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マクガイヤーチャンネル 第199号 【藤子不二雄Ⓐと映画と童貞 その12 「『劇画 毛沢東伝』から『プロジェクトPOS』まで――Ⓐのドキュメンタリータッチ作品群】
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マクガイヤーチャンネル 第199号 【藤子不二雄Ⓐと映画と童貞 その12 「『劇画 毛沢東伝』から『プロジェクトPOS』まで――Ⓐのドキュメンタリータッチ作品群】

2018-12-12 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第199号 2018/12/12
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    おはようございます。マクガイヤーです。

    『Fallout76』をプレイしているのですが、いや面白いですね。

    オンラインになった本作は前作までとかなりプレイスタイルが変わり、そのせいか評判が悪かったりもするのですが、自分のプレイスタイルが、まったくストーリーを進めずにあちこちブラブラするという、押井守のようなもののせいか、いまのところCAMPが無くなるバグ以外は不満が無いです。保管箱の容量上限も、縛りプレイとして考えるとこれはこれで良いのかもしれません。



    ●おしらせ

    しばらくの間無料となっていた本ブロマガですが、勝手ながら200号より(半分ほど)有料に戻ります。

    ただし、数ヶ月の間を置いて個人ブログでの公開を考えております。

    色々と試しておりまして、ご容赦ください。

    メール配信にてお楽しみ頂いている方については、これまでと変わりありません。



    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    ○12月15日(土)20時~「最近のマクガイヤー 2018年12月号」

    ・最近のパリ

    ・最近のとろサーモン

    『へレディタリー/継承』

    『来る』

    『ガンダムNT』

    『ボヘミアン・ラプソディ』

    『恐怖の報酬』

    『GODZILLA 星を喰う者』

    『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

    『search/サーチ』

    ・『バスターズ』

    『イット・カムズ・アット・ナイト』

    『クレイジー・リッチ』

    『スカイライン−奪還−』

    『バッド・ジーニアス』

    『止められるか、俺たちを』

    『ザ・アウトロー』

    『ヴェノム』

    その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    ○12月29日(土)20時~「Dr.マクガイヤーのオタ忘年会2018」

    例年お楽しみ頂いている「オタ忘年会」。2018年に語り残したオタク的トピックスやアイテムについて独断と偏見で語りまくります。

    アシスタントとして御代しおりさん(https://twitter.com/watagashiori)に出演して頂く予定です。


    ちなみに過去の忘年会動画はこちらになります。

    2017年

    2016年

    2015年

    2014年 

    2013年




    ○1月6日(日)19時~「ぼくらを退屈から救いに来た『SSSS.GRIDMAN』と『電光超人グリッドマン』」

    (いつもより放送時間が1時間早まりますのでご注意下さい)

    10月からアニメ『SSSS.GRIDMAN』が放送されています。

    原作となる特撮ドラマ『電光超人グリッドマン』は1993~94年にかけて放送されていましたが、約15年間の特撮・アニメ・玩具・ネット環境・サブカルチャーなどの進化や深化を踏まえた演出・ドラマ・ネタの数々に、毎回ハァハァと興奮しながら視聴しています。これでやっと『電光超人グリッドマン』のことが好きになれそうです。

    そこで、『電光超人グリッドマン』が平成特撮に与えた影響を踏まえつつ、『SSSS.GRIDMAN』のどこがどのように素晴らしいのかを解説するニコ生をお送りします。

    アシスタントとして御代しおりさん(https://twitter.com/watagashiori)に出演して頂く予定です。



    さて、今回のブロマガですが、ちょっと趣向を変えて、藤子不二雄Ⓐが描いてきたドキュメンタリータッチの作品群について紹介させて下さい。


    ●Ⓐによるドキュメンタリータッチ

    『シルバークロス』の回で少し触れましたが、Ⓐには「ドキュメンタリータッチ」とでも呼ぶべき作風の作品群があります。また、そのような作風を様々な作品で部分的に使っています。

    最初にこれが用いられたのは『シルバークロス』の冒頭です。「悪の組織」である、スケルトン帝国の説明が、ナレーションと印象的な画が組み合わさったコマ割りを徹底し、ニュース映像を模した形式で行われるのです。この部分が描かれたのは1960~63年の連載時ではなく、後年になって単行本にまとまる際に描き足された可能性もあるのですが、キャリアの早い段階からこのような作風を部分的に取り入れていたわけです。

    おそらくⒶはテレビや映画のドキュメンタリー作品を数多く観賞し、映像による「説明力」の高いその表現手法をなんとか漫画に置き換えられないかと考え抜いたに違いありません。また、ヤコペッティによる『世界残酷物語』が日本で公開されたのは1962年であり、シネフィルであるⒶが影響されたことは間違いありません。年代的には後になりますがアフリカ大陸に新しい国家が誕生するという内容は『さらばアフリカ(1966)』と通じてもいます。


