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【第231号】名誉童貞 新海誠の勝利宣言
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【第231号】名誉童貞 新海誠の勝利宣言

2019-07-24 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第231号 2019/7/24
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    おはようございます。マクガイヤーです。

    先週の放送「ピクサーの私小説としての『トイ・ストーリー』」は如何だったでしょうか?

    久しぶりに那瀬ひとみさんに出演して頂きましたが、お互い子供がいることもあって、『トイ・ストーリー』の本質に迫れたのではないかと思います。

    賛否両論な『トイ・ストーリー4』ですが、自分は現時点でのピクサーの最高傑作だと思いますね。



    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    8月11日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2019年8月号」

    ・時事ネタ

    ・イベント報告

    『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

    『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer/騎士竜戦隊リュウソウジャー THE MOVIE タイムスリップ!恐竜パニック!!』

    『天気の子』

    『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

    『凪待ち』

    『パピヨン』

    いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    8月18日(日)19時~「『ライオン・キング』とどうぶつが喋る映画」

    8月9日より『ライオン・キング』が公開されます。本作は1994年に公開されたディズニーの長編アニメーション映画作品『ライオン・キング』を実写……っぽいCGでリメイクした作品です。

    『美女と野獣』『アラジン』と、90年代の名作ディズニーアニメが続々と実写映画化されていますが、本作が他作品と大きく異なる点は「どうぶつが喋る映画」であるという点です。監督を務めるのは、『アイアンマン』で有名なジョン・ファヴローですが、同じく「どうぶつが喋る映画」であった2016年版『ジャングル・ブック』を買われての起用であることは間違いありません。なんでも『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に出演しながら撮ったそうです。

    そこで、ジョン・ファヴローや94年アニメについて紹介すると共に、「どうぶつが喋る映画」の観点から『ライオン・キング』について解説する放送を行ないます。

    アシスタントとして、声優の那瀬ひとみさん(https://twitter.com/nase1204)に出演して頂く予定です。



    8月4日(日)夜に阿佐ヶ谷ロフトでイベントやります

    https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/123166

    これまで3回、「エロ」をテーマに山田玲司先生と一緒にトークイベントを行ってきましたが、仕切り直して再度行います。

    今度のテーマは「デート」。

    デートの意義や是非を問う「そもそも論」から、「映画やアニメに登場するデート」についてのクロニクル、好きな人に愛される「実践的デートテクニック」、絶対笑える「究極の妄想デートプラン」まで、「デートのすべて」を語り尽くします。

    もちろん、普段のニコ生放送では話せないオフレコトークも解禁! 司会はお馴染み編集者のしまさんです。さらに、今回はなんとゲストコメンテーターとして、手塚るみ子さんの登場も決定しました。

    恋活盛り上げたい方も、恋バナ苦手という方も、どちらも楽しめる内容です。ご参加はじめての方も、ぜひ遊びに来てください!



    ○藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本の通販しています

    当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

    https://macgyer.base.shop/items/19751109



    ○『やれたかも委員会』に取材協力しました。

    『やれたかも委員会』(https://note.mu/yoshidatakashi3/n/na63c34ee5adc)の「童貞からの長い手紙」に取材協力しました。単行本1巻分のエピソードになるそうです。

    ちなみに基になったお話はこちら

    https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1011063





    さて、今回のブロマガですが、先週末に混雑した映画館で頑張って観てきた『天気の子』について書かせて下さい。


    『言の葉の庭』までの新海誠

    新海誠といえば、ある時まで自分の中では「気持ち悪い童貞の妄想話を全力で作る人」という位置づけでした。

    『ほしのこえ』は「これを一人で作るなんて凄いやん!」という月並みな感想しか持てず、『雲のむこう、約束の場所』はリアルタイムで観なかったのですが、中編『秒速5センチメートル』は衝撃的でした。テーマは「(童貞)男子と(特殊で重たい設定を背負わされている)美少女の一瞬こそ永遠」という、一部の世代の一部の属性を持った観客には熱狂的に受け入れられるものの、その他の世代や観客には全くピンとこないものなのですが、しかしそれを「コーヒー牛乳パックの能書きまでも美しくみせる(@サンキュータツオ)」執拗なまでにクオリティを追及した作画と、誰しもが美しいと感じる四季折々の映像、それらを挿入歌と完全にシンクロしたMV顔負けのドラッギーな編集でみせきるのです。

