Vol.1 では、「苦手」は脳で克服できる、 をテーマに、脳の仕組みから、自分の脳の状態を簡単に知る方法などを医学博士で脳画像診断医の第一人者である加藤俊徳先生に伺いました。Vol.2では、実践編として、脳をセルフデザインするトレーニング方法をご紹介します。社交的になった、料理が好きになった、ダイエットが続けられる......そんな「なりたい自分になる」ための脳トレです。理想の自分になるためには、「理想の脳」を手に入れること。
脳は情報と経験でできている「今のままでいい」というのは、心理学の観点からみると素晴らしい考えです。今が大切で、今を満足できることこそが、幸せだからです。しかし、脳の成長という点からみると、少々異なります。脳の栄養は情報です。現状維持を好む人は、圧倒的に情報量(脳のごはん)が足りません。また、新しい経験には膨大な量の情報量が含まれていますが、それを避けてしまうと脳がマンネリ化するだけでなく、脳が成長するチャンスが減ってしまうことになるのです。私たちは、やっていないことがまだまだたくさんあります。健康でバランスのいい脳を作り、維持していくには「変化」が重要。じつはこれ、脳がキライなこと。変化を嫌う脳は、楽なことが大好きです。
たとえば、いつも慣れた通勤ルートで会社に行くのは大して苦ではありませんね。しかし、スマホを持たずに、初めてのルートで会社に行こうと思ったら、かなり頭を使いますよね。どのルートで、何時の電車に乗れば間に合うのか。視覚系でそのヒントになる情報を探し、聴覚系で駅員さんに聞き、あるいは記憶系で頭の中にある情報を総動員して思い出す、など。このとき、脳にはどんどん情報が送りこまれ、ぐんぐん成長していきます。自分が育てたい脳(=苦手なこと)を、ちょっとした日常のトレーニングで、強化していきましょう。
■トレーニング1:脳番地別強化メニュー
前篇にて、自分の得意なこと=使っている脳、苦手なこと=使っていない脳がわかったと思います。まず1つめは、8つの脳番地別の強化メニューで鍛えていきましょう。「苦手だな=使ってないな」と思う脳番地のメニューを優先的にやってみてください。初めは脳の抵抗があるかもしれませんが、それは一時的なこと。脳の抵抗に負けず、習慣化できたら脳が成長し、強化された証です。
思考系
〇洋服のコーディネートを1週間分考える
〇身近な人の長所を3つ挙げる
感情系
〇1日、絶対に怒らないと決め、無理にでも笑顔で過ごす
〇「楽しかったことベスト10」を決める
伝達系
〇知らない人に話しかける
〇自分が買いたいものを友人や家族に詳しく説明する
運動系
〇階段を一段飛ばしで降りる
〇利き手と反対側の手で歯磨きをする
理解系
〇電車で向かいに座った人の背景を推理する
〇出かける前10分間でカバンの中の整理整頓をする
聴覚系
〇自然の音に注意を払う
〇落語を聞く
視覚系
〇電車の中吊りで「5」の数字を探す
〇鏡を見ながら自分の顔の表情を10種類作ってみる
記憶系
〇朝起きたら、昨日の出来事を3つ挙げる
〇3人の友人の電話番号を覚える
この中でも「こんなの楽勝!」「これは面倒くさい、苦手」と感じるものがあるはずです。脳が嫌がっていそうなものは、その脳番地が未熟だというサイン。どれもスムーズにできるようになることを目指しましょう。
■トレーニング2:手書きで日記を書く
日記を書くことは、8つの脳番地をまんべんなく使うことができます。
1.まず、手で文字(漢字)を書くという行為は、運動系を刺激。
2.文章を書くことは伝達系を発達させます。
3.出来事を思い出すことは記憶系を鍛えます。
4.文字がきれい、下手という情報は視覚系を刺激。
5.楽しかったこと、いやだったことを書くことで感情系に情報が入ります。
6.1日のまとめを3つ書くと決めておくと思考系を使うことになります。
7.「今日のキーマン」を決めて、その人が何を言わんとしていたのか書いてみると理解系が鍛えられます。
背筋を伸ばして日記を書いてみましょう。
8.紙の上にペンを走らせる音にじっと耳を傾けるのは聴覚系を鍛えます。
このように、日記を書く習慣は、脳を育てるのに抜群の効果を発揮します。ぜひ続けてみましょう。
■トレーニング3:脳の刺激の「宝庫」である会社で鍛える
日曜日の夜、「あぁ会社に行きたくない」と思う人は少なくないでしょう。
しかし、日記を書くのと同様に、会社に行くことはまんべんなく脳を成長させるエサ(刺激)の宝庫です。
1.嫌な上司はもっともウェルカム。感情系のトレーニングになります。
2.無茶ぶりする先輩の仕事は理解系を鍛えます。
3.難しい案件であるほど思考系が鍛えられます。
4.報告しずらいことを上司に伝えるのは、伝達系を育てます。
5.満員電車での通勤は確実に運動系を鍛えていますし、データ入力も運動系の向上に。
6.仕事を間違えずに進めるためには、記憶系は必須です。
7.機嫌の悪いお局様の様子を察知するのは、優れた視覚系。
8.聴覚系が鍛えられると、一度言われたことがしっかりインプットされ、ミスが少なくなります。
自分の業務や人間関係に当てはめて、大いにアレンジしてみてください。「今、どの脳に栄養が行ってるかな?」と考えてみると、より強化されやすくなります。
毎日、お給料をいただきながら脳をぐんぐん育てられると考えれば、会社は天国ですね!
生きていくことすべての行為は、脳に刺激を与えています。物事に積極的になり、新しいことに挑戦し、「楽しい!」と感じながら行うことで、理想の脳ができてくるのです。今の脳の状態を知り、楽しくセルフデザインしてみてください。
加藤俊徳(かとう としのり)先生
株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。米国ミネソタ大学放射線科MR研究センター研究員などを経て、1992年、脳白質線維の活動画像法を国際学会で発表し、PCローターバー博士(2003年ノーベル医学生理学賞受賞者)に認められ、その後、脳個性の可視化に成功し「脳の枝ぶりMRI画像法」として実用化。個人や企業、組織の脳教育アドバイスなども行う。『めんどくさいがなくなる脳』(SBクリエイティブ)、『8つの脳タイプ』(マガジンハウス)、『発達障害の子どもを伸ばす 脳番地トレーニング』(秀和システム)など、著書多数。
Illstration / chao!