中庸左派さん のコメント
このコメントは以下の記事についています
現在ウクライナの戦場ではロシアの砲弾数がウクライナの6倍から10倍と言われている。その主たる理由は米国からの武器供与予算が止まったことにある。 4月議会で予算が承認され、米国の武器はウクライナに送られる。 これで戦況は逆転するであろうか、 2022 年 2 月 24 日のロシア攻撃以降にウクライナに送られた米国の軍事援助で、 200 万発以上の 155mm 砲弾等砲弾を全て合わせて300万発以内とみられる。 他方ロシアの生産能力はどうか。 2024.03.12CNN は「ロシアの砲弾生産量、欧米のウクライナ向け生産の3倍に CNN EXCLUSIVE 」の標題の下、「ロシアの砲弾生産量が欧米のウクライナ向け生産の3倍近くに上る見通しとなった。年内に予想されるロシアの新たな攻勢を前に、大きな優位点となる。つまり米国の軍事援助が再開されても、砲弾数の逆転はない。 CNNに共有されたロシアの国防能力に関する北大西洋条約
まったくそのとうりだと考える。
問題は、こうした現実を受け入れない「専門家」言説であろう。我が日本の典型、小泉悠の発言が面白い。最近の毎日でのインタビュー記事の一部から、少し長いが引用する。
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即時停戦論には、「たかが土地にこだわって人を死なせるのは不正だ」といった主張がある。だが、その土地には多くの人たちが住んでおり、占領下に取り残されている。これは、戦後の連合国軍総司令部(GHQ)による日本占領とは状況が大きく異なる。
ロシアは2014年から、ウクライナ東部ドンバス地方の多くを事実上の占領状態に置いてきた。現地では厳しい監視体制が敷かれ、ウクライナ・シンパとみなされた人が拘束されるなどの事態が起きてきた。また、国連などによると、現下の戦争中、2万人の子供たちが拉致されてロシアへ送られている。実際には20万人という推計もある。
ロシアはウクライナ東・南部4州の占領地域を「自国領に併合した」と主張している。すると、そこに暮らす人たちには兵役の義務が生じ、若者たちはロシア軍に入れられている。ロシアはこの4州に戒厳令を出しているので、ロシア法の下では徴兵を志願兵に変更し、戦場に送ることが可能だ。ウクライナ人同士が戦わされることはありえる。このように被占領地に取り残された人々の問題があるので、ウクライナ側は「このあたりで手を打とう」とは言い難い。
ロシア側は、ウクライナがロシアのコントロール下にないことを問題視する。民主化されたウクライナの存在自体がプーチン政権にとって脅威なのだという見方もある。だから、仮にウクライナが国土の約2割に及ぶ被占領地をあきらめると決めても、プーチン露大統領が「ハラショー(良し)」と言うかといえば、疑わしい。
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https://mainichi.jp/articles/20240419/k00/00m/030/354000c
そもそも、小泉悠の語る上記事実認識も怪く、偏向ではないか、ということは、先ず指摘したい。
その上で言うが、小泉悠は即時停戦論を否定している。理由は東部ドンバスに住む親ロシア派のウクライナ人以外のウクライナ人、即ち親EU派或いは西側派ウクライナ人をどうするのか?という点が問題だ、ということらしい。
しかし、これは奇妙な論理だ。小泉が言うようなことは、停戦した後、時間をかけて、それこそユックリ話し合えばよかろう。戦争が問題なのは無駄死にを増やす愚かな殺し合いだからではないか。戦争には価値などないし、そこで守られる人権はない。
小泉悠の論理は、戦争継続により人権侵害が回避され、守られるかのような、あり得ない非論理である。
また、小泉悠が語ることは、アメリカ帝国ら西側が一方的に語る言説そのもので、その意味で著しくバランスに欠けている。歴史の審判というものがあるなら、それに耐える言説でもないだろう。
少なくとも、親EU派、親西側派のウクライナ人について語るなら、東部ドンバスで多数いるロシア語話者のウクライナ人、マイダンクーデターにおけるヌーランドらアメリカ帝国機関関係者らの暗躍、ミンスク合意、ウクライナ内戦といった歴史的事実をあわせて語るべきだ。
一部の歴史的事実を都合よく無視する言説を弄する「専門家」は、その名に値するのか?
在野の研究者である嶋崎史崇氏は「半ポスト真実」という概念を提唱し、警鐘をならしている。これは「ポスト真実」という概念から、着想を得て嶋崎氏が提唱しているのだが、因みに「ポスト真実」とは、「客観的事実が、世論形成に対して、感情や信念への訴えと比べると影響力を持たなくなった」事態、とのことである。
その上で、「半ポスト真実」とは、嶋崎氏によると次のような定義である。
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まずは大多数のメディアが、本当は専門家の間でも複数の見解が対立する問題について、半面または片面から見た見解を伝え続けることで量的に圧倒し、それに対立する少数だが有力な根拠ある見解・見方があたかも存在しないかのように演出する。そうすることにより、メディアが純然たる嘘をついたり、虚偽情報を捏造したりしているわけではなくとも、両方の見方を知る人から見れば、実像から懸け離れた偏向した言論状況が出現する、という事態
(嶋崎史崇著『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』、本の泉社)
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いかがだろうか?まさに小泉悠の言説そのものだ。
小泉は「停戦しても被占領地域の人道状況は改善されない」として、即時停戦に反対しているが、戦争継続という悲惨な殺し合いによりどうやって「人道状況」を「改善」するのだろうか?
専門家には論理的常識的思考力は必要ないのだろうか?
日本の言論状況はここまで劣化した、と見るべきなのだろう。前途は暗いように思える。
一方、事実現実を自分のアタマで考えるための情報は、さしあたり次のようなものだと見ている。私は少なくとも、「両方」を見ている。
https://www.rt.com/russia/596888-west-illusion-russia-ukraine-war/
https://ctrana.news/news/463374-ofitsery-vsu-schitajut-chto-v-oktjabre-rossija-zakhvatit-donbass.html
以下は、RTに掲載されたタリク・アマール氏というイスタンブールにあるコチ大学の研究者による論評、「これは西側諸国が認めようとしないウクライナ戦争に関する最大の幻想だ」からの引用。
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西側の評論家や指導者たちは、あたかも自分たちの決断がこの戦争がいつまで続くのか、そしてどのように終わるのかを決定する重要な要素であるかのように話し、そして実際に考えているように見えるが、現実はその逆であり、主導権はロシアのものである。 さらに長期にわたる戦争を計画している人々、そして新たな「永遠の戦争」を警告する西側の政策を批判する西側諸国でさえも、明らかな事実を見落としている。それは、ロシアがこれらの問題についてより大きな発言力を持っているということである。
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見たい現実しか見ない「専門家」は、「ポスト真実」の世界に住んでいる。
では、小泉悠に典型的な日本の言論状況は、「ポスト真実」なのか、「半ポスト真実」なのか?どちらにしても、危機と劣化ではないか?
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