妊婦がタバコを吸う姿は、ヨーロピアン的日常。偏見を承知で言ってしまうと、母親である前に「個人としての自由」がひいきされる、というのはすこし考えてしまいます。大きなお腹を抱えてくわえたばこをする女性を見かけるたびに、日本とは本当に勝手が違うのだな、と思うことが多々ありましたが、私のような考え方の人は現地でもどうやらすくなくないようです。

悪習慣の連鎖を断ち切るには

インディペンデント誌によると、喫煙する妊婦がヨーロッパで一番多く見られる都市はパリなんだとか。2015年の厚生省の調査によると、子どもがお腹にいるとわかっていても、妊婦の5人に1人はタバコを吸い続けるそうです。フランスは、喫煙が原因の一因で死亡する人の数は年間およそ7万人とも言われており、重なる医療費は非常に頭の痛い問題のひとつです。

フランス政府はこの問題に取り組むべく、国中にある17の病院(モンペリエ・リオン・ニーム・サンエティエンヌなど)と協力して、妊婦たちが喫煙をやめると「成功報酬」がもらえるサービスをトライアルとして開始。参加する妊婦さんはその間、禁煙はもとより調査に協力する必要があります。3年間という限られた期間の中でのまだ調査段階ではありますが、すでにたくさんの妊婦さんが登録をしているようで、結果によっては本格的に将来続けられるかもしれません。

たばこによって失うもの

妊婦はまず問診の際にやめる決意表明を医師に伝えます。すると一回の問診ごとに20ユーロ分の商品券が渡されるというしくみ。その後問診ごとに体内のニコチン検査と唾液・尿検査を行い、煙草を吸っていないことがデータで証明されると最大300ユーロ分まで券がもらえます。その300ユーロをもらった妊婦の多くは生まれてくる赤ちゃんの洋服などをそろえると同時に、煙草というものが非常に大きな経済損失とつながっていることを実感します。

しかし喫煙者ならばわかるとおり、煙草は習慣。からだに悪いとわかっていても簡単にやめられるものではありません。ですから当初「報酬」が目的であったとしても、結局は母体と赤ちゃん両方に良い結果をもたらすということを考えたとき、専門家がバックアップしてくれるのは非常に心強く、また画期的なアイディアだと言えます。

このサービスの提供を受けられるのは18歳以上が条件で、4か月半以上の妊婦さん。そしてタバコの量が1日5本以上(手巻きタバコの場合は3本以上)の女性に限られます。通常の問診に合わせ、煙草に関する専門家たちとの面会を受けることで、前からタバコを止めたかったと願う人たちにとっては、負のサイクルを抜け出すチャンスが与えられます。

医療費はどの国にとっても大きなテーマ。はじまったばかりのこのトライアルですが、「報酬」が煙草をやめる大きなきっかけになるのかどうかは、調査の終わる3年後でなければわかりません。長期的にみて、すべてにおいて利益となるような、そんなあらたな医療サービスがそのころまでに期待できるかもしれません。

INDEPENDENT

photo by PIXTA

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