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【第276号】HBOドラマ版『ウォッチメン』:リベラルvsリバタリアン、マイノリティvs白人貧困層(前編)
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【第276号】HBOドラマ版『ウォッチメン』:リベラルvsリバタリアン、マイノリティvs白人貧困層(前編)

2020-06-17 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第276号 2020/6/17
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    おはようございます。

    気分はすっかり夏ですね。

    新型コロナウイルスのせいでまたもや旅行が延期になってしまったのですが、もう近場の海には行ってしまおうかと思ってます。どうせダイビング中は水の中だし。




    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    ○6月26日(金)20時半頃~金ロー『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』生実況

    コロナウイルスの影響か、名作洋画を放送している最近の金曜ロードショー、この度『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが三作連続で放送されることになりました。自分のようなアラフォーにとっては思い出たっぷりの作品です。

    そこで、『PART3』の生実況放送を行います。

    コロナウイルスでおうちに籠もりがちなみんな、テレビの前でぼくらと(心の中で)握手!



    ○6月29日(月)19時~「ラーメンハゲ芹沢達也の苦悩のサーガとしての『ラーメン発見伝』・『らーめん才遊記』・『らーめん再遊記』」(「最近のマクガイヤー」から企画変更となりました)

    『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』の続編『らーめん再遊記』の単行本第1巻が6/8に発売されます。『らーめん才遊記』のドラマ化に合わせた復活連載かと思いきや、『発見伝』では最強のライバル、『才遊記』ではメンターとして登場したラーメンハゲこと芹沢達也を主人公にした、堂々たる続編でした。これまでの連載分を読んだだけで、傑作の匂いがぷんぷんします。

    Twitterでは芹沢達也のコマがネットミームとして拡散しているのですが、『ラーメン発見伝』から続くシリーズをきちんと読んだ方はどれくらいいるのでしょうか。『発見伝』、『才遊記』は、それまでのグルメ漫画では比較的取り上げられ難かった「飲食店経営」にフィーチャーした点が画期的な作品でした。若くして理想のラーメンを作り上げるも、資本主義社会でサバイブするためにビジネスという鎧で自らを武装した芹沢達也、彼が象徴する商業性と作家性の両立は、なにもラーメンだけに限った話ではありません。当初は明らかに一回限りの脇役として登場した芹沢が、再登場するに連れ人気を増し、作品のテーマを担うような人物になったのは、ある意味で必然だったのかもしれません。続編『才遊記』では主人公のメンターになり、最新シリーズ『再遊記』では遂に主人公となりました。

    そこで、『ラーメン発見伝』・『才遊記』・『再遊記』を芹沢達也サーガと捉え、解説するようなニコ生を行います。

    ゲストとしてお友達の編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送りします。



    ○7月12日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2020年7月号」

    ・時事ネタ

    『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』

    『ランボー ラスト・ブラッド』

    『許された子どもたち』

    『ANNA/アナ』

    その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    ○7月26日(日)19時~「いまこそ読み直したいジョージ秋山」

    漫画家のジョージ秋山が5月12日に亡くなったことが発表されました。

    『デロリンマン』『銭ゲバ』『アシュラ』『ザ・ムーン』『浮浪雲』『捨てがたき人々』……と、代表作に事欠きませんが、実際に読んでいた人はどれくらいいるのでしょうか?

    人は誰でも平和や戦争、政治経済や宗教について語りますが、心底思ってるのは金とセックスのことだけ。病気が人を殺すのではなく、妄想が人を食い殺す。我利私欲の世の中で、カネとセックスにまみれながら、人生と欲望と愛と自意識を語るジョージ秋山作品は、この21世紀にこそ読まれるべき作品たちなのだと自分は考えます。