    続いて発表した長編『星を追う子ども』はジブリを意識してしまったのか、思わず寝てしまう映画だったのですが、その後に発表した中編『言の葉の庭』は『秒速5センチメートル』と同様のカルト映画でした。みせたいものをみせるための中編というパッケージ故の変則的というか奇形的な構成も共通していました。

    ここまでの新海誠作品はどれも、ヒロインである美少女との恋愛が、多くの観客が考えるハッピーエンドの形として成就しません。新海誠作品はどれも「ヒロインが大した理由なしで主人公のことを好きになる」「主人公の心の変化のみでセカイの問題が解決される」「極端なエログロは画面に現れない」……といった、童貞の願望充足ファンタジーとしての要素が共通していますが、唯一「運命の恋がよくある形で成就しない」という点だけは要件を満たさず、定型を裏切っているのです。

    成就しない運命の恋が、新海作品についてよく表される「喪失感」に繋がります。「何かを喪失することで大人になる」という、(これまた典型的ではありますが)ビルドゥングスロマンに部分的に逆戻りしているともいえますが、これはある種の「誠意」や「真摯さ」であるとも思います。この喪失感は、どう考えても非モテで満たされない青春時代を送った新海誠にとってのリアルであり、「ご都合主義」とバランスをとるための「リアリティ」であり、童貞の願望充足ファンタジーを願望充足で終わらせることなく、自分にとっての苦い現実を反映させた、魂の叫びなのです。

    そして、観客は映画に込められた魂の叫びをガッチリと受け取る。そんな映画をカルト映画と呼ばずしてなんと呼びましょう。



    『君の名は。』の歴史的ヒット

    このまま、同じような中編映画や、それを連作にした長編映画を作って、カルト映像作家としての立ち位置を確立するのかなと思っていたら、川村元気と組んで作った『君の名は。』が日本アニメ市場、いや邦画の歴史に残るくらいの大ヒットです。しかも、中編故の奇形的な構成はまっとうな長編映画のそれに改善され、ラストも苦さを感じさせないハッピーエンドになっています。なおかつ、作画のクオリティや挿入歌とシンクロしたMVのような映像は「売り」としてより強化されているのです。

    これは、川村元気という名のメフィストフェレスに魂を売ったといっていいでしょう――というような文章を、以前書きましたね。

    https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1102425


    川村元気がクリエイターにとっての天使か悪魔かはたまた詐欺師なのかはともかく、作品が大ヒットした経験は新海誠を大きく変えたはずです。なにしろ、一時期は「新海誠」の検索予測候補に「童貞」や「気持ち悪い」が並んでいたのですから。

    https://www.j-cast.com/2016/10/03279676.html

    また、その後の不倫報道や娘が女優だった報道といったプライベートに関する報道も、『君の名は。』の大ヒットがなければありえなかったでしょう。

    https://www.oricon.co.jp/news/2092317/full/

    https://www.cinematoday.jp/news/N0090015

    『君の名は。』の前と後とで、新海誠の立ち位置はアニメ界のみならず映画界でも芸能界でもすっかり変わってしまったのです。



    ●『天気の子』とセカイの秘密

    そして三年が経ち、先日公開された『天気の子』ですが、まるで新海誠の勝利宣言のような映画だと思いましたよ、自分は。


    映画の冒頭、どうしても注目してしまうのは『傷だらけの天使』にも出てきた代々木会館です。廃墟一歩手前の代々木会館を、映画史上最も美しく描いているといっていいでしょう。

