秋の彼岸は、桜が咲き始めた頃に亡くなった父の半年命日でもあった。時とともに少しずつ悲しみも癒え、引っ越しを決意した母とともに家の中を片付けた。父の背広などは供養して貰い、箪笥や食器棚などの大きな家具は処分する。棚に飾られていたよく分からない様々を容赦なくゴミ袋に入れる。長年一緒に暮らしていた僕以外の家族にとってはひとつ一つに想い出があるのかもしれないけれど、18歳で自分に関わる一切を処分し、ボストンバッグひとつで実家を離れてしまった自分にとっては単に埃をかぶった無用物でしかない。母が僕に片付けを一任した理由が少しだけ分かった気がした。

 押し入れの天袋に弟と妹の私物を大量に見つけ、どうしようか迷った挙げ句、それだけは自分たちで処分するよう連絡した後、その片隅に思いがけないものを発見した。
 「生いたちの記」。1969531日の誕生とともに母が書き始めた、僕の育児日記だった。