    そこで、漫画家としてのジョージ秋山を振り返りつつ、作品の魅力について紹介するようなニコ生を行います。

    ゲストとしていつもお世話になっている漫画家の山田玲司先生(https://twitter.com/yamadareiji)をお迎えする予定です。



    ○藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

    当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

    https://macgyer.base.shop/items/19751109


    また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

    https://macgyer.base.shop/items/25929849


    合わせてお楽しみ下さい。




    さて、今回のブロマガですが、先週の放送のまとめとして、HBOドラマ版『ウォッチメン』における対立について解説させて下さい。



    ●HBOドラマ版『ウォッチメン』とは

    HBOドラマ版『ウォッチメン』は、アラン・ムーアとデイブ・ギボンズが1986-87年に発表したコミック版『ウォッチメン』の続編として製作されました。コミック版『ウォッチメン』が1985年を舞台とし、冷戦をテーマの一つとしていたのに対し、HBOドラマ版『ウォッチメン』は「いま」である2019年を舞台とし、社会の分断をテーマとしています。「いま」といってもコミック版『ウォッチメン』の世界の未来として作られているので、ベトナムがアメリカ51番目の州になったり俳優のロバート・レッドフォードが大統領になっていたりする「いま」ですが、コミック版『ウォッチメン』が執筆当時の現実世界の状況を反映した架空の1985年であるように、HBOドラマ版『ウォッチメン』も現在の現実世界の状況を反映した架空の2019年となっています。

    舞台となるのはオクラホマ州のタルサという町で、1921年にタルサに住んでいた裕福な黒人達を妬んだ白人たちによる暴動――という名の虐殺が起こったという歴史を持ちます。架空の2019年を舞台に、何かよからぬことを起こそうとしている覆面を被った白人至上主義者たち(ずばりKKKです)と、それを止めようとする覆面を被った警官たち(シスターナイトやルッキンググラスといったヒーロー名を持っています)の戦い――というのが簡単なあらすじになります。



    ●アメリカの「オールドスクール」な保守

    白人至上主義者たちはコミック版『ウォッチメン』の登場人物の中で過激な保守派だった「ロールシャッハ」のマスクを被り、カスター将軍と一緒にインディアンを虐殺した「第七騎兵隊」を名乗っています。アメリカの保守派が過激化、カルト化した者たちと呼んでも良いかもしれません。

    ここで注意したい点は、アメリカの保守派は日本やヨーロッパのそれとはかなり異なるということです。

    保守主義とは、その社会で昔からずっと引き継がれている伝統・習慣・制度・考え方・社会組織などを重視し、尊重する立場のことをいいます。この考え方の根底には、人間は不完全な存在であるので、先人たちが長い時間に渡って試行錯誤してきた失敗の積み重ねである伝統や習慣や道徳を引き継いでいけば、この先大きく失敗することも無いだろうという考え方があります。

    しかし、この「伝統や習慣」はその土地ごと、国ごとに異なります。

    王室も皇室も貴族も士農工商も無く、市民が銃をとってイギリスと戦争することで独立を果たしたアメリカでは、必ずしも政府に従うことが社会秩序の強化に繋がるとは考えません。むしろ、政府の機能は軍隊や外交機能、最小限の郵便サービスくらいで充分であり、細かいルールや法律よりも個人の自由をそのままにしておくべきと考えます。税金は少なければ少ない方がよく、国家による社会福祉は社会主義や共産主義に繋がるものとみなします。個人的自由や経済的自由の追求こそが理想的社会に繋がる道であり、いわゆる「小さな政府」や「夜警国家」が理想の一つとなるわけです。

    日本人が漠然としたイメージとして抱く「保守」とは明らかに違いますが、アメリカを知れば知るほどこの考え方がアメリカ人の底流になるのだなということが分かります。アメリカの憲法に市民が銃を持ち政府を転覆する権利が明記されている理由、フィッツジェラルドやハインラインといったアメリカの「男」を象徴する作家の小説、イーストウッドやシュワルツェネッガーやスタローンがそれでも共和党を支持する理由とその支持の仕方、先進国で唯一国民皆保険が実現していない理由、水道や刑務所のような公共サービスが次々と民営化される潮流等々について考えると、この考え方がいわば「オールドスクール」な保守として、アメリカで一般的であることが理解できます。



    ●アイン・ラッドとオブジェクティズム

    アメリカの保守主義を推し進めていくとリバタリアニズム(自由至上主義)になるわけですが、このリバタリアニズムの考え方の一つとしてオブジェクティビズム(客観主義)があります。

    オブジェクティビズムは1940~50年代にアイン・ランドという思想家によって理論家されました。日本ではほとんど無名ですが、アメリカ人のインテリ層ならほぼ知っているはずです。

    オブジェクティビズムを要約すると「個人的な確信であっても、他人の意見を気にすることなく、自信を持って計画を推し進めて良い」という信念ということになります。つまり、「もの凄く優秀で合理的な人間にとっては利己性と合理性が不可分なものとなっており、合理的な人間同士の間では争いごとがないので、優秀で合理的な人間がそれぞれに利己性を追求することが理想の社会に繋がる」というわけです。

     
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