こんにちは。久しぶりにガレージキットを作っているマクガイヤーです。
昔使った工具やマテリアルが見つからないので、新たに買い揃えているのですが、ここ最近のガレキ制作環境の進化に驚くばかりです。歯医者で使っている工具や材料をガレキに応用するというのは昔からありましたが、プラリペアなんてもんが学生の時にあれば!
マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。
○12月10日(土) 20時~ (放送日が変更になりました。ご注意下さい)
「ニッポン対ワクチン」
子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの副反応や、HPVワクチン薬害研究についての疑義、というか捏造報道など、ワクチンに関する報道や話題が盛り上がっています。
そこで、そもそもワクチンとは何か、どのように発明されどのように使われてきたのか、何故大事なのか、なにが現実でなにが虚構なのか……等々について今一度しっかり解説します。
○12月16日(金) 20時~
「最近のマクガイヤー 2016年12月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
詳細未定。
○12月30日(金) 20時~
「Dr.マクガイヤーのオタ忘年会2016」
年に一度のお楽しみ!
2016年度のオタクトピックについて独断と偏見で語りまくります。
詳細は未定ですが、『ローグワン / スターウォーズ・ストーリー』について語ることだけは決まっております。
お楽しみに!
番組オリジナルグッズも引き続き販売中です。
マクガイヤーチャンネル物販部 : https://clubt.jp/shop/S0000051529.html
思わずエナジードリンクが呑みたくなるヒロポンマグカップ
これからの寒い季節に着たい、乳首ポケストップトレーナー
『ローグ・ワン』公開に合わせて着たい、マクガイヤー・ウォーズ トレーナー
……等々、絶賛発売中!
さて、今回のブロマガですが、以前番組の中でちょっとだけ話題にした『クラクラ日記』についてきちんと書かせて下さい。
●ASKAさん再逮捕
11月28日、元CHAGE&ASKAのASKA容疑者が、覚醒剤取締法違反の容疑で二度目の逮捕をされました。
この逮捕に関しては、普通の感覚では理解できないことが沢山あります。
一つは、ASKA容疑者自らがわざわざ警察に通報し、訪れた警察官に任意での尿検査を要請され、ここで陽性反応が出たことが逮捕の決め手となったことです。
ASKAさんは、2014年の最初の逮捕で執行猶予中の身でした。もう一回逮捕されれば実刑は免れられません。にも関わらず、再び覚醒剤に手を出したばかりか、わざわざ自らの手で警察に通報したのです。
なぜ通報したのか。ASKAさんは逮捕直前に電話出演した『ミヤネ屋』のインタビューで「ギフハブという組織に盗撮・盗聴されている」と訴えています。ASKAさんはAppleIDを盗まれた挙句、スマホに盗聴・盗撮アプリを埋め込まれたのだそうです。そして、ギフハブはアプリを通じてAR(おそらく拡張現実のことでしょう)を利用したテクノロジーを用いてASKAさんの行動を監視しているというのです。
なにが凄いって、AppleIDとかARとかいった単語がポンポン出てくるのが凄いですね。先日放送された『やりすぎ都市伝説』は、フリーメイソンやイルミナティといったオカルト的・トンデモ的な古いネタを、Siriやアメリカ大統領選挙といった最新の切り口で再利用することで有名ですが、近しいものを感じてしまいます。
ギフハブは存在する! 信じるか信じないかは貴方次第です!
……これを、ASKAさんは信じてしまったというわけです。スマホが身近なものになればなるほど、陰謀論のネタになっていくわけです。
しかし、考えてみれば、ASKAさんはギフハブなんて存在しない組織に監視されてはいませんでしたが、「再び覚醒剤に手を出すかもしれない元ジャンキー」として警察とマスコミには監視されいてたわけです。タクシー内では盗撮・盗聴され、この映像はテレビ局に提供され、ワイドショーで流されました。これは明らかに違法な行為です。
しかししかし、ASKAさんはしっかり実在している警察・マスコミからなる権力と利益の共同体ではなく、虚構のギフハブに監視されていると思い込んでいたのでした。最初の逮捕前も、『モンスターハンター』の情報交換掲示板をみて、自分が集団ストーカーに監視されていると思い込んでいたという話もありました。
ASKAさんのこのような行動や思考は、普通の感覚では理解できませんが、覚醒剤依存症であったとすれば理解できます。覚醒剤を多用すると、薬物に起因する妄想性の精神症状が出るからです。
●ジャンキー坂口安吾
覚醒剤を使用したことがない自分や、このブロマガをお読みの皆さんのほとんどにとっては実感できない話ですが、過去に実例が幾つもあります。
その一例として、覚醒剤による妄想の恐ろしさが文章としてしっかりと残された記録を紹介したいと思います。
昭和の文豪、坂口安吾です。
安吾はヒロポンやゼドリンといった覚醒剤の常用者でした。ヒロポンはメタンフェタミン、ゼドリンはアンフェタミンの商品名で、日本では昭和26年まで、薬局にハンコを持っていけば誰でも買えることになっていました。
何故安吾が覚醒剤を使っていたのかというと、仕事をするためです。
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薬をのんで仕事をするといふのは無理がある。先日、ヒロポンに就て書いて以来多くの人々からさう言はれるが、芸術の仕事は必ずしも一概にさうは言へないもの、私の場合、私は考へるだけ考へ、燃焼させるだけ燃焼させた材料を、蒸気のカマの蒸気の如く圧縮して噴出させて表現するやうな方法なのだから、イザ書く時には五日間ぐらゐなら、眠らずに書きあげたいのだ。芸術の表現と生命の燃焼が同時であつて、それで仆れるものなら、私は仆れても構はないので、私は私の死後などは考へてゐない。
