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  • 手短な落語 作・底辺亭底辺

    2018-01-07 11:31
    落語の脚本を書きながらもあるまじきことだが、底辺は寄席が苦痛で堪らない。
    長いのだ。

    IT化に伴う劇的な情報爆発が起こっている現代。
    プレゼンや落語に60秒以上の時間を割くのは極めて困難である。


    アニメ版は下記URLリンクにて公開。 
    http://www.nicovideo.jp/watch/1515292346






    原作・脚本 底辺亭底辺



    え~ 毎度、ばかばかしいお笑いを一席。
    はい。
    と、言う予防線で御座います。

    最初に「ばかばかしい」と言っておけば、噺の内容がバカバカしくても怒られにくくなりますからね。
    えっへっへ♪
    昔の落語屋さんは上手いやり方を考えたもんですな。
    あたしも諸先輩のお知恵をこのように拝借させて頂いております。

    ところが最近ですね~
    お客様が落語に求める水準が上がる一方でして

    「面白い落語を聞かせろ」ってのは当たり前なんですけど
    「スピーディーな落語を聞かせろ」って声が多くてねぇ

    この前なんかも…

    はいっ!?

    枕はいいからとっとと本題に入れ?
    へいへい。
    それでは宇宙一短い落語を一席!


    え~
    と言いましても、宇宙一短い落語を始めたのはアタシじゃあありません。
    これまた昔の偉い落語屋さんですな。
    いやいや、日本人は昔から気が短い。

    「おーう! 落語屋ぁ~! やってるか~?」

    こんな風に駆け込んで来るんですよ。

    へいッ!  これはこれは魚屋の大将ッ!  本日はお日柄も良く…

    「あ~! そういう挨拶はいいから!  落語を一匹くんな!」

    いやはや、魚屋さんはせっかちですな。

    「おう! ジャリッ!!  ここに銭ぃ置いとくぜ!  さあ、ぱぱっと笑わせてくんな!」

    へい、承りました。

    「あ~、俺っち自慢じゃねえが学がねえ。 魚屋でもわかる話を頼むぜ!」

    へい。
    それでは、目黒のサンマを一丁出させて頂きます。

    「お~、やるじゃねえか! 落語屋ぁ! 
    魚屋の俺っちにサンマを出そうだなんて良い度胸だ!
    気に入ったぜ! さあ、初めてくんな!」

    昔むかし
    お殿様が家来を連れて目黒不動にお参りに行った日のことです。
    お参りは終わったのですが、昼餉(ひるげ)時までには時間がある。

    「ちょっと待った! 昼飯まで時間なんて悠長な噺はやめてくんな!
    俺っちはこう見えて忙しいんだ! オチだけとっとと済ませてくんな!」

    え?
    オチだけ… 
    ですかい?

    「おーよ。 魚屋は鮮度が命!  
    時は金なり速き事風の如く! とっとと済ませてくんな!」

    …わっかりました。
    やっぱり、サンマは目黒に限る。

    「うわっはっはっは!!  こりゃ傑作だwww  落語屋ぁ、腕あげたじゃねえか!」

    あ、ありがとうございます。

    「俺っちも負けては居られねーぜ! おめえの落語と俺っちの魚!  
    どっちがうめえのを出せるか、これからも勝負だ!
    じゃあな、俺っちはそろそろ行くぜ!」


    …おあとがよろしいようで。

    ふー。
    最近はねえ、あんな客ばっかりだよ。
    どいつもこいつも結論だけを求めやがる。

    「おーう、落語屋さーん!  やってるかーい。」

    ああ、御隠居ぉ。
    どうもどうも、御無沙汰しておりました。

    「久しぶりに落語を一杯やりたくなってねぇ。
    上手いのを頼むよ。」

    へいっ。
    御指名ありがとうございます。

    「なんかいいネタ入ってるかい?」

    へいっ
    最近、『やかん』ってネタを勉強しておりまして。

    「おーおー、知ってる知ってる 『やかん』『やかん』
    あれは風情があっていい話だね。」

    流石に御隠居は何でもご存じですな。

    「知ってる知ってる、何でも知ってる。 亀の甲より年の功! なんでも知ってるよ~」

    そいじゃ、始めさせて頂きやす。
    え~
    とある御隠居がお茶を飲んでおりました。
    そこへやって来たのは八五郎。

    「あ~、ちょっと。  ちょっといいかい落語屋さん。」

    は?
    何か不手際でも?

