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p_fさん のコメント

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p_f
>>4
■危険レベル

1年前は、キエフ、ハリコフ、チェルニゴフ、スミ地域(ウクライナの北部と東部)が最も地雷の多い地域だった。しかし、今は東部と南部だ。「私たちは現在、ケルソン地方で最も活発に活動している。8,000平方キロメートルの地雷除去が必要で、そのうち7,000平方キロメートルがケルソン地方に、約1,500平方キロメートルがニコラエフ地方にある」と、ウクライナ国家非常事態局のセルゲイ・クルック局長は昨年11月に述べた。

戦災地域は、地雷がもたらす危険レベルによって幾つかのカテゴリーに分けられる。

最も危険度が高いのはドンバス地域である。2014年の武力紛争開始以来、その領土には地雷が散乱している。ルガンスクでは漁師や子どもたちが定期的に地雷の犠牲になっており、スラビアンスク近郊ではキノコ採りの人たちが同じ運命に見舞われている。中には10年近く前に敷設されたものもある。更に、ドンバスでは現在、最も血なまぐさい戦闘が繰り広げられており、地球上で最も地雷の多い地域の一つとなっている。マリウポリで爆発物を無力化するロシアの地雷除去作業員は、この地域は住民の数世代に亘って危険なままだと考えている。

また、ハリコフ地方からザポロジエ地方にかけての現在の前線沿いや、ケルソン地方の接触線沿いも危険度は高いままだ。これらの地域では、殆どの地雷は軍事上の急場しのぎで敷設された。戦線がある地点で静止している時間が長ければ長いほど、地雷地帯は内陸の奥深くまで広がっていく。

ハリコフ地方では特に状況が深刻で、前線が頻繁に移動するため、双方で集中的な地雷敷設が行われている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの武器部門のスティーブン・グース部長は、ウクライナ軍がいわゆる「花びら地雷」を「イジュム市近郊の広大な地域に撒き散らし、民間人の死傷者を出し、今も深刻な脅威となっている」と指摘している。

最初の戦闘が行われた場所、即ち、キエフ、ジトミル、チェルニゴフ、スミ地方でも脅威が高まっているが、これらの地域が他の地域と異なる理由は2つある。第一に、紛争の初期段階では、戦闘はまだ陣地戦の形をとっていなかった。戦闘のペースが速かったため、大量の地雷敷設は必要なかった。第二に、地雷敷設は殆どウクライナ軍によって行われたため、ウクライナ側が自国の地雷を除去するのは遥かに容易である。しかし、これらの地域の住民は毎日のように地雷で負傷しているが。

ロシア―ウクライナおよびベラル-シ―ウクライナ国境の全周囲での危険度は低い。昨年末、ベラルーシ国家国境委員会委員長のアナトリー・ラッポ中将は、ウクライナがウクライナ―ベラルーシ国境の橋と地雷敷設道路の殆ど全てを爆破したと述べた。「道路に3列の対戦車地雷を敷設したほどだ」と同中将は述べた。これを裏付けるように、ウクライナ国家国境局は国境地帯が「地雷敷設済み」であることを認めていた。

ウクライナの領土の残りの部分は比較的 地雷の心配は無い。それらの場所では、人々はまだ釣りをしたり、ピクニックを楽しんだり、キノコを採ったり、庭にジャガイモを植えたり、ただ自由に歩き回ることができる。しかし、この「ウクライナの残りの地域」は国土の僅か半分にまで縮小してしまった。以前は海に出かけていた人たちにしても―例えばオデッサなどへ―海岸一帯が高密度に地雷敷設されているため、出掛けるのを急がなくなっている。

■危険に打ち勝つ

民間人にとっては日々運命を試されることになる。危険はいたるところに隠れている。農業労働者は更に大きな危険に晒されており、特に果てしなく続く地雷原に悩まされている。季節労働の農作業では、一歩一歩が最後の一歩になりかねない。

農民は畑を耕すことができず、地雷は農業に深刻な問題を引き起こしているが、農業はウクライナ経済の主要部門の一つである。敵対行為が始まる前、ウクライナは世界の穀物市場の10%近くを占めていた。ヒマワリの種やトウモロコシなどの生産量もトップクラスだった。現在、多くの畑が地雷敷設され、少なくとも短期的には使用されないまま放置される可能性がある。

衛星画像の分析に基づき、昨年、米国の宇宙技術会社マクサールは、ウクライナは通常の半分しか穀物を収穫できない可能性があると結論づけた。2022年、農家が播種する畑は2021年より30%少ない。2023年には、穀物と豆科作物の収穫が昨年より更に17%減少する。

現在、最も被害を受けているのはケルソンで、地雷原がウリの植え付けに影響を及ぼしている。「ケルソン地方では、残念ながら殆どの地域で地雷が敷設され、畑は砲弾の被害を受けており、地雷除去には時間がかかる。しかし、オデッサ地方とキーロヴォグラード地方の一部では、タマネギ、スイカ、カンタロープが植えられます」と、今年3月、ヴェルホヴナ・ラーダ農業土地政策委員会のドミトリー・ソロムチュク委員は述べた。

ウクライナの西部と中部では、ビート、ニンジン、ジャガイモが栽培される。農家は野菜不足と輸出指標の低下を避けるため、野菜の作付けに力を入れている。

ウクライナの農地の約100万ヘクタールは地雷や不発弾で汚染されている。「地雷原は間違いなく、土地の売買や農産物の生産に悪影響を及ぼすだろう。戦闘の多くは、いわゆる『チェルノゼム』と呼ばれる土地、つまり最も肥沃な土壌を持つ地域で起こっている。これは、この地域の農業の可能性を大きく制限し、今年だけでなく、今後数年間も世界の穀物市場におけるウクライナのシェアを低下させるだろう」とマキシム・セメノフは付け加えた。

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明白な理由から、ウクライナを完全に地雷除去するのにどれだけの時間がかかるかは誰にも予測できない。しかし、紛争が終わった後でも、その恐ろしい遺産が地雷や爆発物という形でウクライナ全土に残ることは明らかだ。今後何十年もの間、このことは間違いなくウクライナにとって最大の懸念事項の一つであり続けるだろう。
No.5
17ヶ月前
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A-1 米軍制服組トップ「ウクライナ反攻は遅い」 地雷が障害( 7 月 19 日日経) 米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は 18 日の記者会見でウクライナの反転攻勢に関し「ゆっくりで困難を伴い、大きな代償を払う」と語った。「真の問題は地雷だ」と言及し、除去に向けた支援を続ける姿勢を示した。 ミリー氏は「反攻前に実施したさまざまな机上演習ではある程度の前進を予測していた」と指摘。反攻は予想より遅いとして「その理由は実態のない演習上の戦争と本物の戦争の違いだ」と話した。「本物の戦争とは不確実なものだ」と断言した。 ロシア軍は反攻に備えてウクライナ東部や南部で大量の地雷をまいたとされる。 ミリー氏は「部隊が地雷を抜けようとすれば(進軍の)速度は遅くなるし、それは正しいことだ」と力説した。「私の考えでは全く失敗ではない。そんな結論を出すことは早すぎる」と言明し、反攻の遅さは作戦の失敗を意味しないとした。 ロシア軍
孫崎享のつぶやき
元外務省情報局長で、駐イラン大使などを務めた孫崎享氏。7月に発行された『戦後史の正体』は20万部を超えるベストセラー、ツイッターのフォロワーも13万人を突破。テレビや新聞が報じない問題を、日々つぶやいている孫崎氏。本ブロマガでは、日々発信。週1回別途生放送を発信。月額100円+税。【発行周期】日々。高い頻度で発行します。