第三話第二章 呪われた人物画
著:古樹佳夜
絵:花篠
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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について
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◆◆◆◆◆平井邸◆◆◆◆◆
平井邸は立派な二階建ての日本家屋だ。
広い敷地をぐるりと取り囲む和塀。
門の横には、美しく剪定された立派な松の木。
さすが、売れっ子作家の家は違う。
吽野と阿文がこそこそ話していると、
庭の方から、和服を来た四十くらいの男がこちらにやってくるのが見えた。
平井「やあやあ、その派手な格好。君が吽野君だね」
吽野「あなたが平井先生ですか」
平井「さよう、君を待ちわびていたよ」
男はにかりと笑う。わざわざ、家主自ら出迎えてくれたのか。
黒縁メガネに、神経質そうな細い眉。ごま塩の髪を撫で付けている。
編集者から伝え聞いていた風貌の通りだ。
平井「おや、そちらの青年は?」
吽野「私の助手の……」
阿文「阿文と申します。突然押しかけてしまい申し訳ございません」
平井「構わんよ。さあ、もう他の参加者は来ている。二人ともこちらに入りなさい」
吽野「ありがとうございます」
平井「いやぁ、今日は会えて嬉しいよ。前々から君と話がしてみたくてね」
吽野「ありがとうございます。まさか先生が私をご存知とは、意外でした」
吽野のはりついた笑顔は完全に営業用だった。
平井「そうかね? 我々の間では君は有名だよ。少々奇妙な文体ではあるが、その発想は他にはないものだ」
吽野「もったいないお言葉、痛み入ります」
普段、自堕落を絵に描いたような吽野が
その道で成功を収めている先生に評価されている。
隣で様子をうかがっていた阿文は感心し、
吽野を誇らしく思った。
平井「私が発起人となっている文学サロンでは、文人の他にも文学に興味のある芸術家も招いているんだ。月に二度ほど定期開催し、常連も多い。君さえ良ければ、ここに通うといい」
吽野「はあ、考えておきます」
吽野は笑顔を浮かべつつも、そっけなく受け答えした。