    「そうじゃないそうじゃない。 ワシも歳だからね。 
    もう長い話は聞けないんだ。
    手短に手短に。  オチだけ出してくんな。」

    あ、こりゃあ気が利きませんで。
    それじゃあ、オチだけ。


    矢が当たってカーン!


    「はっはっは! コイツは愉快だ。 
    ここまで『やかん』を上手く演じられるのはおめえさんくらいのもんだよ。」

    ありがとうございます。

    「これからも精進するんだよ。  ほら、色ぉ付けておくからね。  じゃらじゃら」

    へい、これからも精進させて頂きやす!

    はー、帰ったかぁ。

    精進も何も、みんな噺の中身を聞いてくれてねえからなあ。
    落語が鈍ってくのが自分でもわからあ。
    みんな気が短いんだよなあ。

    「おーう!!!  落語屋ぁ!!!!!   おるか~!?」

    ん?
    こりゃまた、一番気の短いのが来たよ。

    「落語屋ぁ!!!!  オチだけくんな、大至急!!!」

    これはこれはいつも御贔屓…

    「挨拶はいらねー!!  俺は大工(でーく)だよ!!  
    忙しいんだ!!  とっとオチだけ聞かせろや。
    おう、銭ぃ置いとくぜ!!
    ドジャッ!!!」

    へい、それでは大急ぎで落とさせて頂きやす。
    今日の演目は『ねずみ』!
    名匠・左甚五郎にちなんだお話しでございます。

    「何! 左甚五郎ッ!!??  
    そいつあ~俺達職人にとっちゃあ神様みたいなお人の話だ!
    胡坐なんざかいちゃバチが当たる。
    ちゃんとな、こうやってな! 膝を正して、背筋を伸ばして!
    はい、オチだけくんな!」

    はええ~
    あれは虎だったのかい

    「よっ!!  日本一!!!」

    あたしゃ猫かと思ってたよ

    「うははは!! 話の内容はよくわからねえが、昼間っから甚五郎様の話を聞けるなんて縁起がいいや!
    何だかまだまだ腕を磨きたくなってきたぜ!! 
    やい、落語屋!
    俺っちは日本一のでーくになるから、おめえは日本一の落語屋になるんだぜ?
    いつか、おめえの寄席小屋を俺っちが立ててやるからな!
    うはははは!!」

    行っちまいやがった。
    ま、大工ってのはあれくらい威勢がなきゃあ
    やってけないのかも知れねえな。

    「落語屋さーん、空いてますかー。」

    お。
    今度は威勢が無いのが来やがった。
    今日は千客万来だねえ。

    はーい、空いてますよ~。

    「どうも~
    落語屋さん、一席頼むよ。」

    よっ、若旦那。
    待っておりましたよ。

    「おやおや、今日は歓迎してくれるみたいですねぇ。」

    いや~
    今日の客はせっかち揃いでしてね。
    どいつもこいつも短い落語ばっかり頼みやがるんでさあ。

    でも、若旦那が相手なら安心だ。
    なんせ、若旦那は通で粋で名の知れた遊び人だから!

    「あ~
    それがねえ。
    あたしゃ少し心を入れ替えようと思ってね。
    遊びに使う時間は短くすることに決めたのさ。」

    短く!?

    「あたしが朝から晩まで遊び呆けるものだから
    おっとさんの堪忍袋が切れちまってね、昨日はとうとう拳骨でぶたれちまったよ。」

    あの温厚な大旦那様が!?

    「おまけにおっかさんにも泣かれるわ、番頭にも説教されちまうわで」

    あの気丈な奥様が!?

    「流石のあたしも堪えちまってねえ。
    門限位は真面目に守ることにしたんだ。
    暮れ六つにはちゃんと帰ることにしたから。

    その証拠にね?
    さっきは芸者遊びを床だけで済ませちまったくらいだ。」

    はあ、それは御立派な御心掛けですな。
    きっとお店も繁盛し続けるでしょう。

    「そこでです。
    今日はあたしが心を入れ替えた証に
    商売の勉強になる落語を聞かせてほしいんです」

    ほう、それは殊勝なことですな。

    「ああ、勿論門限がありますから
    手短に!  手短にお願いしますよ。」

    わかりやした!
    あの若旦那がこうも心を入れ替えたんだ!
    うんと短く縮めて話させて頂きやす

    「うん。 頼むよ~」

    それじゃあ、商売にちなんだ落語ってことで
    『火事息子』なんて如何でしょ?