    その後、このドキュメンタリータッチの語り口は『B・Jブルース』や『ブレーキふまずにアクセルふんじゃった』など、旅行ものやギャンブルものなどのブラックユーモア作品群で使われることになります。主な目的は、短編冒頭においてページ数少なく複雑なゲームのルールや物事の仕組みや社会問題をもっともらしく伝えるためです。

    特にⒶが力を入れているのはこの「もっともらしさ」――漫画作品におけるリアリティです。リアリティを演出するために、Ⓐは「(得意としていた)リアルタッチのペン画」、「写真のコピー」、「(おそらくライトボックスを用いた)写真のトレース」、「文献からの引用」を駆使しました。

    前述した通り、『愛ぬすびと』では、創作した文献からの引用までしています。これは『魁!!男塾』における「民明書房」より20年以上早いです。

    また、スタジオ・ゼロでのアニメ製作を通じて知ったトレスマシンによる写真の転写もリアリティの演出に役立ったそうです。トレスマシンは動画(線画)とセルの間にカーボン紙を挟んでトレスマシンにかけ、線をセルに焼き付ける機械なのですが、線画ではなく写真を用いると中間色のとんだハイライトを強調した像を焼き付けることができます。これが上記の手法とはまた異なるリアリティの演出に一役買うことになりました。現在、多くの漫画家がやっている、Photoshopを用いて写真から線画抽出やハイライト強調をした画像を作品に用いるようなことを、先駆けてやっていたわけです。



    『劇画 毛沢東伝』

    ドキュメンタリータッチのⒶ作品の中で、最も有名なものは1971年の『劇画 毛沢東伝』でしょう。

    『劇画 毛沢東伝』は漫画サンデーで発表された「革命家シリーズ」の第1弾です。劇画として革命家……というか歴史上の偉人や有名人を描くシリーズで、水木しげるの『劇画 ヒットラー』、芳谷圭児の『劇画 マルクス』、つのだじろうの『劇画 マホメット』、水野良太郎の『劇画 U.S.A.聖女伝 マリリン・モンロー』と、五作目まで続くことになります。『マホメット』が未だに単行本にまとまっていないことや、マリリン・モンローにだけ変な冠がついているところにひっかかってしまいますが、ともかく『劇画 毛沢東伝』の成功によりシリーズは五作目まで続いたといっていいでしょう。


    『劇画 毛沢東伝』はⒶがそれまで短編、それも部分的にしか使わなかったドキュメンタリータッチを、最初から最後まで用いて描いた長編です。また、毛沢東の生涯ではなく、1949年10月の中華人民共和国成立までの英雄としての毛沢東――毛沢東の前半生のみの漫画化です。クライマックスは国民党軍に敗れた共産党軍約10万人を率いて、一年以上かけて中国大陸一万二五〇〇kmを歩き回った「長征」です。

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    Ⓐお得意のデザイン性の高い絵柄や、写真コピーやトレスマシンの駆使に加えて、時には毛沢東の中国語による台詞や著書からの引用が加わり、全体的には異様にテンポの良いコマ割りでお話が進みます。コントラストの高いはっきりくっきりした白黒の絵と、大きなフォントによる同じような言葉の繰り返しには、一種魔術的といっていい迫力を生み出しています。

    そして、そのような手法によって語られるのは、何者でもない若者がオピニンオンリーダーとなって政治と軍事活動を繰り広げつつ、圧政に苦しむ沢山の民や仲間を楽園楽土に導く、シンプルな救世主的英雄譚なのです。Ⓐのような世代にとってセシル・B・デミルの『十戒』(特に1956年のリメイク版)は一大スペクタクル映画として想い出深い作品でしょうが、本作ではまるで毛沢東がモーゼのように、長征が出エジプト記のように描かれるのです。


    本作が発表された1971年当時は日中国交正常化直前で、中国に対する興味や注目が高まっている時期でした。毛沢東はまだ存命で、しかも西側諸国で学生運動に参加している若者の間では一種のヒーローでした。3年前の1968年にフランスで起こった五月革命では、文化大革命はフランス革命からロシア革命、キューバ革命……といった「革命の歴史」に連なるものとされ、毛沢東はチェ・ゲバラと並んで「革命」を象徴するアイコンとして扱われていました。

    ですが現在、文化大革命は大躍進政策の失敗で実権を失った毛沢東が復権を狙って相乗りした政治闘争であり、コントロールの効かなくなった若者である紅衛兵たちが内部抗争を繰り返した挙句、虐殺までエスカレートした武力闘争であり、十年に渡って中国国内に大混乱を引き起こした歴史的事件であることが世界中にはっきりと認識されています。

