見ればわかるかと思いますが、こういった世界で見たものや経験が全て作品に影響しているわけです。


――フュリオサに限らず、多くの女性キャラクターがかっこ良く、強く描かれていますが、その理由はなんでしょうか?

ミラー:本作のアイデアは非常に単純で、「追跡がずっと続く」、そして「目的はモノではなく人間」というものです。男から逃げ出した5人の妻を男の戦士が奪うとなると、違った話になってしまいます。

そういった経緯から女性の戦士フュリオサ、そしてフュリオサの部族・ヴヴァリーニ(Vuvalini)が生まれました。ストーリーの構造から生まれているので、無意識的だと思います。


――本作では脚本を用いずに何百枚ものストーリーボード、いわゆるバイブルをコミックアーティストのブレンダン・マッカーシー氏と作ったそうですが、マッカーシー氏を起用した理由なんでしょうか? そして、彼とはどういったところから仕事を始めたのでしょうか?

ミラー:本作は「視覚的な音楽」といった映画にしたかったんです。無声映画のように言葉がなくても理解できる作品ですね。だから台詞もあまりありません。そういった点から、伝統的な言葉で書く方法よりも、絵で描くほうがふさわしい作品だと思いました。

ブレンダ・マッカーシーは特に『マッドマックス2』が好きで、以前『マッドマックス』の美しい絵を送ってくれたんですね。そのブレンダンの絵からは『マッドマックス』の世界への情熱が感じられました。

そこで、3,500の絵コンテを壁に張り出して、ブレンダン・マッカーシーを招き、他の2人のアーティストとともにみんなで映画全編を描いていったんです。ただ、それは表面的な部分に過ぎなくて、そこからさらに一つ一つのキャラクター、車両、武器、ギターといったものが、「どうして本作の世界に存在しているのか?」の背景やロジックを作り上げていきました。

例えば、「V8」のサインもそうです(本作に登場する、トップ画像で監督がしているハンドサイン)。ハンドサインというのは世界中にありますし、文化によって意味も違いますよね(笑顔でピース、そして中指を立てるなどのハンドサインを見せながら)。そういったものの背景もきっちり作りこみました。


――ギターの男「ドゥーフ・ウォリアー」と彼の吊られている車両「ドゥーフ・ワゴン」のセットは、ロックコンサートを凝縮したかのようですが、具体的なバンドなどから影響を受けて生まれたのでしょうか?

ミラー:まず、ドゥーフ・ウォリアーが存在するのにはロジカルな理由があります。言葉が発達する前、戦争や紛争では音楽がコミュニケーションの手段でしたよね。打楽器があったり、スコットランドではバグパイプがあったりしました。

本作では車の騒音がとてつもなくうるさいので、あれだけのスピーカーで爆音を出さないと聞こえないわけですね(笑)。同時に、本作に登場するモノは一つ以上の目的があって作られているので、ギターは「フレイムスロワー」、つまり火炎を放射する武器としても使えるようになっています。

具体的な何かを基にしているというのはありませんが、私の19歳の息子がギターを弾くので、彼からアドバイスはもらいました。後は、本作の音楽を担当したジャンキーXL(オランダ人のミュージシャンであるトム・ホーケンバーグのソロ・プロジェクト)は作曲だけでなく楽器も何でも弾けるので、彼の意見も取り入れています。


ニュークスを担ぐマックス

このシーンは『マッドマックス2』のオマージュ?


――過去作のオマージュがところどころで見られますが、昔からのファンと前作を知らない新しいファンの両方に楽しんでもらうために、意識的にバランスをとった部分はあるのでしょうか?

ミラー:それほど意識して過去作のオマージュを入れようとはしなかったのですが、今まで作ったものというのは頭の中に残っているので、覚えていて気に入っている部分は入れています

例えばオルゴールは、今も昔もあの単純さが好きなので入れました。あとはマックスのショットガンのシーンもそうですね。でも、無意識に過去作のオマージュのようになっているシーンもあります。例えば、マックスがニュークスを担いでいる姿(上画像)は『マッドマックス2』に似たシーンがありますが、私は覚えていませんでした。

後、ワンショットだけ意識的に1作目の『マッドマックス』のシーンを本作には入れています。それは、目が飛び出るショットです。

実は『トワイライトゾーン/超次元の体験』を作った時、スティーヴン・スピルバーグに『マッドマックス』でやったみたいな目が飛び出るショットをできないか? と言われました。他にも、ピーター・ジャクソンが『ロード・オブ・ザ・リング』で、ビルボ・バギンズが指輪を初めて見るシーンに目が飛び出るショットを使っています。

だから、誰か気づくかな? と思って自分でも入れてみたんです(笑)。


――30年経っても全く衰えがないどころかさらに振り切った映画を作り上げましたが、それを可能とする監督のエネルギーの源はなんでしょうか?

ミラー好奇心です。

映画は目と耳、そして体全体で感じるものですよね。それだけ感じ方に広がりがありますし、映画は常にテクノロジーや観客の「読み方」によって変化しているメディアなので、例え1000年作り続けたとしても完全にマスターすることはできないと思っています。

なので、好奇心が絶えることはありません。今は子供のほうが大人より映画を読むのがずっと速いですしね。


――続編に関して何か決まっていることはあるでしょうか?

ミラーストーリーはあります。ただ、今は小さな作品が撮りたいですね(笑)。




『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、6月20日(土)、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他2D/3D&IMAX3D公開。

c2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』公式サイト
トワイライトゾーン/超次元の体験[Wikipedia]

スタナー松井

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RSS情報:http://www.kotaku.jp/2015/06/mad-max-fury-road-george-miller-interview.html