『ちかごろの酒の話』
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42865_34301.html
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そのとき、ヒロポンは元来モヒ(引用者注:モルヒネのこと)中毒の薬として発明されたものだということを知った。そのうちに覚せい剤としての効能などが分ってきたのだそうである。船酔いなどにも良いそうだ。とにかく、きく。これを飲めば十時間は必ず眠れぬ。その代り、心臓がドキ/\し、汗がでる、手がふるえる、色々とにぎやかな副産物があって、病的だが、仕事のためには確かによいから、自然、濫用してしまう。
『反スタイルの記』
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42921_23109.html
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書く時にはとにかく一気に書き上げたいという、安吾の気持ちが、自分には凄くよく分かります。それなりに深い題材について書くためには、空き時間をみつけてちょこちょこ書く……みたいなやり方では、限界があるのです。一回書くのを中断すると、気持ちをそこまで持っていくために、それなりの時間がかかります。一回書いたものについて見直して書き加えるのは別ですが、初めて書くものについて何回も中断が入ると、本当に時間の無駄です。このブロマガでさえそうなのです。
ただ、安吾が覚醒剤を使っていたのは、それが当たり前だった時代背景もあります。
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織田作之助はヒロポン注射が得意で、酒席で、にわかに腕をまくりあげてヒロポンをうつ。当時の流行の尖端だから、ひとつは見栄だろう。今のように猫もシャクシもやるようになっては、彼もやる気がしなかったかも知れぬ。
(中略)
私は以前から錠剤の方を用いていたが、織田にすすめられて、注射をやってみた。
注射は非常によろしくない。中毒するのが当然なのである。なぜなら、うったトタンに利いてくるが、一時間もたつと効能がうすれてしまう。誰しも覚醒剤を用いる場合は、もっと長時間の覚醒が必要な場合にきまっているから、日に何回となく打たなければならなくなって、次第に中毒してしまう。
錠剤の方は一日一回でたくさんだ。ヒロポンの錠剤は半日持続しないが、ゼドリンは一日ちかく持続する。副作用もヒロポンほどでなく、錠剤を用いるなら、ゼドリンの方がはるかによい。
錠剤は胃に悪く、蓄積するから危険だというが、これはウソで、胃に悪いといっても目立つほどでなく、煙草にくらべれば、はるかに胃の害はすくない。蓄積という点も、私はアルコールを用いて睡ったせいか、アルコールには溶解し易いそうで、そのせいか蓄積の害はあんまり気付かなかった。私の仕事の性質として、一週間か十日は連続して服用する必要がある。あと三四日は服用をやめて休息する。すると連続服用のあとは、服用をやめてからも二日間ぐらいは利いている。その程度であった。しかし私の場合はウイスキーをのむから、これに溶けてハイセツされて蓄積が少いということも考えられ、ウイスキーをのまない人の場合のことはわからない。
精神科のお医者さんの話でも、あれを溶解ハイセツするにはウイスキーがいちばんよいらしいとのことで、私の経験によっても、錠剤を用いる限りは、ウイスキーをのんで眠って、十日のうち三日ぐらいずつ服用を中止していると、殆ど害はないようだ。
『安吾巷談 麻薬・自殺・宗教』
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43172_21384.html
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「殆ど害はないようだ」って、そんなわけあるか! と思わずツッコミたくなってしまいます。そういう時代だったのでしょう。
ですが、覚せい剤を使って四日も五日も起きているようなやり方をしていては、とても身体が持ちません。
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もっとも、ヒロポンを用いて仕事をすると、三日や四日の徹夜ぐらい平気の代りに、いざ仕事が終って眠りたいという時に、眠ることができない。眠るためには酒を飲む必要があり、ヒロポンの効果を消して眠るまでには多量の酒が必要で、ウィスキーを一本半か二本飲む必要がある。
(中略)
新潮と改造の新年号の小説の時はひどかった。どっちも、まる四日間、一睡もしていない。そうかといって、書き上げても、酒を飲んででい酔しなければ眠ることができないので、えゝマヽヨ、死んでもいゝや、と思って、銀座のルパンへウイスキーを飲みにでかけたものだ。あの日の心臓の動きはひどかったので、途中でブッ倒れるような気がして、仕方がなかったのである。
『反スタイルの記』
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42921_23109.html
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安吾は、覚醒剤で興奮した頭を落ち着かせて眠るために、アドルムという睡眠薬に頼るようになります
