こんにちわ。インドが好きなIT翻訳者&エディターの松本恭です。
第1回目、第2回目では、瞑想を始めるようになったきっかけを振り返ってみました。第3回目からは、これまで体験してきた瞑想について、ひとつひとつ掘り下げていきます。「ちょっと試してみようかな」と気軽に思ってもらえるようなエッセンスをお届けできればと思います。
今回は、インドのヨガの大家で、世界各地で平和活動を行っているシュリシュリ・ラヴィ・シャンカール師から教わった、とても簡単だけど効果がある瞑想をご紹介します。
今年の4月、日印友好交流年記念事業の一環としてインド大使館がオーガナイズしたシュリシュリ・ラヴィ・シャンカール師の講演会に参加し、簡単な瞑想レッスンを体験しました。とてもシンプルですが、目からうろこが落ちるような、重要なポイントを含んだ瞑想メソッドです。
シュリシュリ・ラヴィ・シャンカール師について少し説明しておきます。インドには多くの精神的指導者がおり、彼もその一人です。現在、最も有名な一人だと言ってもいいと思います。瞑想や呼吸法を通して心身のストレスを取り除くために、世界各地の紛争や災害に見舞われた地域、そして刑務所などを訪れ、指導を続けています。また多くの国際機関にも招かれています。
ちょうど講演会の直前に、議員会館でヨガ議員連盟が発足し、その発足式に参加してきたところだと語りました。ヨガ議員連盟メンバーである高鳥修一議員によれば、座ったまま簡単にできる「デスクトップ・ヨガ」を教えたそうです。
このように、シュリシュリさんは、インドの古代思想であるヨガや瞑想を現代社会に取り入れることができるよう、非常にシンプルにカスタマイズしているのが特徴です。私が講演会で教わったのも、忙しい合間に簡単に実践できるメソッドでした。
本来ヨガは、輪廻からの開放を目指して人里離れた清らかな場所で修行する体系なので、その教えに厳密に従うと、現代社会の暮らしにそぐわない面も多々あります。シュリシュリさんは、伝統的な教えを今の時代に馴染むよう解釈しなおして伝えています。
講演会で教わった方法も、どこでも簡単に「軽い瞑想状態」に入ることができるテクニックです。また、大事なことですが、瞑想状態から出るための方法についても説明がありました。瞑想が終わったあと、素早く通常の状態に戻るというのは大事なポイントで、いつまでも瞑想状態に入っていないほうがいいのです。すっと入り、すっと戻るというのが理想です。
Point!
いつまでも瞑想状態を引きずらないほうがよい
会場の照明が落ち、ほんのりとした柔らかい光で瞑想レッスンがスタートです。「目を閉じて、体の力を抜いて」というガイダンスから始まります。リラックスして、集中しようとしないように、という言葉に続き、両手をぶらぶらと揺さぶるよう指示されます。「手をぶらぶらと揺さぶって。それから足も、そして無理のない範囲で、頭もゆらゆらと振ってください」東京大学の大きなホールを埋め尽くす参加者全員が、ぶらぶら、ゆらゆらと揺れます。
講演会の様子 © Kyo Matsumoto
3分ほど続けた頃、突然シュリシュリさんが「ストップ!」と声を掛けます。「手を膝の上に置き、ひとつ、ふたつ、と静かに呼吸を数えてください」。そのまま5分ほど呼吸を数えたら、終了の合図があり、両手で顔をこするよう指示されます。
Point!
(1) 目を閉じてリラックス
(2) 両手、両足、頭をぶらぶらと揺らす
(3) すべての動きを止める
(4) 呼吸を数える
以上がシュリシュリ・ラヴィ・シャンカール師による簡単な瞑想レッスンです。10分程度の短い瞑想体験でしたが、終わった後は満ち足りた雰囲気に包まれ、周囲の空気が穏やかで落ち着いたものに変わりました。顔をこすった後は、深い眠りから覚めたような気分でした。
印象的だったのは、「リラックスしなさい。瞑想は集中することではない。集中は、瞑想した結果、訪れる状態です」という言葉です。瞑想しようとがんばっている状態は、実は瞑想から遠ざかっているというのは重要な指摘です。そして、瞑想状態から出たあとに、いい感じの集中状態がやってくるというのも体感します。
Point!
瞑想は集中することではない。瞑想の結果として集中が訪れる
さらにもう一つ、非常に役立つポイントが、瞑想する前、体を揺らす「動」から入るところです。普段の意識の状態から、瞑想という「静」の状態に入ろうとしても、雑念が浮かびうまくいかないこともあります。そこで、いったん体を揺さぶるという「動」のアクションを取り、その反動を利用して一気に「静」の瞑想状態に入るというメソッドです。忙しい時間の合間に試すにはうってつけだと思います。
Point!
「動」から一気に、「静」の瞑想に入ると体感しやすい
まだ日本ではあまり知られていないシュリシュリさんですが、私は彼の名を以前から耳にしていました。ガンジス河のほとりの聖地バナーラスは、そこで死を迎えると幸福な来世に行くことができると考えられており、死を待つためにやってくる人々がいます。
インドの財閥のひとつ、ダルミア・ファミリーの寄付によって運営されているのが、「ムクティ・バヴァン」と呼ばれる、死を待つ人々のための家です。医学ではもう対応できない状態になった人々が、心安らかに旅立つための施設です。
ここで出会ったある若いエンジニアから、シュリシュリ・ラヴィ・シャンカール師とその教えについて聞きました。いかに信仰心の篤いインドとはいえ、最愛の人との別れを前に、多くの人は呆然としたり、泣き崩れたりします。ところが、ビジャイ・シンという30歳くらいのこの男性は、目前に迫った母の死を受け入れ、すでに覚悟を定めており、澄み切った表情で毅然として母親の思い出を語ってくれたのです。彼が最期に語った言葉が深く記憶に残っていました。
「私のような若い世代は、まず豊かな生活を手に入れ、それからスピリチュアリティを求めます。生活に困っていてはスピリチュアリティに関心を持つことができませんから。人は人生を平和に過ごしていれば、さらに価値あるものを求めます。社会的地位や経済的安定も大切です。そうして、これらを超えたものとは何か考えたとき、道を求めるのです」
彼の話を聞きながら、インドの新しいヨガの潮流を感じていたのですが、まさに、シュリシュリ・ラヴィ・シャンカール師がガイダンスした瞑想法は、忙しい今の時代の時間の流れに休止符を打ち、頭と心を休め、自分の内側と対話するために役立つ重要なエッセンスを含んでいると思います。簡単なメソッドなので、ぜひ試してみてください。
>>第1回「初めて出会った瞑想、なぜ楽しかったのか?」を読む
>>第2回「インドで一番気持ちがいい! ブッダが悟った場所」を読む