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▼ 2015.5.20号
▼ 『FOREST 島人通信』
▼ FOREST ISLAND
▼ http://ch.nicovideo.jp/morishimachannel
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▼ご挨拶
みなさま、いつもFOREST ISLANDをお楽しみいただきありがとうございます。
先日の二宮歩美さん出演の生放送、お楽しみいただけましたでしょうか?
まさかあんなことが起こるとは!
私もびっくりいたしました。
まだぎりぎりタイムシフトも残っていますが、動画の方もアップロードいたしましたので、じっくりとお楽しみくださいませ。
http://www.nicovideo.jp/watch/1431957396
どなたもご覧になれるチラ見せはこちらでございます。
http://www.nicovideo.jp/watch/1431964575
ぜひぜひ、ご覧くださいませ!
そして、先週から何の前触れもなく(←オイ)始まりました、『FOREST ISLANDホラー劇場』でございます。
『ホラー劇場』と銘打っているだけあって、すでにお気づきかと思いますが、こちらはフィクションの世界です。
しかし、これらの不思議な世界が、いつあなたの前に現れてこないとも限りません!?
お楽しみください!
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★ FOREST ISLANDホラー劇場『交差点の老人』②
「危ない!」
佐伯君の叫びに、周囲の目が注目する。
次の瞬間。
「ふっと、そのおじいさんの姿が消えてしまったんです。跳ね飛ばされたのでもなく、本当に吸い込まれるように、消えたんですね」
ミキサー車は何事もなかったかのように、交差点を通り抜けた。しかしそこで急にスピードを落とすと、路肩に停まったのだった。
「これはチャンスだと思って、取材しようとしました。でも、僕が近づいていくのに気づかないで、ミキサー車はそのまま走り去ってしまったんです」
佐伯君は、そのときは自分が見たものに対して、恐怖心などは抱かなかったという。
「少し気になっていたおじいさんと、交差点での事故。これが繋がったと思って、むしろわくわくしていました」
それ以降、もう交差点で老人の姿を見ることはなかった。
「見てしまったからか、どういう訳か分かりませんけど。でも、幽霊……と考えるのが自然でしょうね」
その後も他の取材などの仕事の合間を縫って、佐伯君は調査を続けていた。
そんな中でのことだった。
「出入りしている編集部のひとつに、昔の事故の写真を撮った人がいたんですよ」
佐伯君に仕事を発注している写真週刊誌の編集者が、ずっと前にその交差点で事故が起こった時に居合わせ、写真に撮って記事を書いたのだそうだ。
バックナンバーを見ればまだ残っているはずだから、と言われ、佐伯君は倉庫でその記事を探した。
「あったんですよ。もう十年以上前の記事です。その交差点でミキサー車が事故を起こし、四人が亡くなっていました。写真もありましたが、ひどかったですよ。その中に……見つけてしまったんです」
佐伯君の目は、倒れている一人の老人に釘付けになった。真っ赤なチョッキを着て、ジーパン姿。禿げ頭で、白髪になった後ろ髪を首まで伸ばしている、七十くらいの男性……。
彼は顔中を血まみれにして、うつろな目をカメラに向けていた。
「当時は今より規制も緩く、凄惨な写真もそのまま使われていました。記事に書いてあったのですが、その老人はそのまま救急車が来る前に亡くなったらしく、現場で死亡確認がされていました」
I駅近くの交差点でミキサー車を待ち続けていた老人は、十年以上も前に、事故で亡くなっていたのだった。
「この時、止めておくべきでした。でも、そのときはそんな気にはならず、面白いことを……とその時は思ったのですが、思いついてしまったのです」
佐伯君は、ミキサー車を手配してその交差点を通ろうと考えたのだ。
ミキサー車は大型免許がなければ運転出来ない。しかし、訳の分からない取材に協力してくれる会社はなかなか見つからず、結局車両を余らせていたリース会社に金を支払い、運転手付きで借りることが出来た。
「I駅近くの交差点を通り抜けてほしい。詳しい場所は近づいたら指示する」
助手席に乗り込んだ佐伯君は、運転手にそう言った。
無精ひげを伸ばした運転手は四十代後半ぐらいで、急に依頼された奇妙な仕事に怪訝そうな顔を隠さなかった。
やがて、佐伯君を乗せたミキサー車はくだんの交差点の見える場所までたどり着き、赤信号で一旦停まった。
「あの信号だ」
「通り抜けるだけで良いのか?」
ちょうど信号で車両の流れが断ち切られ、ミキサー車の前方には、あの交差点まで他の車はいなかった。
信号が変わると、運転手はがらがらの道路に向け、思いきりアクセルを踏み込んだ。急発進したミキサー車はみるみるスピードを上げる。
おそらく、交差点まで十秒足らず……。交差点に老人の姿は……見えない。
「ちょっとスピードを落としてくれ」
佐伯君の言葉に、運転手は申し訳程度にアクセルから足を持ち上げた。
数秒のうちに、ミキサー車は交差点を通り抜けるだろう。
老人は……。
そのとき、佐伯君の視界の隅、歩道上に、赤いチョッキが見えた。そのチョッキが雑踏から外れ、車道に向かって歩き始める。
「危ない……」
言いかけた佐伯君の目の前で、老人の姿が消えてゆく。一歩、二歩とミキサー車に近づくにつれて、老人の姿は景色に溶け込むようにかすれていった。
ドライバーには見えなくなってしまうのだ。佐伯君が納得したのと同時に、ミキサー車は交差点を通過した。
老人は、今も死の瞬間の記憶と共に在り続け、自分をはねたミキサー車に飛び込み続けているのかも知れない。
佐伯君はそう考えた。
しかし、多発するミキサー車の事故はどういう訳だろう?
「これでいいのかい?」
運転手が、面倒くさそうに尋ねた。その瞬間だった。
「お前じゃねぇ……、お前じゃねぇ……」
耳元でかすれるような声を、確かに佐伯君は聞いた。
苦しそうな声だった。
とっさに運転手を見ると、彼にも聞こえたのだろう。青ざめた表情になっている。次の瞬間、佐伯君とドライバーは二人同時に何かに気づき、ルームミラーに目をやった。
「ウオオオオッッ!!!!」
どちらの叫び声かは分からなかった。
ルームミラーに映っていたのは、赤黒い顔だった。頭の上がパカリと開き、ドロリとした赤黒い液体が顔中を染めている。かろうじて顔と分かったのは、その中から恨みと悲しみを込めて見つめる二つの目玉があったからだった。
「お前じゃねぇ……」
叫び声と共に、運転手が急ブレーキをかけた。体が前へ、横へと揺さぶられ、大きく傾いてから振動と共にミキサー車は停まった。車体は道路をふさぐように横を向いている。間一髪、横転を免れたのは奇跡だった。
運転手がスピードを出していたせいで車間距離が開き、後続の車も追突を避けることが出来た。
「あと一歩で大惨事でしたからね。なんでこんな真似させたんだって、運転手さんは本当に私を殴らんばかりでしたよ」
佐伯君は、そう言うと力なく笑った。
結局、老人の声が耳にこびりついて忘れられなくなってしまった彼は、交差点のことを記事にするのは諦めたそうだ。
それ以来、あの交差点には近づいていないという。
「でも、今もきっと、あのおじいさんはいるんでしょうね。そして今でも、自分を轢いた犯人を探し続けているんだと思いますよ……」
佐伯君は、ぶるっと体を震わせた。
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2015.5.20号
発行 FOREST ISLAND
発行者: FOREST ISLAND
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