    いま『劇画 毛沢東伝』を読むと、北京政府や軍閥に対して政治的・ゲリラ的な反抗運動を行う若かりし毛沢東と仲間たちが、後の紅衛兵の姿に重なってしまうのです。しかも時代的には、文化大革命による騒乱は(国交正常化前故に日本に伝わっていなかったとはいえ)本作が描かれた数年前に始まっていたりするのです。

    90年に徳間書店から『毛沢東の長征』と改題されて再販された際には、前後に前年に起きた天安門事件が書き加えられたり、解説が足されたりしています。



    ●『負けてたまるか 松平康隆』

    『負けてたまるか 松平康隆』は、1972年に発表された32ページの短編読み切り漫画です。

    同年8~9月に開催されたミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得した男子バレー日本代表の監督 松平康隆をドキュメンタリータッチで描いた作品で、書名は同年1月に発売された松平自身による男子バレーボールチームの軌跡を書いた本を基にしています。「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボールチームに比べて男子チームは弱い時期が長く、これを立て直した鬼コーチが松平なのでした。

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    本作もⒶお得意の劇画と写真コピーを組み合わせたドキュメンタリータッチが全編を埋め尽くし、小気味良いテンポであっという間に読めます。まず話題だったミュンヘンオリンピックの準決勝というクライマックス直前から始まり、時間が巻き戻って松平がバレーボールを志したところからストーリーがはじまるという、スポーツものの劇映画やドキュメンタリーでは鉄板の構成です。


    「人間は常にクリエートする動物だ。

    オリジナルなものは絶対強いのだ」


    「いいか! みんなあと二時間だ。ゆっくりやれ……」


    「根性と特訓だけでつくられたアニマルの群れが金メダルをとったのではない!!

    血も涙もある人間同士の結束が金メダルをとったことを誇りに思う!!」


    ……等々の、本人の言葉や有名エピソードをきっちり配しつつ、関係者のコメントまでも引用し、まるでドキュメンタリー作品を漫画で読んでいるような気分になります。


    驚くべきは、本作の発表が1972年の『月刊現代』11月号であることです。金メダル獲得から2ヶ月も経たずに発表しています。Ⓐのフットワークの軽さにおどろくばかりです。


    本作は『愛…しりそめし頃に…』11巻に収められています。



    ●『シンジュク村大虐殺』

    Ⓐはドキュメンタリータッチをノンフィクションだけに使っていたわけではありません。フィクションを語る際にもこのタッチを使っています。

    フィクションなのにリアリティがあるドキュメンタリータッチで作品を描くとどうなるか――つまり、映像作品でいうところのフェイクドキュメンタリーやモキュメンタリーと呼ばれるものが出来上がるわけです。

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    「ヤングコミック」1972年12月13日号で発表されたブラックユーモア短編『シンジュク村大虐殺』は、まさしくモキュメンタリーと呼ぶべき傑作です。新宿歌舞伎町のバーを訪れた米兵がぼったくりに遭うのですが、実は……という内容なのですが、題名からあからさまな通りその四年前に起こった「ソンミ村虐殺事件」を想起してくれといわんばかりの作品です。実際にソンミ村虐殺事件に関与した米兵の裁判での証言も引用されますが、それらを我々はぼったくりバーを経営する「シンジュク村」の村人の同族の視点からみることになるわけです。

    後に諸星大二郎が描いた『マンハッタンの黒船』や、星野之宣の『国辱漫画』にも通じる、人を喰ったようなブラックユーモアの魅力が炸裂しています。ロアルド・ダールやスタンリィ・エリン、リチャード・マシスンとも異なる「奇妙な味」は、このようなものなのかもしれません。


    本作は(ブラックユーモアのリテラシーが無い人間の間では物議をかもしそうなせいか)長年単行本未収録でしたが、2013年に発売された『藤子不二雄A ビッグ作家 究極の短篇集』に初収録されました。



    『プロジェクトPOS-ある事業部の挑戦』

    その後、Ⓐは様々な作品でドキュメンタリータッチを駆使し、存分に腕を奮いますが、ある意味究極の作品といっていいのが1988年の『プロジェクトPOS-ある事業部の挑戦』でしょう。

    これは「夕刊フジ」に連載されていた『POSバイシクルに賭けたロマン!』をまとめたもので、大量生産メーカーとして初めてスポーツ自転車のオーダーシステム「パナソニック・オーダー・システム(POS)」を確立したパナソニック自転車事業部に取材したノンフィクションです。

    モーター事業部から自転車事業部ナショナル自転車工業に事業部長として転任した小本充が、POSを立ち上げ、成熟市場と化していた自転車業界で大ヒットを飛ばすまでをノンフィクションタッチで描いています。

     
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