人はマインドフルネスを実践できていないときは、どんな状態にあるのでしょうか。それは「意識のオートパイロット(自動操縦)」と呼ばれる状態です。マインドフルネスが今に意識を向けて、人生の出来事を丁寧に体験している状態であるとすれば、オートパイロットは人生をオート設定で体験している状態です。オート設定ってとても便利で快適そうですが、なぜあえてマニュアル操作のマインドフルネスにする必要があるのでしょうか。
オートパイロットでいるメリットオート設定は人間にとって欠かせない機能です。同時にいくつものことをしたり、効率よく生産的に物事を進めていったりすることに役立っています。たとえば、車の運転中やパソコンでタイピングしているとき、いつもの通勤路を歩いているときなどはオート設定になっています。特に意識しなくても物事を淡々と行えるこれらの状態は、日々の生活の中で当たり前のことを当たり前にこなしていくのに必要な機能です。
一方で、何か新しいことをするにはたくさんの注意力や集中力を必要とします。このとき、脳の中では神経細胞同士が繋がって組み合わさって、新しい神経細胞が形成されているそうです。そして神経細胞同士を繋ぐ新しいサーキットも作られていきます。脳は外からの刺激に応じて変化し学習するメカニズムですが、パターンが形成されるとそれに沿って情報処理していく傾向があるので、慣れていくと初めてのときのような集中力を必要としなくなります。
感情は、オートコントロールできない日々の生活や仕事に関する作業であれば、オート設定は物事や環境に順応するために必要不可欠な機能なのですが、感情に当てはめてみるとそうとも言えない部分が出てきます。なぜなら、感情は過去に学習したパターンだけで解決していくことができないものだからです。
たとえば、誰かに何か好ましくないことを言われたとき、感情がオート設定になっていると、「嫌なことを言われた」→「モヤモヤ、イライラ」→「怒り、悲しみ」と、自動的にネガティブな感情でいっぱいになってしまいます。過去のパターンのままにずるずるとネガティブのスパイラルにはまってしまい、ポジティブな気持ちに切り替えるのに時間がかかることもあります。
また、波のように次々とやってくる感情の流れに振り回され、「感情に振り回されて辛い」という状況が起きたとします。この場合、オート状態ではとにかく時間が解決してくれるまで辛さをじっと耐えるしかない、という状況になりがちです。人によっては、もっと早く解決したいと考えて感情に蓋をしたり、感じないようにするという行動に出ることも。
でも、感情はエネルギーなので、抑えようとすると身体の不調となって出てきたり、溜まってくると慢性のモヤモヤ感や不安感、ストレス、うつなどの、別の形になって現れてきたりします。
オート設定に頼り過ぎていると人生がパターン化されるだけでなく、感情面では特に、健康や人生のバランス感覚を損なってしまう危険も起きてきます。
スイッチのオンオフを意識する仮に、後頭部の下のあたりにオートパイロット設定をオンとオフで切り替えるスイッチがあるとします。このスイッチは、放っておくと勝手にオンになってしまうので、時々意識的にオフにして、マニュアル操作に切り替えなければいけません。これがまさにマインドフルネスを実践している状態です。マインドフルネスを実践している状態だと脳のある特定の神経経路の結びつきが和らぐため、下記のように感情面での経験が変化していきます。
マインドフルネスを実践(マニュアル操作)すると...1. 外で起こる出来事にいちいち自動反応する代わりに、自分の感じ方にはつねに選択肢があるのだと気づくことができる。
2. 過去のデータや自分の持っている知識を通して物事を分析する代わりに、今目の前で起きていることをオープンな気持ちで受け入れるゆとりを持つことができる。
3. 感情に「いい」「悪い」があるわけではないことに気づき、自分の経験している感情の深い意味に感謝の気持ちを持つことができる。
4. 感情を気づきのツールとして利用し、心を成長させていくことができる。
マニュアル操作に切り替えるには、瞑想(メディテーション)が一番効果的だと考えられています。それ以外にも、自分でしっかりと意識してみることや、自分の好きな音楽を聞いたり、自然と触れ合う時間を持ち、「歩く瞑想」であるお散歩をしたりして、スイッチを切り替えることもできます。
オートパイロット状態だけで人生を生きていくのは勿体無いし、ストレスも溜まるもの。設定は使い分けることができるのだと意識して、自分の感情と丁寧に付き合っていきたいものです。