    「うーん、あたしもね。 あの話は大好きなんだけど。
    あんなに男らしい振る舞いは出来ないからねぇ。
    もっと、こじんまりした話を聞かせておくれよ。」

    なるほど。
    若旦那の御実家と同じくらい大店(おおだな)の話ですからねえ。
    確かにそれじゃあ笑えねえかもですね。

    「あれは本当に他人事じゃなくてねぇ。」

    よし、それじゃあ時そばをやりやしょう!

    「おっほほ!  あたしゃ時そばに目が無くてね!
    …あ、でも。」

    御安心下さい!
    オチだけささっと湯がかせて頂きやす!

    「おお、落語屋さんは本当に頼もしいねえ。
    これなら暮れ六つの門限を破らずに済みそうですよ。」

    ずっそおおおお~
    ずっそおおおお~

    「おほほほほ!!!  上手い上手いwww   
    本当にソバをすすってるみたいだ!!!」

    ごきゅうう!!
    ごきゅうう!!

    「あはははは!!!  こいつあ傑作だよお!!!!
    あたしゃ、この場面が大好きなんだ!!!」

    ふう…
    ごっつおさん。
    おやじ、幾らだい?
    へい、十六文になりやす。
    よっしゃ、わかった。
    ただ、小銭は間違えるといけねえ。
    手を出しねえ。
    それ、一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ

    「ところで落語屋さん、今何時(なんとき)だい?」

    へい、八つでさあ。

    「ひええええええ!!!
    あれだけ六つまでにはって言ったじゃないか!!!」

    おあとがよろしいようで。
  • 【古典小噺】 足利義輝公、高僧を召し抱える (昨日は今日の物語より)

    2017-09-15 11:16
    10pt
    「昨日は今日の物語」に収録されている足利義輝公の逸話を紹介。







    征夷大将軍・足利義輝公は、衰退著しい室町幕府を復興させる為に可能な限り人材を揃えようと、日頃から心掛けていた。

    ある時期、とある上人を気に入って、毎日近侍させていた。
    義輝公は、上人を幕下に加えたく思うようになり、近臣の上野清信に還俗命令を伝えさせた。


    上人は困惑したそぶりで。
     「お言葉は光栄ですが、拙僧は物心つく前から出家した身です。
     今では齢50を過ぎ、上人号まで頂いてしまっております。
     俗界での奉公が務まるとも思えません。」
    と答えた。


    その謙虚な姿勢と道理を弁えた返答に、周囲は感心した。
    義輝公も上人の謝絶を逆に嬉しく感じて言った。
     「いやいや!
     上人の申し分は仰る通りである。
     だが、余はそなたと更に懇意にしたく思っている。
     是非、無理を聞いて貰えぬだろうか?」

    将軍のたっての願いである。
    それが何度も続いたので、拒絶することも出来なくなり上人は還俗した。


    さて、豹変劇はここからである。
    還俗早々、元上人は主君に無心を始める。
     「さてさてこの度は…
     僧侶は檀家には逆らえないもので、将軍様の命で外聞も顧みず還俗しました。
     そこでです!
     お引き立てついでに、もう一つ私からお願いがあるのです。」
    などと言いながら、饗膳の鯖を食む箸の動きは妙に手慣れている。



     
  • 処方箋・性欲下落剤 (戯言養気集)

    2017-09-11 09:40
    戯言養気集「みじかき部」から抜粋。
    主役は例によって曲直瀬道三。
    日本医学のパイオニアだけあって、医療関連の小噺は道三の登場率が高い。




    ある日。
    医師・曲直瀬道三の屋敷に顔色の悪い男がやって来た。

    男は弱弱しい声で懇願する。

    「道三先生ェ…
    性欲の落ちる薬があったら売って下さい。」





    患者の言葉に驚いた道三は思わず尋ねる。

    「ええっ!?
    性欲の落ちる薬ですか?
    あの… 失礼な事を申し上げますが、貴方様の場合は逆なのでは?」

    すると、男は微かに笑って答えた。

    「妻共に飲ませたいので。」






    戯言養気集

    江戸時代初期に刊行された笑話集。
    戦後期のお伽衆の小咄を集めてあり、織豊政権関係者の故事が多い。

    著者不詳。



    『曲直瀬道三』

    曲直瀬道三は戦国期の医師。
    皇室を始め、足利義輝・三好長慶・毛利元就らの有力大名の診察にあたった。
    貴賤の分なく医事に尽くし、多くの後進を育てたことから医聖と呼ばれる。

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    (曲直瀬道三肖像画)



    『妻共』

    昔の人は家を保つために側室を持ったので「妻共」と云う表現になっている。
    この小噺を鑑みるに。
    側室を維持するには甲斐性が必要であり、それは金銭面のみならず精力面でも必要とされたのかも知れない。