こんばんは。本日から、山形鶴岡の慶應大先端生命研究所で学生向けのアストロバイオロジー合宿の講師として参加しています。昨年に引き続き2回目。全国の高校生から大学院生までの学生が70人近くも集まりました。

 クマムシを知っているか質問したところ、聴衆の学生さんのほとんどが知っていました。さらに、嬉しいことに、クマムシ博士も大部分の学生さんが知っていた。アストロバイオロジーとクマムシは、日本では相性がよいらしい。

 僕が大学院生の頃、「アストロバイオロジーをやりたい」と言うと、周囲の研究者からトンデモ扱いされることがほとんどでした。ここ10年で、本当に日本も変わったものです。講師陣も豪華。


 それにしても、キーノートレクチャーの高井氏の「ワシのすべてをオマエに教えてやる。ジョー!」というタイトル、元ネタがわかる10代や20代は皆無でしょうね・・・。

・世界でクマムシ

 ここ最近、またクマムシが世界を賑わせています。Twitterで「Tardigrades(クマムシ)」と検索すると、ものすごい数の人々がクマムシのことをつぶやいている。


 そのきっかけは、アメリカ・ノースカロライナ大学の研究グループから出た1本の研究論文。むしマガでは、今号と次号にわたり、いろんな意味で重要なこの論文についての解説をしていきます。

 言い訳になってしまいますが、ちょっとメルマガ発行が遅れていたのも、この論文とその周辺情報を調査・整理していたためでした。あと、最後には大事なお知らせもあります。ということで、以下にお送りします。

★むしコラム「「クマムシ固有タンパク質が乾燥耐性を向上させる」という論文について(その1)」

 超低温、超真空、超高圧。これらのエクストリームな環境に耐える、地上最強生物生物、クマムシ。クマムシは、乾燥した仮死状態で、これらの極限環境に耐えられる。

 この乾燥した仮死状態は、乾眠とよばれる。クマムシは他の生物と同様に、体に水分がなければ、活動することはできない。

 だが、ひとつ、クマムシが他の大多数の生物と異なるところがある。

 我々のような生きものは、体内の水分を一定量以上失うと、死んでしまう。ミイラのようにカラカラになってしまえば、細胞は壊れ、もう一度水をかけたところで、生き返ることはない。

 だが、クマムシは違う。陸上に生息するクマムシは、体内の水分を極限まで失っても、細胞が壊れることはない。カラカラに干からびた乾眠状態のクマムシの中で、細胞の構造はしっかりと守られている。

 乾眠状態では、クマムシの体内に水がないため、いっさいの生命活動はみられない。だが、乾眠クマムシにひとたび水をかければ、驚くことに10分ほど復活する。クマムシは動物なので、神経も筋肉もある。これらの組織が乾燥しても、機能を失うことなく復活するわけである。生命の消失と再生。クマムシという生きものが見せる、もっとも魅力的な現象だ。

・クマムシ固有のタンパク質

 クマムシには、乾燥しても細胞が壊れることなく守られる秘密があるはず。もしかすると、クマムシには特殊な物質をもっており、これが細胞を乾燥ストレスから保護しているのではないかと考えられた。

 そして2012年、東大・國枝さんの研究グループが中心となり、ヨコヅナクマムシからクマムシ固有のタンパク質を発見した。それが、