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【橘川放談 vol.2】電子書籍は紙の本を駆逐するものじゃないんだよ(聴き手:杉本恭子)
2012.01.14
音楽雑誌『ロッキングオン』、全面投稿雑誌『ポンプ』を創刊し、日本のインターネット文化を創出した人々に影響を与え……橘川幸夫さんを“説明”しようとするといくら言葉を並べても足りない。しかし、いくら業績や肩書きを連ねても、橘川さんが放っているエネルギー、そして彼とのつきあいから得られるワクワクする気持ちや視野がパッと広がる感じは、ナマで経験しないと伝わらないと思う。
日本のどこかで、橘川さんに出会うたびに聴いた話をシェアするためのインタビュー、第2回は「読む」ことについて。百聞は一見に如かず(いや、「一読に如かず」か?)。文中にある「読むことはつきあうこと」という言葉をカギに、今ここで橘川さんと向かい合いつきあってみてほしい。(聴き手:杉本恭子)
――アクセス至上主義でモノ書きはマーケットばかりを見ていて、批評が枯れている状況のなかでモノ書きと読者が育っていかないという話でしたよね。
うん。今度ねえ、同人雑誌を始めるんだ。同人って言ってもエロ系とかじゃないよ、昔ながらのやつ。
――昔の文芸同人誌の『白樺』とか『新思潮』みたいな?
そうそう。昔は、『白樺』みたいな同人誌に参加すると、まず同人がライバルになるわけ。これが批評の一番はじめなんだよ。世の中なんか関係なくて、まずはここにいる10人なら10人にギャフンと言わせるっていう訓練の場だったわけ。内部の切磋琢磨からクオリティが上がってくる道場だったわけですよ。今はそういう場がなくて、いきなり市場のマーケティングだけをして書くみたいになっちゃってるから、道場を作ろうと。世の中の判断はいいから、まず内部で議論してそこから出てくるやつを世の中に出して行く。
――同人誌のタイトルは?
『リア同』。リアルテキスト塾(※)の卒業生だけが書ける同人誌なんだ。電子書籍の実験もする。電子書籍も全部わかった。何が電子書籍なのか。
――何が電子書籍なんですか?
マンガの進化形がアニメ、アニメの進化形がゲームなんですよ。でも、ゲームやアニメが出てもマンガそのものは崩壊していない。これがメディアの進化なわけ。今、電子書籍って紙の書籍を電子化してつぶすっていう話になっていて、それではまったく意味がない。今の書籍の文化を、テクノロジーの発展に合わせて新しく電子書籍を作ればいいのに、古い勢力を滅ぼして置き換える話をするのは違う。
――マンガからアニメ、ゲームへという進化モデルは、書籍の進化に当てはめるとどうなるんだろう?
カンタンに言っちゃうと、『iPad』が出てすぐわかったわけだよ。『iPad』を手に持って見るとさ、本を読む姿勢なんだよ。つまり、『YouTube』やWebを「見る」んではなくて「読む」んだよ(笑)。進化するのは「読む」っていう行為の方なんだよ。だからそれをやればいい。映像をテレビに映すと「観賞する」になるけれど、『iPad』に映すと「読む」になる。だから、「読む映像」をやればいい。
――つまり、橘川さんのいう電子書籍は、タブレット端末などのテクノロジーによって、「読む」行為が言葉あるいは文字以外の分野に広がるということ?
少なくとも紙の本を電子に移し替えて読むことではない。「読む」行為の進化なんだよね。映像や音楽は情緒の部分で、「読む」は意志なんだ。意志と意志が交感することを「読む」って言うんだ。音を読むとか、写真を読むとか、いろいろ出てくると思う。小説が進化してマンガや劇画になったのは、物語を楽しむことの進化なわけだよね。書籍を「読む」ことはさ、活字を通して著者と読者が向かい合う行為なわけだよな。
――「読む」ということは、著者と読者が向かい合って意志と意志が交感すること。
こないださ、1960年代に「情報化社会」という言葉を作った、林雄二郎さん(※)っていう俺の大好きなおじいさんが95歳で死んだんだよ。どんどんさぁ、雪崩のように身ぐるみはがれていくわけ。人が死んで、一緒に生きていた空間がむしり取られるような感じで。失った人たちから残されるのはやっぱり言葉なんだよ。言葉から意志を受け取る。本を読むという行為の本質も同じでね、あれは「つきあう」んだよ。だから、言葉にしてくれないとつきあえないわけだよ。
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橘川幸夫放送局通信
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