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私の場合は覚醒剤をのんで仕事して、ねむれなくて(疲労が激しくなってアルコールだけでは眠れなくなった)仕方がないので、ウイスキーとアドルムをのんでるうちに中毒した。このアドルムは、ヒロポンの注射と同じように、のむとすぐ利く、しかし、すぐ、さめる。一二時間でさめる。そこで一夜に何回ものむようになって、中毒するようになるのである。
『安吾巷談 麻薬・自殺・宗教』
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43172_21384.html
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遂に安吾はアドルム中毒になってしまいます。
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病院へいって治せるなら、すぐにも、入院したいと思う。又、事実、中毒というものは持続睡眠療法できわめてカンタンに治ってしまう。鉄格子の部屋へいれて、ほッたらかしておいても、自然に治る。けれども、カンタンに治してもらえるというのは、カンタンに再び中毒することゝ同じことで、眠りたいから薬をのむ、中毒したから入院する、まことに二つながら恣意的で、こうワガママでは、どこまで行っても、同じくりかえしにすぎない。
この恣意的なところが一番よく似ているのは宗教である。中毒に多少とも意志的なところがあるとすれば、眠りたいから催眠薬をのみたい、苦しいから精神病院へ入院したい、というところだけであるが、人が宗教を求める動機も同じことだ。どんな深遠らしい理窟をこねても、根をたゞせば同じことで、意志力を失った人間の敗北の姿であることには変りはない。
『安吾巷談』
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/43172_21384.html
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こんな格好の良いことを書いていますが、それは、自分で自分のことを書いているからです。
●『クラクラ日記』から読むジャンキー坂口安吾
安吾のヒロポン・ゼドリン・アドルム中毒については、妻の坂口三千代が著書『クラクラ日記』にて詳しく書いています。
「クラクラ」というのは『クラッシュ・オブ・クラン』の略ではなく、フランス語で「野雀」や、それが転じて「どこにでもいるようなごく平凡な少女」のことを意味します。
坂口三千代は安吾の没後に銀座で文壇バーを開店しますが、その時の店名が「クラクラ」です。
で、安吾との生活についてのエッセイを出版する際、それに『クラクラ日記』と名づけたのでした。お洒落ですね。
この『クラクラ日記』に書かれている安吾の行状が、相当にすごいのです(更に、三千代さんは文章も上手いです。安吾の死後書かれたということもあるでしょうが、シリアスな事柄をわりとあっけらかんと軽く書いており、どちらかといえば現在のブログ文化に共通するものを感じます)。
まず、安吾は妻に、「生活環境を、ただいつも同じものにしておいてくれればよい」と要求します。
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たとへば、僕と君の部屋のカーテンの位置を指定のところへ常に垂らしておくこと。常に昼はラジオのコードを入れておくこと。水差の水をたやさぬこと。(中略)こういふきまつた小さいことで、俺の神経をじらすな。
毎日訪客のメモをとつておくやうに。(これらのことは、一度は君にいつた筈だが実行していないのだ。)又、便所なども、僕の行く前、見てきて慾しい。ああいふチョツトのつまづきで、イライラが、もう仕事を出来なくさせてしまう。たのむ。
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これを安吾は文豪らしく原稿用紙に書いて、妻の机に置いておいたそうです。
なんて神経質なんだ! と思う人もいるかもしれませんが、元来安吾は鬱病気質で、鬱病を抑えるために睡眠時間を多くとろうとしたのがアドルムを呑み始めたきっかけだったりします。
ただ、カーテンや便所チェックには別の意味もありました。
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彼の部屋の机の真向かいにかかっているカーテンはことのほか、気にやんで、それというのも真向かいが区役所の合宿所になっていて、若い男が時どきこちらを見ているそうであった。
「あの気狂いは何をしていやがるのだという顔をしてみている」のだそうで、お掃除のあと締め忘れていて大変な剣幕で叱られたことがあった。
(中略)
「便所なども僕の行く前に見てきて欲しい」というけれども、私が事前に彼の要求を察しうるはずがなく、時どき御不浄にご用はありませんかと聞くのは失礼だろう。彼が会談の降り口まであるいて行った時に、ちょっとお待ち下さい、見てまいりますからといっておしとどめ、待たしておいて私がかけおりる。それも随分変テコリンだと思うのだが、実際には真剣になやんだのだ。彼を満足すべき状態に置いてあげたいと切実に願っていたのだから。
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もうお分かりですよね。つまりこれらは、覚醒剤を多用した結果、妄想性の精神症状が出ている状態なのです。この時代にはスマホもネットも無いので「AppleIDを盗まれた!」なんて言いませんが、ASKAさんと同じ状態だったわけです。
(この続きは有料でお楽しみください)