    代々木会館だけではありません。歌舞伎町の裏通りや、池袋北側のラブホ街や、「バーニラバニラ高収入♪」でお馴染み耳に残るバニラの宣伝カーといった、下世話で猥雑で都会の汚さを象徴するものが、本作では煌めく夜景や雨の水滴や曇り空に差し込む太陽の光といった様々な手法を駆使して美しく描かれています。きっと新海誠には、これまで培った手法を駆使して世間一般で「汚い」とされていた風景を美しく描く自信があったのです。


    その後、拳銃を拾うシーンで、興奮は一挙に高まります。だって拳銃ですよ、拳銃。発射したくても発射できない童貞が拾う武器として、童貞がオトナになるための道具として、これ以上ふさわしいものはないじゃないですか。嗚呼、きっと新海監督はこの三年間で70年代のドラマとか映画とかたくさん観たんだろうなあ。小栗旬演じるメンター須賀さんも、職業といい服装といい棲み処といい、まるでショーケンや優作のようです。


    そして、本作のヒロインである陽菜が登場するわけですが、これが凄い。特殊で重たい設定を背負わされているのは従来通りですが、おさげJKでありながら、年下でも年上でもあり、小学生の弟である凪と二人暮らししていることから、ロリと保護者の両面を備えています。

    田畑の生活感溢れるアパートで、鉢植えから豆苗を切ったり、ネギをキッチンばさみで切ったりして楽しそうに手料理を作るシーンは、本作屈指の見せ場です。あまり裕福でない姉弟の経済状況を伝えると同時に、おれも童貞高校生に戻ってこんな女と生活したいと本気で羨ましくなります。というかこのシーン、絶対にゼロから産み出せません。娘や妻、もしかすると不倫相手が料理するさまをみてこのシーンを思い付いたのではないか――思わずそんな想像をしてしまいます。


    更に話は進んで、主人公とヒロインとその弟の三人で「逃亡」します。映画の前半では須賀さんとその姪である夏美と主人公が疑似家族のような描かれ方をしていましたが、今度は主人公が父親代わりとなることで「成長」を描いているわけです。映画の前半は主人公のモノローグでなにもかも説明しているのですが、こういうところは映像のみでみせているのが流石です。


    「逃亡」っていっても山手線圏内だったり、池袋のラブホ街が異様なリアリティで描かれたりすることに童貞っぽさを感じるのですが、注目したいのはここからです。

    真夜中のラブホで、主人公はヒロインの裸をみます。普通ならこれは「童貞喪失」の婉曲表現になるのですが、なんとヒロインの裸の中に世界の秘密……いやセカイの秘密があることを知るのです。

    美少女がセカイであり、セカイが美少女である――これこそが究極のセカイ系。これ以上童貞臭い世界観があるでしょうか? いや、ない! おれたちの大好きな、童貞の気持ち悪い妄想話を創る新海誠が120%増しで帰ってきた! 祝え、童貞王帰還の瞬間である!!


    あ、あと『言の葉の庭』に続くクライマックスの非常階段ダッシュも童貞臭かったですね。童貞って余裕がないから、階段とかダッシュしがちじゃないですか。追い詰められたら拳銃とか撃ちがちじゃないですか。



    ●『天気の子』のラストは賛否両論なのか?

    そして、ラストの展開には違う意味で童貞臭さを感じました。


    本作の公開前、新海監督はあちこちのインタビューで気になることを言っていました。

    「彼らが怒らない映画を作るべきか否かを考えたとき、僕は、あの人たちをもっと怒らせる映画を作りたいなと。人が何かに対して怒るのはすごく強いエネルギーが必要で、『君の名は。』は少なくとも何かを動かしたわけです。そういう気持ちが『天気の子』の発想につながっていった」

    「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい。たぶんそれこそが、そのときの僕の表現欲求の核にありました。」

    「ただ確実に言えるのは、強い嫌悪感を持つ人はいると思います。「こんな主人公を愛せない」という人がきっと出てくるのは、断言できます(笑)」

    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190721-00000026-sanspo-movi

    https://news.yahoo.co.jp/feature/1389





    以下ネタバレ

     
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